2011 Fiscal Year Research-status Report
イオン伝導性酸化物における広帯域導電率測定による格子振動解析
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23750242
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
寺西 貴志 岡山大学, 自然科学研究科, 助教 (90598690)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | イオン伝導体 / イオンホッピング / 格子振動 / 安定化ジルコニア |
Research Abstract |
イオン伝導性酸化物は,優れた環境調和性と高効率発電の観点から,固体酸化物燃料電池(SOFC)用の固体電解質材料としての期待が非常に高く,その実用化に向けた材料開発が活発に行われている.本研究は,イオン伝導性酸化物において,電気領域(kHz~)から光領域(~THz)に及ぶ広周波数帯域での複素導電率測定を用いた格子振動解析により,マイクロスコピックな格子振動挙動とイオン伝導性との関係を定量的に解明することを目的としている. これまでに,イオン伝導性酸化物に適用可能な広帯域導電スペクトル法の開発を行った.標準試料として,代表的な酸化物イオン伝導体であるイットリア安定化ジルコニア(YSZ)およびイッテルビア安定化ジルコニア(YbSZ)を用いた.イオンホッピング伝導の周波数関数を,等価回路の回路パラメータとして導入し,広帯域導電率の理論式を得た.得られた理論式により実測した複素導電率ならびに赤外反射率に対し非線形最小二乗フィッティングした.最終的に,YSZおよびYbSZについて,0.1Hzから100THzに及ぶ超広帯周波数での複素導電率の測定に成功した. 得られた広帯域スペクトルを詳細に解析した結果,安定化ジルコニアにおいて,格子振動パラメータのうちダンピングファクター(格子振動の減衰のしやすさ)が小さくなるにつれ,バルク導電率が高くなる傾向を見出した.実際にYSZとYbSZを比較すると,低周波イオン伝導率(バルク導電率)はYbSZの方が高く,ダンピングファクターはYbSZの方が小さいことがわかった.これまでの成果により,材料の微構造の観点,特に格子振動挙動の観点でバルク導電率の起源を定量的に議論することが可能となったといえる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までに,イオン伝導性酸化物に適用可能な広帯域導電スペクトル法の開発を行うことを研究目的として遂行してきた.従来,低周波のイオン伝導率はバルク導電率とフォノンによる導電率を和した見かけの導電率として評価されてきた.本研究では,独自に酸化物イオン伝導体の等価回路を考え,その回路定数であるバルク成分(キャパシタンス・コンダクタンス)として,イオンホッピング伝導の周波数特性であるUniversal Dielectric Response (UDR)を導入し,すべての伝導機構を同時に考慮した理論式を構築した.この理論式により実測の複素導電率を非線形最小二乗法によりフィッティングすることで,広帯域導電スペクトルの測定に成功している. さらに,得られた広帯域導電スペクトルから,格子振動の解析を行い,格子振動パラメータとイオン伝導性の関係を議論した.実際に,8mol%イットリアを添加したジルコニア(8YSZ)と,8mol%イッテルビアを添加したジルコニア(8YbSZ)を比較したところ,イオン伝導度は既報の結果と同様,8YbSZの方が高い値となった.格子振動パラメータのうち,ダンピングファクター(減衰項)の値にのみ有意な差が見られ,8YbSZが8YSZよりも小さい値となった.イオン半径はYb3+とY3+はYb3+の方がZr4+に近く,そのため立方晶結晶構造の格子歪がYに比べ緩和され,その結果,格子振動の減衰が低減されているものと考えられる.この結果は,見かけのイオン伝導率が格子振動パラメータにより,格子歪の観点で定量的に議論できることを示唆している.平成23年度の目的である広帯域導電率測定法の確立は既に達成しており,さらに格子振動パラメータの観点で一歩踏み込んだ議論をできているという点で,当初の予定通りおおむね順調に進展していると結論付けた.
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Strategy for Future Research Activity |
現在までに,格子振動パラメータのうち,ダンピングファクターがイオン伝導性に大きな影響を持つことが示唆された.これは来年度の課題に向けて大きな手がかりとなった. YSZは安定化剤であるイットリア(Y2O3)の添加量により大きくそのイオン伝導性が変化する.今後は,イットリアの添加量の異なるYSZについて,広帯域導電率測定法による格子振動解析を行う.既報の結果ではイットリアの添加量を増大していくと,Yが8mol%程度まではイオン伝導度が大きくなるということが知られている.イットリアの添加量を変化させ,広帯域導電率測定により格子振動解析を行い,ダンピングパラメータが実際に小さくなるかどうかの検証を行う.さらに,安定化剤の種類に着目し,ホストであるジルコニウムイオンに対してイオン半径の異なる種々のカチオンを添加剤として検討し,格子振動解析を行う. また,現在,実用のSOFCに用いられているジルコニア系電解質材料は,比較的ジルコニウムイオンにイオン半径が近いイットリウムイオン(Y3+)やスカンジウムイオン(Sc3+)などの希土類元素(レア・アース)を安定化剤として添加したものが主流である.国際戦略的な観点から,今後,レア・アースの需要がますます増大するのは必至であり,レア・アースに依存し過ぎないためにも,レア・アースに対する代替的な電解質材料の開発が求められる.定量的に格子歪・格子振動パラメータ・イオン導電率の関係を明らかにすることができれば,添加剤のイオン半径ではなく,格子振動パラメータなどの結晶微構造の観点で,高いイオン導電率を発現するような系を予想することが可能となる.将来的には,コスト面・供給安定性で優れ,かつ高イオン導電率を実現できるような電解質材料を探索していく.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
現在までに,イオン伝導性酸化物において広帯域導電率測定のための測定機器・設備は完備している.今後は,イットリアなどの安定化剤の添加量を変えたり,安定化ジルコニアに様々な添加剤を適用していく.そのため,試料合成に必要な高純度試薬の購入を予定している.また,電気測定で必要な高周波ケーブルやタングステン探針などの消耗品,FT-IRを用いた光学測定に必要な窓剤などの消耗品にも使用予定である.その他,引き続き積極的に研究成果を発信していくため,国内学会や国際学会への発表参加旅費,研究協力者との打ち合わせのための出張・会議費用,論文投稿料として使用を計画している.
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Research Products
(8 results)