2011 Fiscal Year Research-status Report
らせん高分子を用いた高効率不斉増幅を特徴とする触媒的不斉合成反応系の開発
Project/Area Number |
23750126
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
長田 裕也 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (60512762)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | らせん高分子 / ポリキノキサリン / 不斉増幅 / 不斉反応場 / 乳酸 / 水溶性 |
Research Abstract |
近年、らせん高分子に関する研究において、モノマーの鏡像体過剰率よりもポリマーのらせん方向過剰率が高くなるという不斉増幅現象が知られていたが、不斉反応場としての利用は困難であった。本研究では、剛直ならせん構造を有するポリキノキサリンに着目し、不斉増幅現象を利用した高選択的不斉触媒として応用することを目的としている。今年度の研究においては、天然に多く存在し安価で入手可能なキラル源としてL-乳酸に着目し、ポリキノキサリン側鎖への導入について検討を行なった。L-乳酸エチル構造を側鎖に有するジイソシアノベンゼン誘導体を合成し、ニッケル錯体を開始剤として用いることで重合を試みたところ、重合はリビング的に進行し、狭い分子量分布で目的とするポリキノキサリンを得ることができた。側鎖の乳酸エチルの鏡像体過剰率を50%まで低下させて同様のポリキノキサリンを合成したところ、らせん方向過剰率は90%と高い値を示し、らせん高分子による不斉増幅を確認することができた。得られたポリマーを水酸化ナトリウム水溶液で処理したところ、側鎖のエステル部位の加水分解が起こり、水溶性のポリキノキサリンを得ることができた。さらに、そのらせん構造は加水分解前から反転しており、右巻き構造を有していることが明らかになった。本研究によって安価な光学活性な乳酸構造をポリキノキサリンの不斉源として適用可能であることがわかり、さらに、低い鏡像体過剰率のキラル源を用いたとしても高いらせん方向過剰率でらせん高分子を得ることができることが明らかすることができた。これは、不斉増幅現象を応用した新たな不斉反応場の構築に繋がる成果であると考えられる。さらにポリキノキサリンの水溶性化にも成功しており、水中での不斉反応への応用にも期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究では高い不斉増幅効率を持つ剛直ならせん高分子を設計し、わずかな不斉の偏りを増幅し、高選択的不斉触媒として応用することを目的としている。本年度の研究計画として、「側鎖に低鏡像体過剰率のキラル側鎖を有する一方向巻きポリキノキサリン」と「不斉分子・不斉表面と相互作用可能な置換基を側鎖に持つポリキノキサリン」の合成を目指した。まず、側鎖に低い鏡像体過剰率の乳酸構造(40%ee)を導入することで、高いらせん方向過剰率のポリキノキサリン(90%se)の合成に成功した。また、同様の手法を用いて側鎖にアキラルなカルボン酸構造を有するポリキノキサリンの合成にも成功している。このポリキノキサリンの水溶液に、不斉分子として光学活性な酒石酸を加えることで一方向巻きらせんが誘起されることも見出している。また、従来のポリキノキサリンでは、有機溶媒のみに可溶であり水には不溶であったが、今回合成したポリキノキサリンは水溶性を示し、ポリキノキサリンの応用範囲をさらに拡大することができたものと考えられる。以上より、本研究は当初の計画以上に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の研究によって低い鏡像体過剰率のモノマーを用いてらせん方向過剰率の高いポリキノキサリンを得ることができた。今後の研究においては、ポリキノキサリンにプロキラルな側鎖を導入しキラルな刺激を与えることで、主鎖のらせん不斉の制御について検討し、最終的にポリキノキサリンに触媒機能部位を導入し、不斉増幅に関する知見に基づいて、低い鏡像体過剰率の不斉源から、高い鏡像体過剰率の生成物を得る一般的な方法論の確立を目指したいと考えている。これまでの研究において、ホスフィン部位を有するジイソシアノベンゼン誘導体を共重合することで、一方向巻きポリキノキサリンが不斉配位子として機能することが分かっており、これを利用した触媒機能の付加を検討する。また、今年度の研究で得られた一方向巻きかつ水溶性を示すポリキノキサリンを用いた、水中での不斉反応場の構築についても検討を行いたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究を進めるに当たって必要な施設・機器はすでに所有しており、特段の高額機器の追加購入は必要としない。次年度の研究費の大部分は、らせんポリマーの合成に必要不可欠な有機合成用試薬や汎用有機溶媒に関わるものである。旅費としては、情報収集や本研究に関連する研究者との討議のための国内旅費を計上している。またその他の費用として、論文作成の際の英文校正にかかる費用も計上している。
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Research Products
(15 results)