2011 Fiscal Year Research-status Report
テーラーメイドな電子状態の変調を指向した芳香族・反芳香族性デヒドロアヌレンの開発
Project/Area Number |
23750033
|
Research Institution | Gunma University |
Principal Investigator |
加藤 真一郎 群馬大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (70586792)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
Keywords | 共役環状分子 / 反芳香族性 / 超分子化学 / アセチレン |
Research Abstract |
sp-sp2混合混成系に縮合多環構造が骨格融合した化合物として,フェナントレンが縮環したデヒドロ[12]及び[18]アヌレンを合成し,光学的・電気化学的性質などを,各種測定と理論計算により多角的に検討した。その結果,対応するデヒドロベンゾアヌレン類と比較して,フェナントレンが縮環した化合物においては,HOMO-LUMOギャップの減少,熱的安定性の向上,芳香族性・反芳香族性の増大が確認された。また,クロロホルム中で自己会合することを見出し,二量化を仮定して自己会合能を定量評価した。さらに,適切な溶媒条件下において,[12]アヌレンはマイクロベルト状,[18]アヌレンはマイクロ・ナノファイバー状超構造を形成することが観測された。デヒドロ[12]アヌレンの単結晶X線構造解析に成功し,J会合様式でアヌレン同士が積層していることを明らかにした。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では,縮合多環構造とsp-sp2混合混成系を複合化した共役電子系を創出し,有機エレクトロニクス材料としての新たな物質群として位置づけることを目標としている。デヒドロアヌレン環にフェナントレンが9,10位で縮環した化合物において,芳香族性・反芳香族性の支配因子として,環外周部の芳香環の大きさではなく,デヒドロアヌレン環に関与する結合の次数が重要であることを見出し,デヒドロアヌレンの化学において基礎的かつ重要な知見を提供することができた。特に,結合次数が大きな位置で縮合多環骨格をデヒドロアヌレンと融着させる手法は,安定な反芳香族化合物の合理的な分子設計になり得る。また,合成したデヒドロ[12]及び[18]アヌレンが,縮合共役系の存在に基づく自己会合特性を発現し,超構造を形成することを明らかにし,応用展開を拓くことができた。更に,ナフタレンが縮環したデヒドロアヌレン類の自己会合能を精査することにより,混成系の様式と自己会合特性の相関についての新たな実験的視座を提供することができた。デヒドロアヌレンを配位子とした金属錯体,すなわちd-pi共役系の構築や,デヒドロアヌレンからキノイド構造を有する縮合共役系化合物への分子変換法の開発は,今後の課題である。
|
Strategy for Future Research Activity |
デヒドロアヌレン骨格を基盤とした新たな共役電子系を開拓する分子設計として,1) 縮合共役系の拡張,2) デヒドロアヌレン環の拡張,3) 環外周部における共役系の拡張が考えられる。今後は,これらの1)と2)に力点を置いて合成と物性を検討する。すなわち,ピレンを4,5位でデヒドロアヌレンに縮環させた化合物を合成する。ピレンの4,5位は,フェナントレン9,10位と同様に高い結合次数を有するため,標的化合物においては中程度の反芳香族性・芳香族性の発現が期待できる。また,拡張した縮合共役系の寄与により,小さなHOMO-LUMOギャップを示すことが予想され,これらの磁気的,電子的性質を各種スペクトル測定と理論計算により検討する。さらに,これらの化合物は高い自己会合能を示すことが予想され,超構造の形成とその構造の同定の検討を,走査型電子顕微鏡や広角X線,表面X線測定により詳細に行う。縮合多環構造の連結ユニットとして,これまでのジイン結合からテトライン結合へと拡張し,デヒドロ[20]及び[30]アヌレン環の構築に挑戦する。これまで,テトライン結合を有する共役環状分子の合成例は非常に限られており,デヒドロ[20]及び[30]アヌレンの合成は,構造有機化学の観点から極めて意義が大きい。アセチレン結合が伸長することによる電子的性質,及び自己会合特性の変化を明らかにしていく。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
23年度では,合成したデヒドロアヌレンを新たな基質として位置づけた反応開拓に要する試薬の購入,および合成上で必要な特殊器具の購入を行わなかったために,次年度使用研究費が生じた。24年度においては,後述するような反応開拓と固体物性の探索についても,新規デヒドロアヌレン類の合成と同様の比重で検討を行う予定である。23年度に引き続き,新規なデヒドロアヌレン類を合成するための汎用試薬,触媒,および溶媒の購入費として使用する。特に,先述の通り新たな反応開拓のためには試薬のスクリーニングを行う必要があり,消耗品費として多くを使用することが予想される。また,一部の器具,例えば真空ポンプなどの購入費としての使用や,固体物性の探索のための器具,例えばスピンコーターや,電界効果トランジスタ基板の購入などについても計画している。その他,各種学会参加費として利用する。
|