2011 Fiscal Year Research-status Report
超原子価カルコゲン結合を縮環させたアセンの合成と高機能分子材料への展開
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23750041
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
田嶋 智之 岡山大学, 環境学研究科, 講師 (90467275)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 有機硫黄化合物 / 有機半導体 / アセン / ヘキサチオペンタセン / 一重項酸素 / 光触媒 / ウエットプロセス / 太陽電池 |
Research Abstract |
ヘキサチオペンタセンは、無置換のペンタセンとは異なり安定な化合物であり、半導体特性を有することから、有機トランジスタとしての応用も検討されている。しかし、一般的な有機溶媒に対して溶解性が低く、溶液中のスペクトルデータは収集されておらず、性質の検討が為されているとは言い難い。本研究では,ヘキサチオペンタセンにデンドロン型置換基を導入し、溶解性の向上を達成した。1,2,4-トリクロロベンゼン中、ペンタセンデンドリマーに過剰量の単体硫黄を作用させ、38時間加熱したところ、ヘキサチオペンタセンデンドリマーを合成することに成功した。1H, 13C NMR, DEPT, HMBC, MALDI-TOF MS, Vis-NIRスペクトル、および元素分析により、ヘキサチオペンタセンデンドリマーの構造を決定した。興味深いことに、今回得られたヘキサチオペンタセンは、これまでの報告と異なる付加位置の1,6,7,8,13,14位付加体が得られた。得られたヘキサチオペンタセンデンドリマーは緑色の化合物であり、可視領域に幅広い吸収を持つことが示された。 酸素雰囲気下、α-テルピネンのトルエン溶液に1mol%のヘキサチオペンタセンデンドリマーを加え、80分間、高圧水銀灯照射を行ったところ、対応する一重項酸素付加体であるascaridolを97%の高収率で得た。同様に、酸素雰囲気下、1-ナフトールのトルエン溶液に1mol%の5bを加え、80分間、高圧水銀灯照射を行ったところ、1,4-naphthoquioneをconversion 52%, 収率100%で得た。また、ヘキサチオペンタセンデンドリマーを加えない場合、ascaridolや1,4-naphthoquioneは得られなかった。この結果は、一重項酸素増感剤としてヘキサチアペンタセンが働くことを示した初めての例である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、ペンタセン、ヘキサセンの様なアセン系のπ分子に対し、硫黄やセレンといったカルコゲン元素の単結合・多重結合、超原子価結合を介し、長波長領域に強い吸収を有すとともに、ウエットプロセスでの取り扱いが可能な高い溶解性、混和性を示す有機半導体材料(ヘキサカルコゲナアセン類)の開発を重点的に行うことを目的として設定した。初年度は、ヘキサチオペンタセンにデンドロン型置換基を導入した、新規構造のπ共役系分子の合成に成功した。合成した分子は、ベンゼン、THF、クロロホルム、トルエン、クロロベンゼン、酢酸エチルなどの溶媒に対し、高い溶解性を示した。そのため、従来では固体状態でした取り扱えなかったヘキサチオペンタセンを、本研究によって溶液プロセスで用意に扱うことができるようになったことを示し、溶液プロセスで応用していくという本研究の目的と一致する。また、置換基については、デンドリマー型以外にも、アルキル基、ベンジル基など多種多様な種類の官能基を持つ、様々なヘキサチオペンタセン誘導体の合成について成功した。このように、硫黄とペンタセン骨格が生み出すポリチアペンタセン類に関しては、多くの誘導体を合成することに成功した。特に、可溶化に成功したことにより、溶液中の性質について詳細に検討できるようになったため、これまでに報告例のなかった一重項酸素増感機能を明らかにすることができた。今後は、溶液プロセスでのFET特性ならびに有機薄膜太陽電池へ応用を行う。
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Strategy for Future Research Activity |
これら様々なカルコゲン元素を導入したヘキサカルコゲナペンタセンについて、UV-Visスペクトルや、CV測定、理論計算等の手法を用い、導入された元素が硫黄、セレン、テルルと変化したことで、酸化還元電位や吸収スペクトル、HOMO-LUMO準位にどのような変化が現れているのか、系統的に明らかにし、超原子価結合を組み込みπ拡張した分子の分子設計技術としての礎を確立させる。また、液晶性のヘキサチオペンタセンとして、長鎖アルキル鎖を持った分子の合成も行い、高い電荷移動能を発現させるための、分子技術を構築させる。特に、本研究の初年度で合成に成功した分子は、ウエットプロセスで用いることができる初めてのヘキサカルコゲナペンタセンであり、その特性を活かしたFET特性ならびに有機薄膜太陽電池へ応用を行う。 ヘキサセンやヘプタセンは不安定であり、その単離例は少ないものの、合成を試みた例は多く、様々な前駆体が報告されている。すでに報告されているヘキサセンキノン誘導体に対し、単体硫黄を作用させ、対応するアセンの発生と引き続き起こる硫化反応により、ポリチアへキサセン、ポリチアヘプタセンの合成検討を行う。困難な場合には、P2S5など他の硫化剤についても検討する。単体硫黄での芳香環化反応が難しい場合は、キノン部位をOHに還元し、単体硫黄存在下、SnCl2などの試薬を加え、発生したアセン類と硫黄が反応するような条件で合成反応を行うことも考えている。得られた分子の構造をX線構造解析や理論計算、各種NMRにて詳細に検討し、その分子構造を明らかにする。これら、ヘキサチアアセンについては、アセン部の長さが5、6、7個と長くなったことで、吸収スペクトルや酸化還元電位にどのような影響がでているのかを詳細に検討し、超原子価結合を組み込みπ拡張した分子の分子設計技術としての礎を確立させる
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度に検討する予定であった合成した分子のFET特性ならびに有機薄膜太陽電池への応用について、設備環境と整え、予備的実験を行うために、平成23年度にいくつかの備品を購入しようとしたが、タイの大洪水により、いくつかの重要な部品をつくっている日本の企業の工場も被害を受け、納品予定の見通しがつかなかったため、年度内に備品を納品をすることができなかった。そのため未使用額が多くなってしまったが、合成予定の分子の合成は計画案の通り、平成23年度に成功した。 今年度はFET特性ならびに有機薄膜太陽電池への応用について注力を注ぎ、FET特性ならびに有機薄膜太陽電池評価に関する設備に研究費を使う予定である。特に、FETや太陽電池などナノ界面における電子構造を詳細に研究するには、半導体材料の界面をうまくつくりあげる必要がある。こでは、ナノ界面の主役となる、半導体層界面に酸素や水が吸着してしまうと、電子やホールを運びにくい状態に変化してしまう。そこで不活性ガス雰囲気下でのデバイス作製のために、酸素計(90万円前後)、水分計(90万円前後)やスピンコーター、さらに低温装置(100万円前後)などの購入を考えている。
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