2012 Fiscal Year Research-status Report
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23760005
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Research Institution | Gunma University |
Principal Investigator |
後藤 民浩 群馬大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (10311523)
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Keywords | 硫化物半導体 / 硫化すず / バンドギャップ / 光吸収係数 / 太陽電池材料 / 硫化プロセス / ゼーベック係数 |
Research Abstract |
今年度は2元系試料の中で表面平坦性に優れ、太陽電池の光吸収層として適した性質を示した硫化すず(SnS)薄膜を中心に研究を行なった。出発原料の作製手順として、反応容器にすず粉末と硫黄粉末を封入し、硫黄蒸気雰囲気でSnS粉末を形成する。得られたSnS粉末を真空蒸着することで高品質なSnS薄膜を作製した。硫黄粉末量、反応温度を変化させた粉末試料を作製し、真空蒸着法で薄膜した試料について光学顕微鏡を用い表面の平坦性の良い作製条件を調べた。作製した薄膜試料に対して欠陥準位密度の低減するため200℃から400℃の熱処理を施した。 上記の試料に対して、分光透過率、電気伝導、熱起電力、サブギャップ光吸収の各種測定を行ない、光学バンドギャップ、電気抵抗率、多数キャリアなどの基礎物性を調査した。特に熱起電力の測定から熱処理によるゼーベック係数の増加を見出した。ゼーベック係数の絶対値の増加はキャリア密度の減少と対応する。電気抵抗率の熱処理温度依存性と結び付けて考察すると、熱処理によりキャリア移動度の大幅な向上が生じている可能性がある。キャリア移動度の大幅な向上は前年度に観測したギャップ内準位の大幅な減少と対応しており、300℃程度の熱処理が膜の高品質化に有効であることが裏付けられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2元系試料(Cu2S、SnS、Ag2S)の作製とそれらの試料の基礎物性の評価を行なう計画をたて、研究を実施した。金属粉末の硫黄蒸気硫化法と得られた硫化物粉末の真空蒸着による薄膜化の2段階の手法で高品質な硫化物薄膜の作製を行なった。特にSnS薄膜の基礎物性が太陽電池光吸収層として良好であったため先行して作製・評価を行なった。多元系試料(Cu2ZnSnS4など)の作製についてはSnSの研究で得た知見をもとに作製方法を検討している段階である。 基礎物性の評価に関してはバンドギャップ、電気抵抗率の評価を行ない、さらにサブギャップ光吸収で硫化物薄膜の欠陥準位を見積もった。さらに熱処理による特性変化を調べたところSnS薄膜に関して欠陥準位の顕著な減少を見出した。熱処理が特性向上に有効であり、キャリア移動度の大幅な向上につながっていると考えている。このように試料作製条件と高品質化の熱処理条件を見出したことから、これまでの研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
資源戦略に基づく新たな太陽電池材料の探索を目的に研究を推進する。これまでの研究成果として硫化物粉末の真空蒸着で作製したSnS薄膜がp型半導体としての性質を示し、バンドギャップが1.36eVと太陽電池の光吸収層として適していることを確認した。さらに熱処理がSnS薄膜の特性を大きく変えるという知見をもとに、高品質な硫化物半導体薄膜の作製技術の確立と基礎物性の理解を目指す。研究費で購入したラマン分光システムは熱処理による結晶化過程の調査に有用であり、高真空ポンプは膜内の不純物を低減につながることから、今後の研究の進展に役立つと考えている。 バンドギャップ、電気抵抗率、サブギャップ光吸収の結果から太陽電池の光吸収層として適した薄膜を再現良く作製できることを確認した。次年度は実際の太陽電池素子の試作を行ない、硫化物薄膜が太陽電池として動作することを実証する。得られたデータを硫化物薄膜の作製条件にフィードバックし、太陽電池の光吸収層として最適な硫化物薄膜の作製方法を確立する。 高品質な半導体薄膜は太陽電池だけでなくフラットディスプレイの薄膜トランジスタへの応用が期待できる。そこで、硫化物薄膜のキャリア輸送特性の理解と特性向上を進め、薄膜トランジスタの実証を目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
物品の購入として、試料作製に用いる各種試薬(Sn、硫黄など)、洗浄用薬品、薄膜作製に用いる真空蒸着装置に用いる蒸着ボートや配管、ポンプ用オイルなどの真空部品、物性評価に用いる電子部品や光学部品の購入を予定している。 得られた研究成果を発表するため、25th International Conference on Amorphous and Nanocrystalline Semiconductors(ICANS25)および応用物理学会での発表、論文誌への投稿を計画しており、研究費の使用を予定している。
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