2012 Fiscal Year Research-status Report
原子価互変異性現象を用いた分子性磁性・誘電体の研究
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23750164
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
金川 慎治 九州大学, 先導物質化学研究所, 助教 (20516463)
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Keywords | 原子価互変異性 / 光応答性 / 磁気・誘電複合機能 / ナノ磁石 |
Research Abstract |
本課題はStage 1.VT複核錯体化合物群の合成、Stage 2.VT複核錯体化合物群の構造・磁気および光磁気挙動の測定(=スピン物性の評価)、Stage 3.VT複核錯体化合物群の誘電特性および光誘電特性の測定(=電荷物性の評価)の各段階に研究を分けてとらえ、それらの結果をフィードバックしながら推進している。本年度は主に上記Stage 1.及びStage 2.について、新規化合物の合成と磁気特性評価を行った。 昨年度までに合成したVT複核錯体の磁気特性及び光応答性を詳細に検討することで、この複核錯体が極低温での光照射後にナノ磁石的な磁気緩和現象を示すことを見出した。本複核錯体において観測された磁気特性は、光照射によって生じたコバルト2価イオンに起因する挙動であり、初の光応答性単一イオン磁石を見出したものと考えている。 また、誘電特性発現に重要である極性点群の結晶構造を有する化合物の合成について検討を行った。具体的には結晶構造制御因子として、不斉炭素を有する光学活性なキラル配位子を複核錯体のターミナル配位子に用いた。今回、キラルなターミナル配位子にはマクロサイクリックな窒素系四座配位子を用いて合成を試みた。現在までに光学活性な配位子を得ることに既に成功しており、この配位子を用いたコバルト複核錯体を得ている。 加えて、電子強誘電を示すとして最近注目を集めている、TTF部位を有する原子価互変異性錯体を得ることに成功し、報告した。TTF部位を共役系でフェナントロリンに結合した新規配位子を合成した。この配位子と酸化還元活性な配位子からなるコバルト錯体を得たうえで磁気特性の評価を行った。磁気測定及びIR吸収スペクトルによって、この化合物が熱的に原子価互変異性を示すことが確認された。今後の詳細な物性測定によって、原子価互変異性に伴う電子的な複合的スイッチングがみられるものと期待している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度においては、前年度までに得られた複核錯体において新規の光応答性単一イオン磁石挙動の発見や、キラルなターミナル配位子を持つ複核錯体の合成、及び誘電性または伝導性が期待できるTTF部位を持つ新規の原子価互変異性錯体を得ることに成功しており、新物性の発見と新物質の合成開発という点において成果が得られたといえる。今回得られた結果から、さまざまな配位子をもつVT複核錯体の合成手法に関してさらなる知見が得られたとともに、当該複核錯体系が新たな光応答性ナノ磁石系として大きな期待ができる化合物群であるということがわかった。誘電物性についても、TTF系分子を導入した新規錯体を得ており、この化合物が原子価互変異性による分子内電子移動と誘電性がカップリングした系として発展させるための礎となると考えている。 一方で、本研究は誘電特性の中でも特に強誘電性の発現とその光応答性を目指していることから、極性点群で結晶化したサンプルの作成、すなわち結晶構造制御は大きな課題の1つである。この点に関しては、新たにキラリティを持つターミナル配位子を用いるという試みを行い、配位子の光学分割及び光学活性な複核錯体の合成に成功している。現在のところこの化合物の単結晶構造解析を行うために結晶化の溶媒、温度等の条件検討を行っている。光学活性配位子を用いたこの複核錯体では、目的とする極性点群結晶となっていることが期待できることから、この化合物の構造決定と物性測定が次年度での課題であると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度新たに合成したVT複核錯体類縁体について主に誘電特性の評価を行うとともに、光誘電特性についても検討をおこなう。(Stage 3.)。誘電特性の測定装置や手法、評価法について重点的に検討することで、既に得られている複核錯体の物性評価を推進する。 今回、VT複核錯体が光照射後にナノ磁石としてふるまうことを見出したことから、新規の光応答型ナノ磁石(単一イオン磁石)としてのVT複核錯体を詳細に測定し、単一分子レベルでの磁気―誘電特性について明らかにしていく。 また、光学活性なキラル配位子を導入した複核錯体についての結晶構造決定、磁気測定及び誘電測定を行うことで、分子内電子移動によって生じるダイナミックな双極子モーメントの変化に起因する誘電特性について評価を行う。 加えて、分子レベルの分子内電子移動により方向性を与えて、結晶全体での自発分極を実現する分子設計として、キラルな配位子を用いたうえでCoとMnなどの異なる金属中心を1分子内に有する複核錯体の合成をおこなうことで、ダイナミックな強誘電特性の発現を目指すことを計画している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究は有機合成による配位子合成および種々の複核錯体合成を行い、その磁気挙動、誘電特性及び光特性を明らかとしていく。加えて、得られた物性と分子構造に関する知見をフィードバックすることで、さらなる分子設計・配位子合成を行いより良い複合機能磁性体の創出をめざす。このような研究課題を効率的に推進、発表するために以下のように研究費を使用することを計画している。 1.消耗品○薬品類 本研究課題は物質合成が基本である。このことから相当量の物質原料となる薬品類が必要となる。特に限られた研究期間で成果を実現するため、物質合成の効率化を図らなければならない。したがって、単純な安価な原料ではなく、より目的化合物に近い、付加価値が大きく高価な試薬を購入することが考えられる。○ガラス器具等 合成実験に用いるガラス器具には一定頻度で消耗し破損するものや、使い捨てが必須な器具等を用いる必要がある。○冷媒等 磁気特性測定装置、及びクライオスタットを用いた低温での物性測定のために液体ヘリウムと液体窒素が必要である。特にヘリウムの供給状況の悪化から、液体ヘリウムの購入費用が高額になることが考えられる。○測定機器使用料 研究所管理の共通機器の使用料として超高輝度X線単結晶構造解析装置や粉末X線回折装置、NMRなどの利用料、あるいはSpring-8等外部機関での利用料を支出する。 2.旅費 国内では日本化学会年会や錯体化学討論会、分子科学討論会等に参加し、研究成果の発表及び情報収集を行うための旅費が必要となる。また、Spring-8や分子科学研究所等の外部機関装置を用いた測定等のための旅費を計上した。
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Research Products
(5 results)