2011 Fiscal Year Research-status Report
デバイス化を目指したI-III-VI族半導体量子ドットの粒径制御技術の開発
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23750161
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
上松 太郎 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (20598619)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 半導体量子ドット / サイズ選択光エッチング / 硫化銅インジウム / I-III-VI |
Research Abstract |
半導体ナノ粒子(量子ドット)は、蛍光体としての利用が広がりつつある一方で、次世代の光電変換デバイスへの応用も期待されている。液中で化学合成されるコロイド状量子ドットは、気相成長法によって作製される自己組織化量子ドットと比較して大量生産に向いている。しかしながら、均一な粒子を得ることの困難さや、粒子表面の配位子がデバイス特性に影響を与えるなどの問題があり、これらを使用した実用的なデバイスはほとんど例がない。本研究では、合成条件の工夫や、光を用いた粒子サイズ制御技術「光エッチング」を利用し、均一な粒径と光学特性をもつ量子ドットの調製を試みる。さらに、粒径を制御された量子ドット薄膜を作製し、得られる超格子構造を観察することで、粒径制御の効果を検証する。 本年度は、主に硫化銅インジウムについて研究を行い、ドデカンチオールを配位子とした4 nm程度のやや多分散な粒径をもつナノ粒子を得ることに成功した。光エッチングを行うために、水溶性の配位子への置換を行い、さまざまな組成の水溶液中での、ナノ粒子の光化学的挙動を調査した。光エッチング法は、半導体量子ドットに光を照射したときに起こる自己酸化溶解反応を粒径制御に利用するものである。反応によって、粒子の構成元素の酸化種が生成するので、これを効率よく溶解する溶液条件が必要である。検討の結果、中性水溶液中に塩化アンモニウムを含有させることで、ナノ粒子の溶解が進み、量子サイズ効果によってスペクトルがブルーシフトすることを見出した。しかしながら、エッチング効率を上げるために水溶液の酸素濃度を高めると、暗時でも酸化溶解が起こることがわかり、改善が必要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
合成条件の検討により、平均粒径4 nmの硫化銅インジウムナノ粒子の合成に成功した。最近は、光エッチングに用いるさらに粒径の大きなナノ粒子を合成するために配位子や溶媒についてさらに検討を行った結果、その平均粒径を8 nm程度まで大きくすることに成功している。本研究の一つの課題であった配位子交換による粒子の水溶化は、硫化銅インジウムについてこれまで報告がなく、当初はナノ粒子の凝集や分解を引き起こしてしまい困難であった。対策として、配位子に3-メルカプトプロピオン酸を用い、求核性を増大させる試薬として有機塩基である2-アミノエタノールを用い、各試薬の脱水を徹底することで、ほとんど光特性に影響を与えないまま水溶化することに成功した。 本研究で精密な粒径制御を行う一つの手法として挙げている光エッチング反応は、酸素存在下でナノ粒子に光照射し、発生した電子を酸素へと移動させることで、残ったホールによってナノ粒子を自己酸化溶解させるというものである。粒径の減少によってバンドギャップが増加すると、照射光を吸収しなくなって反応自体が停止する。まず初めに酸化溶解のために必用な条件を検討したところ、リン酸緩衝液中、塩化アンモニウムを含有する溶液中において、ナノ粒子の溶解がスムーズに進行し、凝集物を発生させることなく量子サイズ効果によって吸収スペクトルがブルーシフトしていく様子が確認された。しかしながら、光励起による若干の反応速度上昇は見られたものの、反応の大部分はエッチング速度向上のために導入している酸素への直接電子移動によって起こっており、これまで我々がII-VI半導体ナノ粒子について行ってきたような、バンドギャップの増加を利用した単色光照射による精密な粒径制御を行うためには、さらなる条件の検討が必要である。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度に解決できなかった光エッチングに関わる問題は、硫化銅インジウムナノ粒子の価電子帯上端電位が、電子移動先である酸素還元の電位よりも負側にあることに由来するものと考えている。光反応主体でエッチングを行うためには、価電子帯からの電子移動を防ぎ、光励起によって生成した伝導帯電子のみを酸素に移動させる必用がある。これを実現させるために、次の2つの事を試みる。まずは、電子移動先を酸素ではなく、別のレドックス活性な化合物にする方法である。アクリジン、キノン類や金属錯体化合物が候補として挙げられる。これまでに我々が研究を続けてきた量子ドット蛍光体の蛍光消光に関する知見を利用し、電子移動を効率的に起こす化合物を検討する。もう一つのアプローチとしては、表面配位子をチオール以外のものにし、ナノ粒子のバンド電位そのものを変化させる方法である。チオール基はナノ粒子の電位を負側にシフトさせることが知られており、ヘキサメタリン酸など、別の修飾剤を用いることで、価電子帯から酸素への電子移動を抑制することが考えられる。光エッチングと合わせて、合成時の粒径制御についてもある程度検討を行う予定である。光エッチングに使用する大粒径のナノ粒子を得るために、核発生や粒子成長といったナノ粒子合成時のファクターを制御することで、目的を達成する。超格子構造については、これまで粒径の揃ったII-VI族ナノ粒子を用いて検討を重ねてきた。粒径制御のみならず、粒径に見合ったサイズの配位子(アルキル基の長さ)の選択と、溶媒蒸発速度の抑制が鍵となる。これらの知見をI-III-VI族に活かす。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
必用な機材は本年度の物品購入および研究室保有の機器で十分であるため、次年度予算については物品費の全てを試薬・合成用ガラス器具に費やす予定である。
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