2011 Fiscal Year Research-status Report
界面挙動の動的観察に基づく燃料電池用イオン液体の設計
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23750243
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
棟方 裕一 首都大学東京, 都市環境科学研究科, 助教 (00457821)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 燃料電池 / イオン液体 / 界面挙動 / その場赤外分光測定 |
Research Abstract |
燃料電池は、化学エネルギーを直接電気エネルギーへ変換することが可能であり、内燃機関を主体とした現在のエネルギー変換に比べてエネルギー変換効率が格段に高く、大気汚染の原因となる窒素酸化物や硫黄酸化物の排出もないため、地球環境に調和したエネルギー変換デバイスとして注目されている。しかし、現在の燃料電池システムは水が介在しなければ作動せず、加湿設備を必要とするため、どうしても大型になるという問題を抱えている。また、水の蒸発が起こらない100 °C未満の温度で運転しなければならないという制約があり、燃料電池触媒の被毒や触媒反応の過電圧が大きい原因となっている。このような背景から100 °C以上の中温無加湿環境下で作動可能な燃料電池への関心が高まり、その実現へ向けた取り組みが進められている。常温溶融塩はイオン液体とよばれ、高いイオン伝導性、熱的安定性、不揮発性を有することから、燃料電池の中温無加湿作動を実現できる電解質材料として期待されているが、水系電解質と比較して燃料電池の反応が進行し難い点が問題となっている。本研究の目的は、イオン液体中の燃料電池反応を解明し、燃料電池の高性能化へ向けてどのようにイオン液体あるいは触媒を設計しなければならないのかを解明することである。本年度は、電気化学測定と赤外分光測定を複合化させたイオン液体/電極触媒界面のその場測定システムの構築を進め、燃料電池の実作動温度域に対応した測定システムの構築に成功した。また、イオン液体中の酸素還元反応機構を速度論的に解析するために温度を可変できる対流セルを開発し、反応電子数や交換電流密度といった各種電気化学パラメータの温度依存性を明らかにした。燃料電池用イオン液体の設計に必要な知見を得るための基盤技術を確立できたといえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)その場測定システムの改良、(2)中温域におけるイオン液体/白金触媒界面の動的挙動の解析、(3)イオン液体中の酸素還元反応機構の速度論的解析、(4)イオン液体の合成と基礎物性の測定の4項目を具体的な研究内容として研究計画に従って実施した。震災によって部材調達の遅れや夏期の電力使用制限があったため、一部の項目においては検討が十分でない面があるが、おおむね予定通りに研究を進捗させることができた。本研究を開始する以前から設計の一部に着手していたこともあって項目(1)の実施は円滑に進み、項目(2)の界面の動的挙動の解析に早期に着手できた。その結果、室温から中温域までの温度範囲でイオン液体の動的挙動を捉えることが可能となった。温度の上昇に伴って測定のシグナル/ノイズ比が低下する傾向が認められるため、この点の改良が今後の課題である。項目(3)についても円滑に進み、各種の電気化学パラメータを求めることができた。回転リングディス電極を用いた分析を中心に実施したが、次年度に実施する種々の電極材料とイオン液体の組み合わせを評価する上で送液タイプのセルが好適と判断し、その設計と最適化を現在進めている。また、項目(4)として既に合成している各種イオン液体については、動粘度やイオン伝導性といった基礎物性の評価をおおむね終えたが、アニオン構造を変化させた新規イオン液体の合成については進捗が十分でないため、今後特に注力して進める。
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Strategy for Future Research Activity |
構築した分析手法を活用し、イオン液体の物理的性質や化学的性質が白金電極の燃料電池触媒活性にどのように相関するかをより詳しく解析するとともに、今後は白金以外の金属を用いてイオン液体/電極界面の挙動を解明していく。すなわち、これまで行ってきたイオン液体の設計に基づく燃料電池特性の向上を電極触媒サイドからも検討する。中温域ではニッケルなどの安価な金属を触媒として利用できる可能性がある。ただし、各電極材料とイオン液体の界面挙動を評価するためには、各電極材料を赤外分光測定用の窓材に蒸着して電極として機能させる必要がある。この点に関してはH23年度にノウハウの一部を確立したが、さらなる検討が必要であり今後の検討課題である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
H24年度においては、電極材料等の消耗品の購入と研究成果の外部発表にかかる費用のみを計上し、その使用用途を遵守し研究を遂行する。また、震災の影響でH23年度に一部の学会や研究会が開催されなかったため、それらへの参加を目的として計上していた旅費等を繰り越す状況となった。本繰り越し分に関しては、より積極的に研究成果を外部へ発信するために当初の使用目的に従って主に外部発表のため費用とし、一部をイオンの液体の合成に必要な試薬の購入に充てる。
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