2011 Fiscal Year Research-status Report
収差補正電子顕微鏡と第一原理計算による立方晶SiC/Si界面の三次元原子配列解析
Project/Area Number |
23760030
|
Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
山崎 順 名古屋大学, エコトピア科学研究所, 助教 (40335071)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
Keywords | 3C-SiC/Si界面 / 界面構造解析 / 収差補正透過型電子顕微鏡 / 偽像処理 / 第一原理計算 / 積層欠陥 / ミスフィット転位 |
Research Abstract |
3C-SiC/Si(001)界面を、基板の[110],[100]両方向から収差補正透過型電子顕微鏡観察することに成功した。この結果と独自に開発した偽像処理法を組み合わせることにより、積層欠陥の無い領域のイントリンシックな界面構造について、その3次元原子配列を決定することに成功した。この構造モデルでは全ての原子がsp3結合配位に近い結合でつながっており、ダングリングボンドが存在しないためエネルギー的に安定であると考えられる。界面領域の原子配列を詳細に確認したところ、この界面は<110>方向に走るLomer転位と<100>方向に走る部分刃状転位の2次元ネットワークによってヘテロエピタキシャル接合されていることが明らかとなった。このLomer転位芯の原子配列は本研究で初めて実験的に直接観察されたものであり、これまでボンドトポロジーや第一原理計算、収差補正していない電子顕微鏡像から推測されていた構造とは異なるものが形成されていることが明らかとなった。今回判明した結果は、Siと3C-SiC結晶は本質的には積層欠陥を介さずにヘテロエピタキシャル接合可能であることを示しており、結晶成長の制御技術の改善による到達可能点を示したことに大きな意義がある。 また、積層欠陥と界面の接合構造を<110>方向から観察することに成功し、高い確率で接合部と界面ステップが近接して現れることを明らかにした。この結果は、off基板における逆位相境界制御やアンジュレーション基板における積層欠陥密度低減のメカニズム解明に向けた重要な足掛かりとなる知見と考えられる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究目的の第一段階である、3C-SiC/Si(001)界面の積層欠陥を含まない部分の原子配列構造を決定することには既に成功した。[110],[100]の二方向からの観察結果と、三方向目である[001]方向の観察結果が矛盾しないことも確認できた。第一原理計算を用いたエネルギー的観点からの評価は現在遂行中であり、24年度中に結果が出るものと予想される状況である。また積層欠陥と界面ステップの密接な関連性については、既に実験データが取得できており、この解析を進めている段階である。界面領域からの制限視野回折取得はまだ達成できていないため、この部分に関しては計画からの遅れが生じているが、研究計画全体を通しての進捗には大きな影響を及ぼさない内容といえる。
|
Strategy for Future Research Activity |
当初よりの24年度の研究計画に従って研究を進める。具体的には、まず3C-SiC/Si off-axis界面の解析を行い、逆位相境界形成の抑制に有効とされているoff-axis界面を解析し、その原理を原子レベルで解明する。このoff-axis界面は(100)界面と界面ステップ、(111)界面の組み合わせと考えられるため、23年度に得られた結果と総合し、SiC/Si接合界面と欠陥構造の関係について幅広い理解を得る。これについての第一原理計算によるエネルギー的評価も進める。次に界面形成および欠陥形成のメカニズム解明に向けての研究を行う。一般にSi基板上へのSiC膜成長では、まずC原子だけを供給して基板のcarbonization処理を行い、その上にSiC膜を安定成長させる。この初期反応過程が欠陥生成に影響している可能性は高い。そのためcarbonization反応初期で成長を止めた試料を観察し、界面形成途上過程での膜形態(島状か否か)や欠陥形成時期についての情報を得る。次にcarbonization層と安定成長層の差異の検出に取り組む。この2層の間の差異を、(1)元素分析(電子エネルギー損失分光:EELSまたはエネルギー分散X線分光:EDX)、(2)TEM像におけるダンベル強度の揺らぎ(Fig.2の極性)、(3)格子像の歪み検出(Geometric Phase Analysis)、の各手法により検出し、膜形成過程の解明に向けての情報を得る。また研究の進捗状況によっては、現在市場に出回っているサファイヤ基板上6H-SiCについて同様に界面構造解析を行い、3C-SiCとの比較に取り組む予定である。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究計画の申請当初、本研究での第一原理計算遂行に必要となる機器の更新を予定していた。しかし23年度中は欠陥を含まない界面構造の計算に取り組んだため、当初の予想よりも少ない原子数での計算となり、既存のワークステーションを用いた計算で対処可能であった。24年度は積層欠陥と界面の原子配列構造について、実験データとの比較計算を進める予定であるため、これを効率的に行うために新しい計算機器を購入する予定である。1年購入を遅らせたことにより、同等の価格でよりスペックのよいものが購入できると予想される。また当初からの予定通り、本研究における主要実験装置である収差補正電子顕微鏡に不可欠の電子銃フィラメントの更新を行う予定である。
|