2011 Fiscal Year Research-status Report
内殻軌道から2つの電子が電離した分子に関する理論的研究
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23750029
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Research Institution | Institute for Molecular Science |
Principal Investigator |
田代 基慶 分子科学研究所, 理論・計算分子科学研究領域, 特任助教 (10447914)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | 内殻電離 / X線自由電子レーザー / 放射光 / オージェ電子 |
Research Abstract |
分子の内殻軌道から2つの電子が電離した状態[二重内殻イオン化状態、Double Core-Hole(DCH)状態]は、最近になって実験的に生成・検出できるようになった新規な電子状態である。我々や他グループの理論研究によると、DCH状態のイオン化エネルギーは1電子内殻イオン化エネルギーよりも電離サイト近辺の環境に敏感であり、分析技術としての利用も期待されている。我々はDCH状態生成・消滅の素過程を理論的に理解することを目標として本研究を進めている。初年度の研究実績は以下の通りである。1. DCHサテライト状態: 分子のDCH状態が生成する際には最安定な状態(main line)だけでなく、外殻電子が励起した状態(サテライト状態)も生成する。我々は、DCH状態生成時の光電子スペクトラムをN2、COについて計算し、DCHサテライト状態の電子配置を特定した。我々の結果は実験結果を良く再現しており、DCH状態の場合はサテライト状態に対する多電子励起の寄与が大きいことなどを明らかにできた。2. DCH状態の崩壊によって生じるAuger電子スペクトル 摂動的な手法を用いると、DCH状態は2段階のAuger崩壊により消滅する可能性が高い。我々はDCH状態崩壊によって生じる2つのAuger電子の運動エネルギー分布を幾つかの小さな分子(NH3,CH4,H2COなど)について計算し、スペクトルに存在するピークの同定を行った。なお、DCH状態のAuger電子スペクトラム全体を計算できるのは現時点で世界でも我々のみであり、実験結果の解釈などで実験グループとは積極的に共同研究を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度研究計画にある課題3項目中2項目を達成した。1項目については未達成であるが、替わりに次年度以降の計画にある課題に着手し前倒しして達成することができた。したがって、全体としては概ね計画通りの達成度であると判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度以降は、二重内殻イオン化状態のX線発光を通じた崩壊過程の理論的検証を行う。特にAuger崩壊モードとの競合に注目し、実際に実験で観測可能であるか調べる予定である。我々のこれまでのAuger電子運動エネルギー分布の計算では振動・解離の効果を考慮していなかったので、核運動がAugerスペクトルにどのような影響を及ぼすのかなども調べる計画である。他にも、二重内殻イオン化状態の生成断面積の入射X線エネルギー依存性、X線自由電子レーザーを意識した二重内殻イオン化状態生成・消滅のシミュレーションなどを進めて行きたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初の研究計画では初年度にワークステーションを購入する予定であったが、手持ちの計算機資源で充分間に合っていたために購入を見送った。今後はより多くの計算機パワーを必要とする可能性が大きいため、次年度にワークステーションを購入する計画である。また、成果発表等に利用するためのノートパソコンを当初計画通りに購入する予定である。国外で開催される学会での講演が既に決定しているため、旅費としても研究費を使用する。
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Research Products
(9 results)