2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23750133
|
Research Institution | Nara Medical University |
Principal Investigator |
松平 崇 奈良県立医科大学, 医学部, 助教 (20570998)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
Keywords | クモの糸 / タンパク質 / 電気泳動 / 分子量 / 紫外線 / SDS PAGE |
Research Abstract |
本研究の目的は、クモの糸がなぜ紫外線に強い特異的な性質を持つのかを明らかにすることである。そのために、紫外線に弱い絹糸と劣化メカニズムを比較する。当該年度では(1)クモの牽引糸を大量収集する方法を確立すること、(2)紫外線照射に伴う分子量変化の追跡を行うこと、の二点を達成目標としていた。項目毎に成果を報告する。(1)当該年度において、報告者は研究機関近隣のジョロウグモの生息地の分布調査を行った。また、クモの腹から効率的に牽引糸を得るために、採糸方法の改良を行った。従来の方法では、電池式のモーターにより金属製のフレームにクモの糸を巻き取っていたが、巻き取るスピードが遅く、分析に必要な量の糸を集めるには長時間の作業が必要であった。当該年度において報告者は、電気ドリルを用いることで採糸効率を大幅に上昇させ、88匹のクモから133.1 mgの糸を採取することに成功した。各種測定に十分なサンプル量を集めることができたと評価できる。(2)報告者は採糸したクモの牽引糸について、分子量の測定方法を確立した。クモの牽引糸は一般によく用いられるほとんどの溶媒に不溶であり、一般的な分子量測定法をそのまま適用することができないが、高濃度のリチウム塩水溶液に溶かした後に必要な処理を行えば、電気泳動法により分子量測定を行うことができることを見出した。報告者は、当該年度において紫外線照射前後のクモの糸と絹糸の分子量測定を行い、クモの糸は絹糸のわずか0.60倍の紫外線劣化速度しか持たないことを明らかにした。また、クモの糸タンパクに対する紫外線照射により生成したペプチド断片が不連続な分子量分布を示したことから、クモの糸タンパクは部位特異的に切断されている可能性を示した。これらの成果を取りまとめ、高分子学会において発表を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では3段階の達成目標を立てている。(1)牽引糸の効率的な採糸方法の確立、(2)紫外線照射に伴う糸タンパクの分子量変化の追跡、(3)紫外線耐性に関与している残基の解明である。交付申請書の研究実施計画では、うち(1)と(2)の達成を当該年度の目標としていた。(1)生体高分子を研究対象とする際にまず問題になるのは、分析に必要な量のサンプルを確保することである。絹糸の採糸方法は確立されているが、クモの糸の糸束を得るには困難を伴う。当該年度において報告者は、88匹のクモから133.1 mgの糸を取り出すことに成功した。1回の分子量測定に必要なサンプル量は1~2 mg、アミノ酸分析に必要な量は5 mgほどであるため、紫外線照射前後に異なる試料が必要であることを考慮に入れても、当該年度だけで複数回の測定に必要なサンプル量を得ることができた。従って、目標は達成されたといえる。(2)クモの糸と絹糸の紫外線による切断のされ方を比較するために、紫外線照射前後の分子量測定を行う。当該年度では、糸タンパクの濃度減少速度から紫外線分解反応の速度定数を算出し、絹糸の方がクモの糸よりも切れにくいことを数量的に明らかにした。加えて、糸タンパクの紫外線分解により生じたフラグメントの分子量を測定し、クモの糸タンパクはランダムに切断されるのではなく、切れやすい部分と切れにくい部分があることが分かった。分子量測定により、切断様式を絹とクモで比較するという目標が当該年度で達成されたと評価できる。(3)紫外線照射前後のアミノ酸組成分析を行うことで、紫外線感受性の高い残基を明らかにする。当該年度において、クモの糸のアミノ酸組成分析はまだ行われておらず、次年度の課題である。以上、3段階の目標のうち、計画通りに2つまでが達成された事を報告する。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成23年度に得られた成果を基にして、平成24年度はクモの糸において紫外線により分解されやすいアミノ酸残基を特定し、クモの糸の高い紫外線耐性メカニズムを解明する(達成目標(3))。絹糸タンパクにおける紫外線感受性の高いアミノ酸残基については既に報告があり、UV-A*(~325 nm)に対してはSer、Tyr、Pheが分解され易いことが明らかにされている(A. Kuwabara, et al., J. Seric. Sci. Jap., 39, 281-284 (1970))。同様の実験をクモの糸に対して行い、紫外線感受性の高い残基を特定する。アミノ酸組成の分析機器は所属研究機関に無いため、委託測定を行う。アミノ酸組成分析は絹糸タンパクについて報じられている通り、塩酸により加水分解を行った後、色素で修飾してHPLCにより分析する手法が一般的である。分析を委託する場合、糸タンパクを加水分解して提出することになるが、クモの牽引糸は加水分解を受けにくいため、クモの糸タンパクに対して同じ条件でサンプリングができるかわからない。最適な加水分解反応条件の探索に時間を費やすことになるだろう。光感受性の高い残基が特定されればアミノ酸配列と照らし合わせることでどういう切れ方をするかが分かり、なぜクモの糸が高い紫外線耐性を持つのかという問いに対し、答えが得られると考えられる(目標(3)の達成)。また、平成24年度は、平成23年度と同様に積極的に学会で成果発表を行うと同時に、クモの糸の紫外線による劣化機構について得られた結果を取りまとめ、成果を科学論文に投稿する。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
<消耗品について> 紫外線照射装置(SUNTEST CPS/CPS+)は研究機関で所有しているが、付属のランプ(\20,000)は約8,000時間で寿命を迎える。一度の実験で約100時間の連続的な照射を行うため、80回で交換が必要となる。時年度はUV-A*、UV-B*、UV-C*発生用のランプが寿命を迎えるため、交換が必要である。試薬購入に使用する研究費の内訳の主なものについては以下の通り。電気泳動用ゲル(\20,800×10枚)、染色キット(銀染\12,000, CBB\7500)、分子量マーカー(高分子\23,700, 低分子\20,000)。採糸装置を自作するための費用として、電気ドリル代金(\20,000)が計上される。論文を投稿する雑誌は未定であるが、Chem. Lett.誌の料金(2頁50部\20,000)と大きな差異はないと考えられる。<旅費、謝金等について> クモからの採糸には技術と時間が必要である。報告者一人で必要量を集めるのは難しく、クモが成熟する時期(夏~秋)に、補助員を雇用し採糸を依頼することで研究の効率化を図る。6~11月にかけて、週3日、日給8,000円で雇用すると年間576,000円となる。対外発表として、1年間で2回の国内学会発表、1回の国際学会発表、2報の論文投稿を想定している。アミノ酸組成分析は23年度の研究目標の達成には必須の測定であるが、測定装置を所有していないため分析委託費用が生じる。1サンプルの測定に必要な費用が\70,000であり、6サンプルで\420,000を要する。
|