2011 Fiscal Year Research-status Report
生体分子の三次元構造を活用した「クロロフィル-希土類錯体」超分子体の開発
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23750222
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Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
片岡 悠美子 奈良女子大学, 理学部, 助教 (00532194)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 光学材料・素子 / 希土類錯体 / クロロフィル誘導体 / 超分子 |
Research Abstract |
本研究では、クロロフィルJ会合体によって構築された三次元ネットワークに発光性希土類錯体を組み込んだ新規「クロロフィル-ハイブリッド型希土類錯体」超分子体を開発している。分子内に適切な構造変換されたクロロフィル色素は、溶媒分子を介在しない高密度に集積したJ会合体「クロロゾーム」を形成する。「クロロゾーム」内部は疎水的環境が予想されるため、クロロゾーム内部にうまく希土類錯体を取り込み、一定の方向に配向することができれば、希土類発光消光がネックとなる水系においてユニークな希土類発光性を示す新たなナノバイオ材料としての応用が期待できる。そこで本研究ではクロロフィル色素の自己会合性を利用して、水系での比較的ソフトな配位子による希土類発光を実現し、外部基質との選択的な配位を伴った希土類錯体超分子体の構造・機能制御を行った。 当該年度は【新規「クロロフィル―配位子」希土類錯体の開発と有機溶媒中での希土類錯体形成挙動の検討】として(1)クロロフィル分子骨格に希土類配位子部位を導入した新規「クロロフィル―配位子」ハイブリッド型希土類錯体の合成、(2)有機溶媒中での分子間相互作用とミセル水溶液中・基板上でのJ会合体形成挙動、希土類錯体形成挙動及び発光特性について検討を行った。 (1)クロロフィル分子骨格に導入する配位子部位配位子として、アニオン性の多座配位子の合成を行った。さらに、有機溶媒中での希土類イオン(3価)との錯体化を行い、化学量論や錯体構造の検討を行った。 (2)クロロフィル分子内の3位にOH基、13位にC=O基を有する亜鉛クロロフィル・亜鉛ポルフィリン誘導体を合成した。それらのクロロフィル誘導体の自己会合性をミセル水溶液中や低極性溶媒中、基板上などで検討し、安定なJ会合体を形成することを確認した。 これらの研究成果は、査読付き論文および国際シンポジウムを含む学会発表において発表報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究代表者は2011年1月1日に立命館大学グローバル・イノベーション研究機構から奈良女子大学理学部化学科に転任した。そのため実験を円滑に進める上で、新たな研究設備備品の購入を必要とするなど、当初の研究計画と異なる状況が生じた。しかし、引き続き、立命館大学の民秋・溝口両博士、大阪市立大の築部・篠田両博士、東北大の柴田博士の支援が得られることから、おおむね順調に進展している。 当初、クロロフィル分子骨格に導入する配位子として、トリポードやビピリジン骨格を有する中性配位子を導入する予定であったが、中性配位子は希土類イオンとの錯体形成能がそれほど強くないため、アニオン性の多座配位子の導入を試みた。アニオン性の多座配位子による希土類イオン(3価)との錯体化を行い、「クロロフィル-ハイブリッド型希土類錯体」の合成に成功した。さらに、「クロロフィル-ハイブリッド型希土類錯体」の化学量論および錯体形成挙動、発光特性を電子吸収・NMR・Mass・励起・発光スペクトル等各種分光法や寿命・量子収率測定などによって検討した。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は【新規「クロロフィル―配位子」ハイブリッド型希土類錯体によるJ会合体の形成とJ会合体による超分子間相互作用の検討】を行う。 TX-100によるミセル水溶液中で、「クロロフィル―配位子」発光性希土類錯体から成るJ会合体を構築する。界面活性剤としてはTX-100の他に陰イオン性のSDS、陽イオン性のCTAB、生体一分子膜であるリン酸脂質や糖脂質などを検討し、希土類イオンをミセル内の疎水的環境にうまく閉じ込める手法を見出す。J会合体の形成に伴って、ミセル水溶液中で強発光性を示す希土類錯体を開発する。さらに、外部配位性基質の添加などによって、希土類錯体部位を立体制御し、希土類配位部位を介した「クロロゾーム」超分子間での複合体の形成を試みる。また、クロロフィル色素によって構成されたJ会合体は、分子間の配向の規則性に依存して、その光学的性質を大きく変化することが予想される。基板上でも同様の検討を行い、それらの三次元構造をAFM画像やラマン分光法によるマッピングなどによって可視化し、短寿命成分であるクロロフィル蛍光と長寿命成分である希土類発光という、2種類の発光体のそれぞれの特性を生かした、新たな光機能性を有する新規ナノバイオ材料を開発する。うまくいかない場合は、配位子部位にカルボン酸などのアニオン性配位部位を導入し希土類イオンとの錯体形成能を向上させ、ミセル水溶液中で強発光性を示す希土類錯体を開発する。さらに、基板上でもJ会合体を構築し、その三次元構造をAFM画像やラマン分光法によるマッピングなどによって可視化する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究代表者は、当該年度の受領した直接研究経費(160万円)のうち支出分(41万円)を最大限に抑え、残り(119万円)を未使用分として次年度へ繰り越した。これは、次年度の研究設備備品として新たに分光光度器(JASCO、FP-8200、185万円)を購入する必要が生じたためである。当初の計画では、現有研究設備(立命館大学・名古屋大学・大阪市立大の研究設備)での実験が可能であった。しかし、2011年に研究者代表者が立命館大学から奈良女子大学に転任したことから、次年度の研究計画を円滑に実施するために奈良女子大学において本研究を遂行していく中で、新たに分光光度器の充当が必須となった。分光光度器は、「クロロフィル―配位子」希土類錯体によるJ会合体の形成とJ会合体による超分子間相互作用の検討を評価する上で必要不可欠である。 次年度の研究費(209万円)[請求する直接研究経費(90万円)+当該年度繰り越し分(119万円)]は、分光光度器の購入および、実験消耗品として近赤外蛍光偏光子(蛍光偏光測定用)と実験試薬類(錯体合成用)の購入に充てる。
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Research Products
(9 results)