2011 Fiscal Year Research-status Report
新規なキャビティ型ジアルキルホスフィン配位子の開発とその合成反応への応用
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23750036
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
佐瀬 祥平 東京工業大学, 理工学研究科, 助教 (90515165)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | ホスフィン / 配位子 / 遷移金属錯体 / 触媒反応 |
Research Abstract |
配位金属に対し「周縁立体効果」をもたらすような、キャビティ構造を有するジアルキルアリールホスフィンを開発し、それを配位子としたパラジウム触媒クロスカップリング反応を検討した。キャビティ構築の基本骨格としては、メタフェニレンデンドリマー骨格を活用し、デンドリマーの世代および末端芳香環上の置換基の異なる4種のキャビティ型ホスフィンを合成・単離した。これらホスフィンの性質を調査したところ、リン原子のシグマドナー性の差は小さい一方で、デンドリマーサイズの大きなホスフィンほど空気中において酸化をうけやすいことがわかった。このことは、リン原子周縁の立体環境がホスフィンの性質に大きな影響を及ぼすことを強く示唆している。また、2価パラジウムを有するホスフィン錯体を合成し、X線構造解析によりその構造を明らかにすることができた。 次に、パラジウムを触媒とした鈴木-宮浦カップリング反応によりこれらホスフィンの配位子としての性能について評価を行った。4-ブロモアニソールおよびフェニルボロン酸を基質として検討を行ったところ、いずれの配位子の場合でも目的のビアリールは得られたが、触媒活性に大きな差が見られた。すなわち、デンドリマー世代が小さいものの方が、大きなものよりも高い活性を示した。触媒活性とリン原子のシグマドナー性に有意な差が見られなかったことより、本反応で見られた活性の違いはデンドリマー骨格に基づく立体的特性に起因するものと推察される。なお、キャビティ構造を持たないジメチルフェニルホスフィンを配位子として同条件下反応を行っても、ビアリールは全く得られなかった。このことは、キャビティ構造が活性の発現に大きく寄与していることを示している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度は、1)様々なキャビティサイズを有するジアルキルビアリールホスフィンの合成、2)キャビティ型ジアルキルビアリールホスフィンを有する遷移金属錯体の合成、3)キャビティ型ホスフィンを用いたクロスカップリング反応、の3点について研究を実施する計画であった。研究実施の概要で述べたように、本年度は4種の様々なキャビティサイズを有するホスフィンの合成に成功し、そのパラジウム錯体を合成するとともに、その構造を明らかにした。さらに、これらホスフィンを配位子として用いた鈴木―宮浦カップリング反応を検討することで、配位子により触媒活性が大きく変化することを示すことができた。以上のように、おおむね当初の計画どおり研究を遂行できていると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
第一に、23年度に合成に成功した4種のキャビティ型ホスフィンを活用することで、パラジウムを触媒としたクロスカップリング反応についてより詳細な調査を行う。まず、より反応が進行しにくい塩化アリールを基質としてボロン酸誘導体との反応を検討する。23年度における予備的検討において、ピリジン誘導体を補助配位子として添加すると収率が改善されることを見いだしている。そこで、この添加効果も活用することで、より高活性な触媒活性種の創製を目指して検討を行う。また、ホウ素のみならず、マグネシウム、亜鉛を有する有機金属反応剤を用いることで、キャビティ型ホスフィンの配位子としての特性を多角的に調査する。また、キャビティ型ホスフィンの構造についてより詳細な議論を行うために、それを配位子とするパラジウム錯体のX線構造解析を行う。 第二に、キャビティ型ホスフィン配位子をクロスカップリングとは異なる形式で進行する反応についても適用する。前述した触媒的クロスカップリング反応は、酸化的付加、還元的脱離を経る反応である。その一方で、パイ酸として機能することが知られている金、白金のような後周期遷移金属を用いた遷移金属触媒反応においても、キャビティの立体的特性を活かした反応を開発できるものと期待される。そこで、キャビティ型ホスフィンを有するこれら金属錯体を用い、アルケンまたはアルキン部位を有するような基質を用いることで、炭素―炭素多重結合の求電子活性化を伴う反応において、ホスフィン配位子の立体的特性に基づく従来にない選択性を発現させることを目指して検討を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
23年度は、4種のキャビティ型ホスフィンについて合成を達成したが、合成経路および手法を種々検討することで、安価な出発物質から効率的に合成する方法を開発することができた。触媒反応の検討においても、触媒として用いたパラジウム源は2 mol%と少量で反応が進行する条件を見いだした。また、反応条件の最適化に用いた基質は、検討回数が多くなることを見越して努めて安価なものを使用し、微量分析が可能なガスクロマトグラフィーを駆使することで、小さいスケールでの検討を繰り返し行っていた。以上が、当初予定していたよりも研究経費が抑えられた要因である。また、人件費やその他の項目に計上していた予算をほとんど使用しなかったことも次年度使用額が生じた理由である。 次年度においては、先の推進方策で述べたように、開発したキャビティ型ホスフィンの配位子としての性質を多角的に調査することを目的としている。そのためには、様々な遷移金属錯体を用いる必要があると同時に、多種多様な反応基質について検討を行わなければならない。よって、研究を遂行する上で前年度に比して薬品類に多くの費用がかかると考えられる。次年度請求額は、これら薬品類を入手するために有効に使用する予定である。
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Research Products
(13 results)