2011 Fiscal Year Research-status Report
原子価互変異性現象を用いた分子性磁性・誘電体の研究
Project/Area Number |
23750164
|
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
金川 慎治 九州大学, 先導物質化学研究所, 助教 (20516463)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
Keywords | 原子価互変異性 / 結晶多形 / 磁気・誘電複合機能 / 光応答性 |
Research Abstract |
本研究はStage 1.VT複核錯体化合物群の合成、Stage 2.VT複核錯体化合物群の構造・磁気および光磁気挙動の測定、Stage 3.VT複核錯体化合物群の誘電特性および光誘電特性の測定の各段階で得られる結果を互いにフィードバックすることで推進することを計画している。本年度は特に上記Stage 1.及びStage 2.について実施した。具体的には、VT複核錯体のターミナル配位子として、キノリン環を1つまたは2つ導入した四座配位子を新規に用い、カウンターアニオンとしてPF6やBF4、ClO4をそれぞれ持つVT複核錯体を合成し、これら化合物群の構造及び磁気測定を行った。その結果、ターミナル配位子の効果として、キノリン環の数が増えることにより磁気的転移温度が低温にシフトすることを見出した。併せて行ったCV測定の結果から、キノリン環の導入はCo二価を安定化することが分かった。この傾向は、VTの転移温度が低温にシフトしたこととよく一致しており、本研究の目的の一つである、転移温度の分子構造による制御に関する知見が得られた。また、合成法を検討する過程で、再結晶を行う温度によって結晶多形が作り分けられることを見出した。結晶構造解析から特に複核カチオン分子のパッキングが異なり、その分子配列はそれぞれhead-to-waist(phase A) head-to-tail (phase B)であった。これらの多形について磁気測定を行ったところ、phase Bにおいては室温付近でヒステリシスを伴った鋭い原子価互変異性挙動が観測された一方、phase Aのサンプルについては緩やかな磁化率の増加しか示さないという、まったく異なる磁気挙動が観測された。さらにはphase Bのサンプルについては誘電率の温度依存性の測定を行い、転移温度付近で磁化率の変化とともに誘電率の異常を示すことを見出した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度において種々のターミナル配位子やカウンターアニオンを持つVT複核錯体化合物群の合成に成功しており、構造解析や磁気測定による分子構造と転移温度の相関について重要な知見を得た。今回得られた結果から、VT複核錯体に関してはさまざまな配位子やカウンターアニオンをもつものについて合成手法を確立できた。また、特に磁気的物性の点に関してVT複核錯体の系で、適当な転移温度を持つ錯体を分子設計に基づいた計画的に合成するための設計指針がある程度得られたもの考えている。また、誘電物性については急激な磁気的転移を示すサンプルの多結晶での測定を行うことで、磁化率の変化とともに誘電率の異常を示すことを見出している。この結果は依然予備的なものではあるが、VT錯体の磁気的転移は金属―配位子間の電子移動に基づくものであり、それと同時に誘電率異常が観測された事は電子移動による誘電特性発現が期待できるということを示しており、重要な結果を得たといえる。一方で、これまで合成に成功したVT複核錯体はいずれも中心対称な点群で結晶化していた。本研究は誘電特性の中でも特に強誘電性の発現とその光応答性を目指していることから、極性点群で結晶化したサンプルの作成、すなわち結晶構造制御は大きな課題の1つである。この点に関しては、同一分子での結晶多形の作り分けを達成できたことは非常に重要な成果である。しかしながら、極性点群結晶の作成は未達であり、さらなる結晶作成手法の検討及び、分子の形状からの結晶構造制御が次年度以降の課題として挙げられる。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度に合成・解析したVT複核錯体類縁体について主に誘電特性の評価を行うとともに、光誘電特性についても検討をおこなう。(Stage 3.)すでにいくつかのVT複核錯体化合物群の合成に成功している。今後は、これらの分子及び結晶構造やスピン状態について得られている知見と誘電特性とを関連付けて評価していくため、誘電特性の測定手法、評価法について確立していく。このような測定を行う過程で得られた情報を逐次Stage 1.の化合物合成に反映し、目的とする外場応答性の分子性誘電体へと展開していく。誘電率測定の手法については既にいくつかの化合物の多結晶サンプルについて予備的な測定を行っており、磁気的転移と関連する誘電率異常が観測されている。これらの測定手法の改良を行い、単結晶での測定や光照射測定を行えるようにしていく。また、現在までに得られた化合物の結果から、同じ分子であっても結晶多形によって原子価互変異性挙動が大きく異なることを見出しており、分子構造のみならず結晶構造の制御も磁気的なスイッチングに重要であることが分かっている。一方で、分子性材料の誘電特性、特に強誘電性の発現にも結晶中で分子が極性構造をもって配列することが重要であることが知られていることから、この点においても結晶構造の制御は本研究において非常に重要な点であるといえる。したがって、より積極的に結晶中での極性を持った分子配列をとるような分子設計を行っていく。具体的には、これまで用いてきた複核錯体が直線型の分子であったのに対し、折れ線型(Λ型)の分子構造をとるような配位子を用いた複核錯体を合成し、その結晶構造制御を達成することを計画している。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究は有機合成によって様々な配位子および錯体の合成を行い、これらを配位子として得られる錯体の磁気挙動、誘電特性、光特性について検討をする。さらに結果のフィードバックを行うことで、新たな分子設計・配位子合成を行いさらなる複合機能磁性体の創出をめざすものである。以上の研究課題を効率的に達成し、またそれらを発表していくために以下のように研究費を使用することを計画している。1.消耗品○薬品類 本研究課題は物質合成が基本であるので相当量の物質原料となる薬品類が必要となる。特に限られた研究期間で成果を実現するためには物質合成の効率化を図らなければならない。したがって、単純な安価な原料ではなく、付加価値の大きい高価な試薬を購入することが考えられる。○ガラス器具等 合成実験に用いるガラス器具には一定頻度で消耗し破損するものや、使い捨てが必須な器具等を用いる必要がある。○冷媒等 磁気特性測定装置、及びクライオスタットを用いた低温での物性測定のために液体ヘリウムと液体窒素が必要である。○測定機器使用料 主に構造解析に用いる超高輝度X線単結晶構造解析装置や粉末X線回折装置、NMRなどの研究所管理の共通機器の使用料を支出する。2.旅費 国内では日本化学会年会や錯体化学討論会、分子科学討論会等に参加し、研究成果の発表及び情報収集を行うための旅費が必要となる。また外国で行われる分子磁性に関する国際会議(ICMM)や錯体化学の国際会議(ICCC)等に参加予定であり、研究成果の発表及び情報収集を行うための旅費を計上した。
|
Research Products
(3 results)