2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23760038
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Research Institution | Institute for Molecular Science |
Principal Investigator |
成島 哲也 分子科学研究所, 光分子科学研究領域, 助教 (50447314)
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Keywords | 走査プローブ顕微鏡 / 近接場光学顕微鏡 / 近接場光 |
Research Abstract |
波長の大きさに制限されてきた光学測定の空間分解能は、近接場光の利用により、飛躍的に向上した。通常、この近接場光による測定では、近接場光が照明された領域だけでなく、直接近接場光により照明されていない周辺の領域からの光学応答情報も検出している。本研究では、その近接場光照明の影響が及ぶ領域内の光学応答の空間分布を、近接場測定で検出することにより明らかにし、照明した領域からその周辺へどのように応答が伝搬していくのかを調べる。たとえば、2次元π電子系薄膜であるグラフェンを光で励起すると、キャリアやフォノンが生成される。このキャリアは、通常の半導体のキャリアと比較すると有効質量がかなり小さく、光速の1/300という高速度で移動できる。また、ラマン散乱分光で観測されるG’バンドやDバンドは、遠方の寄与を含んでいると考えられる。したがって、その光励起した領域近傍の、電子状態やラマン散乱光を観測することにより、グラフェン中のキャリアやフォノンの挙動が、エッジの形状や欠陥などにより、どのように影響を受けるのかが分かる。将来的にはそれらの知見をもとに、回路中の電子のように、光励起による応答の流れを自在に扱えるようになるであろう。 2年目にあたる当該年度は、初年度に作製した微小開口構造を持つ金属薄膜/ガラス基板の改良に努めた。これまで、金属薄膜としてアルミニウムを用い、収束イオンビームを中心に開口構造を作製したが、効率を改善するため、電子線描画装置を用いた方法にシフトした。その表面上に金ナノ微小球を配列させて行った実験では、相互作用が伝搬するイメージが得られるものの、基板との相互作用が影響するため、解釈を難しくしている。現在、金属基板表面と試料との間にスペーサ層(石英やITO)を挿入し、試料のみでの伝搬現象の抽出をするための改善を進めいている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2年目にあたる当該年度は、初年度に作製した照明用近接場光を発生する微小開口テンプレート基板を用いて、実際の伝搬現象の測定を開始する予定であった。 金ナノ微小球を配列した実験を行ったところ、当初は想定していなかった、開口テンプレート基板と試料の相互作用が、試料のみでの伝搬現象の抽出を難しくすることが分かった。現在のところ計画全体の遅延はないが、上記の問題をクリアすることが今後の計画の進行を左右すると思われる。現在、金属基板表面と試料との間にスペーサ層(石英やITO)を挿入し、相互作用の低減を行うための改善を進めている。 また、開口テンプレートの作製を効率を改善するため、収束イオンビームで作成する方法から、電子線描画装置を用いた方法にシフトしたが、さらにこの電子線描画により、開口部に重ね合わせて、所望の金属ナノ構造が作製できるようになりつつある。これにより、より系統的に研究を進められると考えている。 その他、STMによるプローブスキャン機構は、PIDフィードバックの部分を高速・デジタル化したことにより、本測定に十分な分解能を実現できている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後(平成25年度)は、当該計画の最終年度に相当する。本計画の研究対象としてはいろいろなものが考えられるが、まずは、金ナノ微小球配列やロッドなど、基本的な系をきちんと調べることを進めようと思う。また、当初は開口は単純な円を想定していたが、申請者の別の研究により、開口の形状により周辺の偏光状態を能動的に制御できることが分かりつつある。そこで、試料を単純な金ナノ微小球などにし、そこへどのような偏光が状態が伝搬していくかという別の視点の研究も含めるようにしようと考えている。これは、当初の具体的な研究計画には含んでいなかったが、本研究の目的には合致しているため、推進することが妥当だと考えている。 その他、STM方式に開口プローブを導入し、より高分解能の研究を展開する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度は、最終年度であるため、大きな物品な購入予定はなく、実験装置としては微小な変更に留まる予定である。ただし、実験としては、試料の作成に必要な消耗品、装置利用料、打合せなどの旅費などに支出する予定である。 また、学会、研究会において積極的に研究成果を公表するための旅費が見込まれる。
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