2012 Fiscal Year Research-status Report
触媒及び反応媒体の完全回収・再利用によるゼロエミッション型不斉合成システムの開発
Project/Area Number |
23750176
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
古野 裕史 九州大学, グリーンアジア国際リーダー教育センター, 准教授 (90335993)
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Keywords | 環境調和型有機合成 / イオン液体 / キラル希土類金属錯体 / イオン性触媒 / 不斉Diels-Alder反応 / 不斉Michael付加反応 |
Research Abstract |
反応溶媒と不斉触媒の同時回収・再利用を実現する精密合成システムの開発を目指し,イオン液体との高い親和性を有する新規なキラル金属錯体の,イオン液体中での不斉触媒としての機能を評価した。これまでに3,3'位にジベンジルメチルアンモニオメチル基を導入した(R)-BINOL誘導体と,これを装着した種々の希土類トリフルオロメタンスルホネート型触媒の合成に成功しており,特にスカンジウム錯体が不斉Diels-Alder反応のルイス酸触媒として目的の光学活性付加体を高収率,高立体選択的に与えることを見出した。一方で構造的な性質から,本触媒はイオン液体中での配位子の分解が見られ,回収・再利用によってエナンチオ選択性が徐々に低下していくことが確かめられた。 そこで,この分解機構をとれない新規な配位子として,3,3'位にジベンジルメチルアンモニオエチル基を導入した(R)-BINOL誘導体を合成した。これは光学純品の(R)-BINOLを出発原料とし,6段階,全収率21%で達成した。これをキラル配位子とするスカンジウム錯体は,不斉Diels-Alder反応の触媒として高いエナンチオ選択性の発現には至っていないものの,イオン液体中でも高い安定性を有し,回収・再利用の際に有利であることが確かめられた。 また別のタイプのイオン液体固定化型不斉触媒の開発のために,希土類-リン酸ビナフチル錯体のイオン液体中での触媒機能についても調査した。イオン性置換機を有しないキラルなスカンジウム-リン酸ビナフチル錯体を Michael付加反応の触媒として用いたところ,イオン液体中でも高いルイス酸触媒として働くことが確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
イオン液体への固定化と高度に規制化させたキラルな反応場の構築のために,4級アンモニウム性置換基を導入した光学活性な希土類-(R)-BINOL型錯体触媒を合成し,イオン液体のみを反応溶媒とする不斉Diels-Alder反応に用いて機能評価をおこなった。3,3'位にジベンジルメチルアンモニオメチル基を導入した(R)-BINOLを装着したスカンジウム錯体は,光学活性な付加体を定量的かつ高立体選択的に与え,有効なキラルルイス酸触媒として機能することが確かめられた。また3,3'-ジベンジルメチルアンモニオエチルBINOLを有するスカンジウム錯体は,イオン液体中でも高い安定性を示し,回収・再利用時の活性低下に耐える触媒の設計指針を得ることができた。これらは未反応基質などの抽出分離操作後もイオン液体中に留まり,固定化されていることも明らかになった。 また当研究室で開発され,これまで低極性有機溶媒中での高い不斉触媒活性が確認されていた希土類-リン酸ビナフチル型触媒についても,イオン液体中で高いルイス酸触媒として機能することが確認された。 一方(R)-BINOLをキラル骨格とする新規多方向性スルホン酸配位子を有する自己組織化型高分子希土類金属錯体触媒を合成し,無溶媒条件でのメソエポキシドのアミンによる不斉開環反応の触媒として高いルイス酸触媒能を有することも確認した。
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Strategy for Future Research Activity |
不斉触媒と反応溶媒の同時完全回収・再利用法の確立を目指し,不斉触媒ーイオン液体反応システムの開発を中心に研究をすすめる。 これまでに得られた結果を基に,配位子への新たなイオン性置換基,特にイミダゾリウムなどの脂肪族アンモニウム以外の置換基の導入,及び導入位置の検討をおこない,より効果的なイオン性不斉触媒の開発をおこなう。金属イオンとしては,一定の成果が得られている希土類トリフルオロメタンスルホネートを中心に検討するが,他の金属イオン種の利用についても柔軟に取り組む。また反応溶媒として用いるイオン液体のアニオン部の種類が,触媒活性に大きく影響するという興味ある知見が得られているので,この構造活性相関についても詳しく調査し,量子化学計算なども利用して触媒の活性種を明らかにしたい。これは触媒設計の際の重要な指針となると考えられる。開発した触媒については,その利用範囲の拡大を目指し,Diels-Alder反応以外の種々の触媒反応へ使用する。これらにより,不斉触媒と反応溶媒の同時完全回収・再利用を実現する高環境調和型反応システムを開発する。またバッチ式の反応だけでなくフロー式反応についても検討し,大量合成に適用可能な新システムへの展開を目指したい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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