2011 Fiscal Year Research-status Report
触媒及び反応媒体の完全回収・再利用によるゼロエミッション型不斉合成システムの開発
Project/Area Number |
23750176
|
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
古野 裕史 九州大学, 先導物質化学研究所, 助教 (90335993)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
Keywords | 環境調和型有機合成 / イオン液体 / キラル希土類金属錯体 / イオン性触媒 / 不斉Diels-Alder反応 / 自己組織化型高分子触媒 / 不斉開環反応 |
Research Abstract |
イオン液体に固定化されることで反応後にイオン液体と同時に回収・再利用が可能な新規不斉触媒として,イオン性置換基を導入した(R)-BINOL誘導体を配位子とするキラルな希土類金属錯体の開発をおこなった。配位子の合成は光学純品の(R)-BINOLを出発原料とし,その3,3'位へのジベンジルメチルアンモニオメチル基の導入を5段階,62%収率で達成した。これを塩基性シリカゲルで処理した後,種々の希土類金属のトリフルオロメタンスルホン酸塩と混合することで,目的の希土類金属錯体を得た。これらをイオン液体のみを反応溶媒とする不斉Diels-Alder反応の触媒として用いたところ,スカンジウム錯体が最も高い活性を示し,その不斉触媒能はイオン液体(特にアニオン部)の種類に大きく影響されることがわかった。反応条件の検討により,目的のDiels-Alder付加体を定量的かつ高立体選択的(エンド-エキソ比 94:6,90% ee)に得ることに成功した。また反応後に生成物,未反応基質などをエーテルを用いて抽出分離しても,触媒はイオン液体中に留まることも確認された。この触媒を含むイオン液体を再度反応に用いることで再利用性を調査したところ,立体選択性は幾分低下するものの,4回目の使用においても目的の光学活性なDiels-Alder付加体が定量的に得られた。一方,(R)-BINOLの3,3'位あるいは6,6'位にスルホ基を導入した新規キラルスルホン酸を合成し,これを多方向性配位子とする自己組織化型高分子希土類金属錯体触媒の開発もおこなった。これらをメソエポキシドのアミンによる不斉開環反応の触媒として用いたところ,高いエナンチオ選択性の発現には至っていないものの,無溶媒条件で目的の光学活性なアミノアルコールが定量的に得られ,高いルイス酸触媒能が確認された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
イオン液体に固定化するために,4級アンモニウム性置換基を導入した光学活性な希土類-BINOL型錯体触媒を合成した。これらをイオン液体のみを反応溶媒とする不斉Diels-Alder反応の触媒として用い,スカンジウム錯体を用いた系で目的の光学活性な付加体を定量的かつ高立体選択的に得ることができた。またエーテルを用いた生成物,未反応基質などの抽出分離操作後も触媒はイオン液体中に留まり,さらにイオン液体と触媒は再利用が可能であることも明らかにした。これらにより,イオン液体中で高い不斉ルイス酸触媒能を示し,かつイオン液体に固定化されるキラルな希土類金属錯体触媒の開発に成功した。一方(R)-BINOLにスルホ基を導入した新規キラルスルホン酸を合成し,これを多方向性配位子とする自己組織化型高分子希土類金属錯体触媒を合成した。これらは無溶媒条件でのメソエポキシドのアミンによる不斉開環反応の触媒として高いルイス酸触媒能を有することが確認された。以上のとおり平成23年度中に予定していた研究は概ね実施でき,また期待される成果も得ることができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
不斉触媒と反応溶媒の同時完全回収・再利用法の確立を重点目標とし,不斉触媒ーイオン液体反応システムの開発を中心に研究をすすめる。昨年までに得られた結果を基に,まずイミダゾリウムなどの脂肪族アンモニウム以外のイオン性置換基の(R)-BINOLへの導入,及び置換基導入位置の検討などをおこない,触媒活性に対するイオン性置換基の立体的・電子的効果について調査する。金属錯体触媒としては一定の成果が得られた希土類トリフルオロメタンスルホネート型錯体を中心に検討するが,他の金属イオンの利用についても柔軟に取り組む。またイオン液体のアニオン部が触媒活性に大きく影響するという興味ある知見が得られているので,この構造活性相関についても詳しく調査し,量子化学計算なども利用して触媒の活性種を明らかにしたい。これは今後の触媒設計の際の重要な指針となると考えられる。開発した触媒についてはその適用範囲の拡大を目指し,Diels-Alder反応以外の種々の触媒反応へ使用する。これらにより,触媒とイオン液体の同時完全回収・再利用を実現する高環境調和型反応システムを開発する。また本システムのフローマイクロ型反応への展開も予定している。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
九州大学先導物質化学研究所に既設の分析装置(NMR,高分解能質量分析装置,赤外分光計,紫外可視分光計,高速液体クロマトグラフ装置,ガスクロマトグラフ装置,X線結晶構 造解析装置,ガス吸着装置等)及び合成・反応関連装置を最大限利用して行うため設備購入は予定しておらず,物品費は主に試薬,溶媒,ガラス器具などの消耗品の購入に使用する。また本年度は海外(イタリア,8月)及び国内での研究成果の発表を予定しており,これらの旅費を支出するよう計画している。なお九州大学中央分析センターの機器(有料)の使用料を支出する可能性がある。
|