2011 Fiscal Year Research-status Report
電子移動で活性酸素機構を補完するがん光治療用ポルフィリンの開発
Project/Area Number |
23750186
|
Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
平川 和貴 静岡大学, 工学部, 准教授 (60324513)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
Keywords | 光線力学的療法 / ポルフィリン / 電子移動 / 一重項酸素 / タンパク質損傷 / 光増感反応 / DNA / 細胞毒性 |
Research Abstract |
本課題の目的は、がんの光線力学的療法に用いる光増感剤に関する基礎研究であり、当該年度には、新しいポルフィリン光増感剤の設計・合成および、その物性評価を行った。光線力学的療法の原理は、光化学反応による生体分子(DNAやタンパク質)の損傷である。光線力学的療法は、生活の質(QOL)を維持できる治療法として最高レベルであると言われるが、治療効果の向上が課題である。現在の光増感剤は、酸素へのエネルギー移動で一重項酸素を生成し、生体分子を酸化損傷する。一重項酸素が武器であるにもかかわらず、がん細胞は低酸素状態であるため、治療効果が制限される。そこで、酸素濃度に直接依存しない電子移動機構を活用できる光増感剤を設計・合成し、その作用を明らかにすることを目的とした。当該年度は、特に、立体障害が小さく、ターゲットとの相互作用を促進できると予想されるP(V)ポルフィリンで、中心P(V)原子にメトキシ基を有するジメトキシP(V)テトラフェニルポルフィリンを設計・合成した。このポルフィリン光増感剤の基礎的な物性評価を行い、タンパク質との相互作用を水溶性タンパク質のヒト血清アルブミンを用いて検討した。続いて、光増感反応によるアミノ酸残基の酸化損傷を評価したところ、電子移動機構が一重項酸素機構と同程度の割合で寄与することを明らかにした。2つのメカニズムの寄与の定量的な決定法は、当該年度に確立し、本実験に応用した。競合する一重項酸素生成の効率および速度論的評価は、出張実験により、近赤外発光測定から行った。また、ターゲットに酵素タンパク質(アミラーゼ)を用い、タンパク質の化学的酸化損傷のみならず、酵素活性の低下が引き起こされることで、生物学的な損傷にもつながっていることを明らかにした。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の最終的な目標は、がんの光線力学的療法において、低酸素濃度問題を解決できるメカニズムを明らかにすることで、有効な光増感剤の開発につなげることである。当該年度の研究目標は、一重項酸素機構を補完し、電子移動機構で作用するポルフィリン光増感剤の開発と、その物性評価法の確立である。当該年度に、P(V)ポルフィリンの立体障害の効果および中心P(V)原子に結合した置換基の効果を明らかにした。置換基がアルキル基などの場合、立体障害は、電子移動の促進に影響しないことを明らかにした。また、電子吸引性の置換基が電子移動効率を向上させると期待されるが、中心原子に結合した置換基の場合は、ほとんど影響しないことも明らかになった。従って、分子設計を行う上で、中心原子に結合する置換基は、がん細胞内ターゲット生体分子との相互作用向上など、電子移動促進以外の目的のために自由に変更できることを示している。次に、電子移動と従来の一重項酸素機構の寄与を定量的に決定する手法を明らかにした。一重項酸素消去剤を用いて、タンパク質損傷効率を低下させ、そのときの消去作用の速度論的な解析からこれらを決定することに成功した。P(V)ポルフィリンの場合、条件によって電子移動が30~60%程度寄与することが示された。一重項酸素の生成が不利な生体内では、さらに割合が高くなることが予想される。これらの成果は、光線力学的療法用光増感剤の分子設計に重要な指針となる。以上から、一重項酸素機構を補完するメカニズムの評価法の開発や、分子設計に必要な成果が蓄積できたといえ、当初計画通り、またはそれ以上に研究が達成されていると自己評価した。
|
Strategy for Future Research Activity |
本課題の目標は、電子移動機構をできるだけ活用し、がん細胞内生体分子を攻撃可能な光増感剤の開発である。これまでにP(V)ポルフィリンなどの有効性を明らかにし、一重項酸素機構と電子移動機構の寄与を定量化する方法を明らかにした。今後は、光増感剤のさらなる改良のため、吸収波長の長波長化への挑戦とその限界を明らかにする。P(V)ポルフィリンは、置換基を替えることで電子移動効率を向上できる可能性がある。また、吸収波長を長波長側にシフト可能である。そこで、周辺置換基を替えた分子の設計と合成、基礎物性の評価を行い、高活性な光増感剤の設計指針を明らかにする。具体的には、これまでポルフィリンの周囲にフェニル基をもつ分子を合成していたが、ナフチル基への置換やフェニル基への電子供与性の置換基導入を計画している。合成手法は、これまでの方法を利用する。また、光増感剤の作用の評価方法には、これまで通り、タンパク質やDNAなどの生体分子を用いた化学的な物性評価の他、実際にがん培養細胞を用いてその効果を検証する。合成した光増感剤を用い、がん細胞に対する効果を既知の光増感剤と比較しながら検証する。並行して、化学的評価法と酵素活性を指標にした評価法も活用する。また、ターゲット生体分子による活性制御が可能なポルフィリン光増感剤の合成法が明らかになってきたので、その合成と物性評価を合わせて進める。今年度は、がん細胞を利用するため、インキュベーターの購入を予定している。また、合成や分析が本研究の中心となるため、そのための器具や試薬などの消耗品購入を予定している。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究では、ポルフィリン光増感剤の合成、物性評価などの化学的、生物学的実験費用と、その成果発表、情報収集のために研究費を使用する。比較的高額な物品では、培養細胞のインキュベーター(約59万円を予定)の購入を予定している。分子レベルの研究が予定通りに達成されているので、次のステップとして、実際のがん細胞への効果を検証するために使用する。培養細胞を用いる評価は、共同研究者の研究室にて行うが、必要な器具や消耗品の準備を計画している。次に比較的多くの経費を見込んでいるのが、試薬である。光増感剤の合成と物性評価のため、ポルフィリンの原料試薬、合成用溶媒、分析用溶媒(エタノール、緩衝液、重水)、タンパク質、DNAを購入する。さらに、がん細胞への効果を評価するため、培養細胞を購入するが、試薬と同じ経費に計上している。以上、試薬の購入に約40万円を見込んでいる。消耗品費としては、他に論文別刷費を約15万円計上している。成果発表する論文の別刷費用(4~5報分程度)を見込んでの額である。また、実験用消耗品として、合成用のガラス器具、分析用のプラスチック器具(チップ、マイクロチューブ、マイクロプレート、細胞取扱用ピペット類)を購入する。1点当たりの消耗品としては、ガラス器具(1~2万円程度)が比較的高価となる。合計、約20万円を見込んでいる。旅費として、成果発表旅費を情報収集を兼ねた成果発表のため、計上している。主に、光化学討論会(東京)、光医学・光生物学会(神戸)、光線力学学会(つくば)を中心に学会出張旅費を見込んでいる。また、出張実験用旅費として、測定を共同研究者の機関で行うための旅費(つくば、東京)を見込んでいる。合計、約25万円を見込んでいる。以上、合計約160万円を計上した研究計画としている。
|