2011 Fiscal Year Research-status Report
光配向性液晶ナノ構造体の作製と発光デバイスへの応用
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23750213
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
木下 基 東京工業大学, 資源化学研究所, 助教 (40361761)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 光配向 / 液晶 / 発光 / 色素 |
Research Abstract |
本研究では,光配向性色素を用いて液晶有機半導体の配向を精密に制御した構造体を調製し,光学物性や光配向挙動を明らかにするとともに,発光素子へ応用することを目的とした。 本研究を推進するにあたり,光配向性に優れる色素の探索は最重要課題である。これまでに,光配向性色素としてアントラキノンやオリゴチオフェン誘導体が検討されているだけで,光配向性色素に関する分子設計指針が明らかにされておらず,ほとんど探索が行われていなかった。そこで,新しいアプローチとして,光に対して高い安定性を示すレーザー色素を用いて光配向特性について検討を行った。 色素として,クマリン6,クマリン153,クマリン337,キナクリドン,ローダミンB,ナイルレッド,DCMを0.1mol%含む液晶系を調製した。垂直配向させたセル内に封入した液晶系サンプルを調製し,アルゴンイオンレーザーからの488nmの波長の光を入射して,誘起される液晶の配向変化挙動をスクリーン上に形成される回折像を通して調べた。クマリン153,クマリン337,キナクリドン,ローダミンB,ナイルレッドおよびDCMにおいては,全く回折像が観られなかったが,クマリン6を用いると干渉縞が形成されることがわかった。これは,液晶の配向変化に基づく自己位相変調効果によるものである。干渉縞形成は,ある閾値以上の光強度が必要なことならびに,プローブ光の偏波面が,アルゴンイオンレーザーの入射偏波面と平行方向のみに観測されることから,これまでのアントラキノンやオリゴチオフェンと同様な光配向特性を示すことがわかった。それゆえ,比較的,分子長が長いクマリン誘導体を用いることにより液晶を光配向できる系を調製可能なことが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では,光配向できる色素を開発することが,その後のデバイス応用への鍵をにぎるため,色素探索が最重要である。当初,光配向性色素ドープ液晶系の探索および各種物性評価と色素ドープ液晶の光応答挙動の検討という二つの項目から探索する計画を立てたが,オリゴチオフェンをベースとする骨格では,発光性に乏しいことや,光に対する安定性の懸念があることから新しい光配向性色素の探索を試みた。まずは,容易に入手かつ光に対する安定性と高蛍光性を示すレーザー色素から検討した。 色素として,クマリン6,クマリン153,クマリン337,キナクリドン,ローダミンB,ナイルレッド,DCMを用いた。各種色素を0.1mol%含む液晶系を垂直配向させたセルに封入しサンプルとした。サンプルにアルゴンイオンレーザーからの488nmの波長の光を入射して,スクリーン上に形成される回折像から誘起される液晶の配向変化挙動を評価した。 クマリン6以外の色素においては全く回折像が観られなかったが,クマリン6を用いると液晶の配向変化に基づく自己位相変調効果により干渉縞が形成されることがわかった。干渉縞形成は,ある閾値以上の光強度が必要なこと,ならびにプローブ光の偏波面が,アルゴンイオンレーザーの入射偏波面と平行方向のみに観測されることから,従来の光配向性色素と同様な光応答性を示すことがわかった。オリゴチオフェン誘導体を用いた場合には,高光強度入射時には熱による干渉縞の乱れが大きかったが,クマリン6を用いた場合には,熱による影響はほとんど見られなかったことから,蛍光性に優れる色素の優位性が示されたのではと考えている。 したがって,比較的,分子長が長いクマリン誘導体を用いることにより液晶を光配向できる系を調製可能なことがわかった。これより色素探索に拍車が掛かるので,発光性デバイスへの応用展開を容易にする成果と評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
【光配向性色素ドープ液晶系の探索および各種物性評価】本年度は,色素の探索のみならず,光配向性液晶系の効率化を促すために,色々なホスト液晶を使用する。また,液晶および色素に関する各種物性を,示唆走査熱量,紫外可視吸収,赤外吸収,蛍光,酸化還元電位を測定することで多角的に評価することにより,光配向性色素の分子設計へフィードバックする。さらに,重合性モノマーを用いて,薄膜かつ液晶の配向固定化を行い,デバイス作製への応用に向けて,最適な系の調製を行う。色素ドープ液晶の光応答挙動の検討として,ポンプ-プローブ光学系を用いて時間分解測定を行い,色素の励起状態における電子状態の変化および液晶場との相互作用を詳細に検討する。さらに, Z-scan法や過渡回折格子法を用いて非線形光学効果あるいは微小屈折率変化の測定を行い,色素の非線形光学効果が液晶の配向変化にどのような影響を及ぼすか調べる。【光配向性屈折率傾斜構造体を用いた発光素子の作製と評価】ITO基板上にスピンコートによるフィルムを形成させ,光照射により配向を誘起した後,水銀灯を用いて光重合し,系全面の配向を固定化する。次に,陰極を蒸着して素子を作製し,電界印加による発光を小型ファイバ光学分光器により,スペクトルの形状や光強度変化などから屈折率傾斜構造体の発光特性に及ぼす効果について詳細に調べる。【高機能発光素子への展開】サンプルに直線偏光でなく,円偏光を照射して液晶構造体にらせん構造が誘起されるかを検討する。らせん構造が誘起されれば,円偏光発光素子への展開を精力的に行う。また,サンプルの両側から偏波面が直交した光を照射して,サンプル両面に独立した分子配向を誘起されるかを検討する。直交した構造体を調製できれば,サンプル両側面に青や黄色の発光性配向分子を積層した素子を作製し,交流電界励起を試み,発光異方性を利用した発光素子開発を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
23年度は色素探索が効率的に行えたことから研究費の残額が生じたため,24年度は入手可能な色素や液晶材料などの消耗品への配分を増額する。また,鮮明な回折像の写真撮影のためにデジタルカメラおよび開口率の高いレンズを購入する。デバイス作製と発光挙動について詳細に検討するために,消耗品としてITO基板や光学系の配分を増やす。 また,研究の進展を加速させるために,情報の収集,発信,交換のため積極的に技術セミナーや学会に参加し,精力的な研究調査を行うとともに成果発表についても随時行う計画である。国内学会では日本化学会・高分子学会・液晶学会・応用物理学会への参加,国際学会では,フォトポリマーやICOOPMA,ICEAN 2012,SPIE Photonics Westなどへの参加を予定している。
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Research Products
(15 results)