2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23750220
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
松田 真生 熊本大学, 自然科学研究科, 准教授 (80376649)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | スピン転移 / 電界発光 / 有機薄膜素子 |
Research Abstract |
最近、Chlorophyll aを発光分子とする有機電界発光素子に、スピンクロスオーバー錯体である[Fe(dpp)2](BF4)2を導入すると、低温でのスピン転移に伴い電界発光が消失するという他に例のない現象を見出した。同構造の薄膜における蛍光測定においてはChlorophyll aの発光は低温でも消失しないことから、電界発光の消失にはキャリア注入効率や輸送特性の変化が関わっていると考えられるがその詳細は明らかになっていない。本研究では、異なる構造の素子作製と、他のスピンクロスオーバー錯体や発光分子の利用、電気・磁気物性評価と分子軌道の考察という、デバイス作製の工夫と素子特性評価に多方面からアプローチすることによって、スピン転移による電界発光消失という新奇現象の発現機構解明を目指している。低温で[Fe(dpp)2](BF4)2が低スピン状態になりChlorophyll aの電界発光が消失した状態においては、Chlorophyll aの励起状態自体が形成されていないことを既に実験から確認しており、これは活性層に注入されたキャリアがChlorophyll aに入らず活性層を通り抜けていることを示唆する。そこで、キャリアブロック層を導入したところ、電子ブロック層を導入した際にChlorophyll aの発光が低温でも維持されることを見いだした。これは、活性層において電子がChlorophyll aに注入されない状況が電界発光の消失を引き起こしていることを意味する。他の発光材料として、電子輸送性材料を用いた場合には低温でのスピン転移後も電界発光が消失しない結果も得ており、上記のモデルを支持する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
他の発光分子の利用、キャリアブロック層の導入についてはおおよそ当初予定通りに進んでいるが、スピンクロスオーバー錯体[Fe(dpp)2](BF4)2のスピン転移前後での分子軌道エネルギー変化についての考察が進んでいない。身近な手法としてサイクリックボルタメトリからの算出に取り組んだが、[Fe(dpp)2](BF4)2の酸化還元電位を観測することが難しく、エネルギー変化についての知見が得られていない。
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Strategy for Future Research Activity |
Chlorophyll aと類似構造を持つ、TetrabenzoporphyrineのMg錯体やPhthalocyanineのMg錯体を用いた素子作製を行う。いずれの発光材料もホール輸送性であるが、分子軌道レベルは大きく異なる。[Fe(dpp)2](BF4)2の電荷注入レベルとの相対的な位置が変われば、[Fe(dpp)2](BF4)2のスピン転移前後での発光の消失が観られなくなる可能性があり、[Fe(dpp)2](BF4)2のレベルについての知見が得られる。また、新たなスピンクロスオーバー錯体自身の設計を行い、スピン転移と電界発光の相関と新規現象についての探索を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究費の大半は、材料購入費、電極材料購入費、合成器具購入費など消耗品の購入で消化する予定である。なお、今年度購入を予定していた透明電極が、取引業者の更生法適用により適わなかったため次年度使用額が発生している。素子作製には不可欠なものであるので、今年度執行する。
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