2012 Fiscal Year Research-status Report
希土類-遷移金属複合錯体における単分子磁石挙動の系統的理解とその発展的改良
Project/Area Number |
23750056
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
岡澤 厚 東京大学, 総合文化研究科, 助教 (30568275)
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Keywords | 磁性 / 分子性固体 / 単分子磁石 / 低温物性 / 4f-3d系 |
Research Abstract |
本研究課題では、究極的な分子サイズメモリの候補であり、量子効果の観点からも興味の持たれている「単分子磁石」について、引き続き系統的な化学修飾による化合物群の開発とその物性評価・化学的傾向の理解を進めている。 これまでに、類似の構造を有する4f-3d系三核錯体[DyMDy] (M = Pd, Cu, Ni)で中心の遷移金属イオンのスピン数が大きくなるにつれ単分子磁石性能が向上することを明らかにしている。本年は、このシリーズで最も性能の良い[DyNiDy]錯体に着目して、ニッケル(II)イオンの磁気異方性を変化させた錯体を合成し、ランタノイド―遷移金属イオン間交換相互作用とゼロ磁場分裂定数D (およびE)を調査した。具体的にはNiのアキシャル配位子をピリジンからメチルイミダゾールに替えた物質の合成に成功し、その磁気挙動および高磁場高周波数電子スピン共鳴測定を行った。交換相互作用はほぼ0の値を取り、ゼロ磁場分裂定数はピリジン体より大きな値(+4.3 K)を取った。ゼロ磁場での磁化緩和はピリジン体よりも抑えられ、ブロッキング温度は3.0 Kと見積られた。詳細な結晶構造解析から、Dy周りの配位環境がバタフライ型に歪んだ捩れ四角柱構造を有していることが分かり、これが単分子磁石性能の向上につながったと考えられる。 この他にも[LnNiLn] (Ln = Gd, Tb, Dy, Ho)の化合物で、4f-3d間交換相互作用のランタノイド依存性を明らかにし、Dy体での異常性について詳細を解明しつつあり、近く論文として報告する予定である。 光異性化基の導入は途上であり、次年度で引き続き検討が必要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度は、4f-3d系錯体について希土類イオン―遷移金属イオン間の磁気的相互作用に関する化学的傾向を明らかにしてきた。特に、高磁場高周波数電子スピン共鳴による測定手法と磁気測定とを合わせて、銅(II)やバナジル(II)のS = 1/2の系だけでなくランタノイド―ニッケル間相互作用についてまで拡張可能であることを示せた。 光異性化部位を [DyPdDy]錯体に導入する研究は、現在進行中であり来年度も引き続き行う必要がある。一方で、[DyNiDy]錯体のアキシャル位をピリジンからメチルイミダゾールに変更した錯体の合成に成功し、その単分子磁石性能を明らかにした。ランタノイド周りの配位構造がバタフライ型の捩れ四角柱であることを示し、これが今後の単分子磁石性能向上を目指した検討すべき分子設計指針の一つであると提案するに至った。
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Strategy for Future Research Activity |
[DyNiDy]錯体の単分子磁石性能は金属イオン間の交換相互作用の大きさよりも、ランタノイドイオン周りの特徴的構造が重要であることが分かってきた。今後は、Dy周りの末端配位子を様々に変えた物質開発へと展開することで、効率よく性能向上を目指せると期待される。 また、光異性化部位を [DyPdDy]錯体へ導入することを検討していくが、別のアプローチとしてカウンターイオンとして導入する方策も考え、研究を推進していく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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