2011 Fiscal Year Research-status Report
二種類の活性結合を持つ新しい金属/ケイ素錯体の反応性の解明と触媒への応用
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23750053
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
小室 貴士 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (20396419)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 金属/ケイ素錯体 / η3-α-シラベンジル錯体 / モリブデン錯体 / タングステン錯体 / 含酸素有機分子 / Si-C結合切断 / ヒドロシリル化 / 触媒反応 |
Research Abstract |
本研究では,ケイ素と二つの芳香環炭素の三つの原子がη3-型で金属に配位する新しい結合様式を持つ,η3-α-シラベンジル錯体(中心金属:モリブデン(錯体1),タングステン(錯体2))の反応性に関する研究を発展させるとともに,当該錯体を触媒とした反応の開発についても検討した。特に今年度は,錯体1,2と含酸素有機分子との反応を重点研究対象とし,主に下記1,2の成果が得られた。1 錯体1,2のケトンおよびアルコールに対する反応性の解明 モリブデン錯体1とベンジリデンアセトンとの反応では,η3-シロキシアリル錯体が高収率で得られた。一方,タングステン錯体2にベンジリデンアセトンを反応させると,C=O結合切断が起こり,{η4-メチル(スチリル)ケテン}(シロキシ)錯体が主生成物として得られた。いずれの場合も,シラベンジル配位子の配位芳香環炭素の解離を伴って反応が進行するが,中心金属の違いにより最終生成物が変化することを見出だした。次に,錯体1,2と2-ヒドロキシピリジンとの反応では,どちらの場合もシラベンジル配位子のSi-C結合切断が起こり,M-Si-O-C-N五員環構造を持つピリジルオキシシリル錯体が生成した。以上の結果から,基質の種類により当該錯体に含まれる二種類の活性結合(Si-C結合,芳香環炭素の配位結合)のいずれかが選択的に開裂することで反応が進行することを明らかにした。上記の知見は,1,2を用いた有機ケイ素化合物の新しい変換反応の開発に応用できる可能性があり,有用性が期待される。2 モリブデン錯体1を触媒としたケトンのヒドロシリル化反応の開発 触媒量の錯体1存在下でアセトンと第三級シランとの反応を行なったところ,C=O結合のヒドロシリル化が進行し,イソプロポキシシランが生成した(触媒回転数:14)。この結果は,当該錯体を触媒とする反応開発の端緒となり,意義が大きい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
昨年3月に起こった東日本大震災により,研究施設(実験装置類,測定機器類を含む)が壊滅的な被害を受けたため,今年度前半期は,ほとんど実験研究を行なうことができなかった。そのため,当初予定に比べて研究計画を縮小せざるをえず,交付申請書「研究の目的」欄記載の実施予定課題「シラベンジル錯体のケイ素上の置換基の違いが反応性に及ぼす効果を明らかにする研究」に着手できなかった。 その一方で,「研究実績の概要」項で述べたように,シラベンジル錯体の含酸素有機分子に対する反応性と触媒活性に関する研究では,当該錯体の二種類の活性結合いずれかの開裂に基づく特異な反応性を明らかにすることができた。 以上現在までの状況に基づき,本研究は当初の予定よりもやや遅れていると判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までの研究により明らかとなったシラベンジル錯体の反応性および触媒活性に関する研究(「研究実績の概要」欄参照)について,さらに発展させ,より広範囲の種類の基質分子(不飽和炭化水素,含窒素有機分子など)を対象として研究を推進する。また,前年度着手できなかった「シラベンジル錯体のケイ素上の置換基が異なる(例えばメトキシ基を持つ)類縁体を合成し,その反応性を比較する研究」についても併せて検討する予定である。さらに,得られた研究成果の学会発表および論文発表について,今年度は不十分であったため,次年度はできるだけ多くの成果報告ができるよう努力する所存である。 以上の研究課題について効率良く実施するため,研究代表者および2名の研究協力者(研究代表者の所属研究室の学生)から構成される研究体制において,下記の通り役割を分担する。1 研究代表者:研究の統括,研究論文の作成および投稿,国際学会での成果発表2 研究協力者(1):モリブデンおよびタングステンのシラベンジル錯体の様々な有機分子に対する反応性および触媒活性に関する実験研究,国内学会での成果発表3 研究協力者(2):シラベンジル配位子のケイ素上の置換基を換えた類縁錯体の合成,構造および反応性に関する実験研究,国内学会での成果発表
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
1 物品費:金属/ケイ素錯体(空気中の水・酸素と反応して分解)の合成・反応に関する実験研究遂行のため,必要となる実験器具,原料試薬,脱水溶媒および不活性ガスなどの消耗品の購入に使用する。また,NMR試料管中での小スケールの反応追跡実験を行なうための重水素化溶媒およびNMR試料管の購入経費として支出する予定である。2 旅費:研究代表者および研究協力者(2名)の国内外の学会における研究成果発表のために使用する。3 人件費・謝金:研究補助者のための人件費として使用する予定である。4 その他の経費:研究成果投稿料,修理費用(ガラス器具・機器類)および依頼分析経費として支出する予定である。
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