2011 Fiscal Year Research-status Report
単結晶内ホストーゲスト化学を基盤とした機能性結晶マテリアルの開発
Project/Area Number |
23750146
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
猪熊 泰英 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (80555566)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 細孔性錯体 / 単結晶 / X線結晶構造解析 / 固相反応 |
Research Abstract |
本年度では、分子ホストケージ及びカプセルを構成単位とした細孔性ネットワーク錯体を用いて、溶液化学と同様に単結晶内でも2分子反応を行うための反応場と特異反応を開拓した。 正八面体型M6L4ケージを無限配列したネットワーク錯体に4-ヒドロキシジフェニルアミンを包接させたところ、アミノ基を立体保護する形で4分子のゲストがケージユニットに包接された錯体が得られた。この包接錯体の結晶をイソシアン酸エチルの溶液に浸したところ、結晶内では求核性の低いヒドロキシル基でアシル化反応が化学選択的に進行することが分かった。 また、このホストによる基質の包接作用を利用して、単結晶の試薬カプセルネットワークの合成にも成功した。ネットワーク化分子カプセルの錯体にイソチオシアン酸メチルを包接すると、この分子はカプセルの空孔内に強く認識・包接された。この包接錯体は結晶を単に溶媒に浸しても内部の試薬を放出することは無く、非常に揮発性の高いゲストでさえも安定な固体試薬として扱えることが分かった。一方で、アニリンなどのアミン分子を細孔内に導入することで、カプセルから試薬が供給され、効率的にチオ尿素が生成することが分かった。 さらに、単結晶内反応とX線結晶構造解析を組み合わせることで、2分子反応における反応機構の解明にも成功した。ジエンを有する細孔性錯体に対し、マレイイミド誘導体を細孔内に包接させたところ、ジエンと親ジエンが近接した位置でプレオーガナイズした構造が得られた。この錯体結晶を加熱したところ、それぞれの相対配置から予想された通りのジアステレオ選択性で、Diels-Alder生成物が得られた。これの反応による一連の構造変化を全てX線結晶構造解析により明らかにすることに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
結晶内のホストーゲスト化学を基盤とした単結晶の機能修飾という本研究課題において、H23年度の研究では細孔性錯体を「特異な反応場」として見ることで非常に顕著な成果が出せたと考えている。ホスト能を持つ錯体の創成と、そこにゲスト分子を包接するという基本的な手順の開拓に留まらず、選択的反応や「単結晶試薬カプセル」の創成といったユニークな結果を示すことにも成功した。これらの結果は、今後、研究計画以上に大きな展開を望めるものであり、予想以上の進展があったと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度に大きな進展が見られた、単結晶内での反応場創成に関してさらなる発展を目指すとともに、当初の計画にあるような、タンパク包接や電気化学的刺激によるゲスト分子の出し入れに関して研究を進める。 特に、巨大ゲストの包接に関しては、溶液化学との親密な連携を基軸に研究を進める。本研究で扱う細孔性ネットワーク錯体は、すべてその部分構造を単分子として切り取り、溶液中で同じ分子環境を再現することが可能である。そこで、巨大ゲストの包接条件や機能の発現方法などを溶液化学で詳細に突き詰めながら、その情報を単結晶に転写するという方法で、タンパクや金属ナノクラスターの包接に応用させたい。そして、機能発現の面では、酵素や金属クラスターの触媒作用にフォーカスした研究を行いたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
結晶構造解析装置などのインフラ設備は所属する研究科に十分なものが整っているので、直接経費のおよそ半額を試薬や硝子器具などの消耗品の購入に充てる。また、次年度は最終年度であるため、研究成果を国内外の学会において発表するための旅費として400千円程度を使用予定である。その他、成果の学術論文への投稿料として150千円程度を見込んでいる。
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