2011 Fiscal Year Research-status Report
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23750028
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Research Institution | Institute for Molecular Science |
Principal Investigator |
安池 智一 分子科学研究所, 理論・計算分子科学研究領域, 助教 (10419856)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 界面光分子科学 / 励起状態 / 電子寿命 / 開放系 / クラスターモデル / 共鳴状態 |
Research Abstract |
密度汎関数法に基づく量子開放系電子状態計算プログラムの高効率化を行い,数十原子からなる開放系モデルクラスターの計算を可能とした.具体的にはまず,(1) Sakurai-Sugiura 法の導入によって Kohn-Sham Fock 行列の対角化計算の並列化を行い,数十万次元数十根の複素対称行列の対角化問題を安定に解けるようにした.Sakurai-Sugiura 法の実装に関連して (2) Poisson 方程式の求解において疎行列に対する直接解法を適用し Hartree ポテンシャルの計算の高速化に成功した.また,(3) 線形応答計算に必要な行列要素の評価における積分計算についても並列化を行い,大きな開放系モデルクラスターの励起状態計算が可能となった.効率化されたプログラムを用いて,大きなモデルクラスターを用いたベンチマーク計算を実行した.対象としたのは詳細な実験結果のある Cs/Cu(111) 系で,特に興味が持たれるのは Cs の被服率の低い極限で励起エネルギー3.0 eV に観測される励起状態である.CsCun (n=1, 7, 13, 19, 31) クラスターの計算の結果,開放系電子状態理論を用いることで,Cs/Cu(111) 系は CsCu13 という小さなクラスターで適切にモデル化されることが明らかとなった.線形応答計算の結果,3.0 eV に存在する励起状態は Cu 基板から Cs(5dσ) への励起であることが明らかとなった.この状態は従来 Cs(6spσ) へのであるとされてきたが,近年 Cs(5dσ) への励起の可能性が指摘されていたものである.また,この状態の電子寿命は 42 fs と計算され,実験値の 50 fs を定量的に再現する.このように界面分子の励起状態は,開放系電子状態理論によって低い計算コストで適切に記述できることが明らかとなった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では光機能界面の機能設計を視野に入れたシミュレーションの基板技術の確立を目的として,本研究代表者が最近開発した開放系電子状態理論に基づく第一原理電子状態計算プログラムの拡張をはかり,光の関与する界面分子素過程の理論解析を低い計算コストで実現可能とすることにある.本年度は,主に計算プログラムの並列計算機能の大幅な拡充を図り,実在系の計算を可能とすることに主眼を置いた.研究実施計画において掲げた効率化手法を全て実装したのち,さらに Poisson 方程式の求解における大幅な効率化にも成功した.このように高度化されたプログラムを用いて Cs/Cu(111) 系に対するベンチマーク計算を行い,励起エネルギーや電子寿命の定量的な計算に成功した.現在は数十万次元数十根の問題を日常的に扱えるようになっており,光機能界面で重要な遷移金属を含む酸化物表面への適用が視野に入ってきている.よって現在までの達成度としては,おおむね順調に進展していると判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画では,本年度は表面水平方向への周期性を導入することによって開放系スラブモデルの計算を可能とすることを第一の目的として掲げていた.しかしながら,実用上有用な光機能界面は (1) 必ずしも周期境界条件を満たすような well-defined な界面ではないこと,それよりも寧ろ,(2) 酸化物表面のような基底状態で電荷が分離した系を適切に記述できることが重要であるということを認識するに至った.このため,Madelung ポテンシャルに埋め込まれた開放系クラスターモデルの開発の方が時節に適っていると判断し,本年度はこの開放系埋め込みクラスターモデルの計算を可能とするようなプログラムの開発を中心に研究を進め,早い時期に酸化チタン上の色素分子の問題を扱い,色素増感太陽電池の高効率化に資するような色素分子の設計指針の確立を目指す.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初予定していた計算資源の確保に際して,計算機価格の低下が予想以上に進んだことによって,次年度使用額が45万円ほど発生した.それと併せて開発したプログラムの計算規模が大幅に上昇したこともあり,(大型計算機などの利用で計算資源を補える)実際の計算自体よりも,計算結果の可視化に必要な現有デスクトップ型 PC の方の処理能力の限界の方が問題となる傾向にある.このため,次年度使用額も併せた50万円ほどでデスクトップ型 PC の更新を行う.また高性能な可視化ソフトウェアの導入と消耗品に30万円程度,旅費には25万円程度を充てる予定である.
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Research Products
(6 results)