2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23760040
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Research Institution | Japan Atomic Energy Agency |
Principal Investigator |
今園 孝志 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 量子ビーム応用研究部門, 研究職 (50370359)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 軟X線多層膜 / 偏光解析 / 偏光子 / 移相子 / X線レーザー / 偏光制御 |
Research Abstract |
本研究の目的は、新規に提案する膜構造を持たせたMoとSiから成る多層膜が発振波長13.9 nmのX線レーザー(XRL)光源に対して反射型移相子(四分の一波長板)として機能すること、及び本質的に無偏光であるXRLを円偏光化(偏光制御)できること実証することである。従来軟X線領域の多層膜移相子は透過型しかなかったため透過光強度が弱く、このことが当該域の偏光利用研究のボトルネックになっていた。透過型より強い強度が期待出来る反射型を開発できれば、高強度、短パルス、コヒーレントな円偏光XRL光源を発生させ、新たな軟X線ビーム応用の展開を図ることが出来る。そこで、今年度は下記の2つの研究課題項目を実施した。1.反射型多層膜移相子の設計本研究で提案する反射型軟X線多層膜移相子は典型的なMo/Si反射鏡をベースとし、その表面の膜構造を工夫・最適化することで反射型でありながらsとp偏光間に位相差90度を得ることができるようになる。本研究では自作の計算コードを用いて偏光特性をシミュレーションし、膜設計を行った結果、等周期Mo/Si多層膜に、それよりも短周期の同一物質からなる三層膜(約7nm)を積層した場合、入射波長13.9 nmにおいてs偏光とp偏光の反射率がそれぞれ17%、位相差90°(四分の一波長板)を得ることができることが分かった。現在この移相子の設計法について特許出願準備中である。2.反射型多層膜移相子の製作数十ピコメートルオーダでの膜厚制御が可能なイオンビームスパッタリング法により反射型多層膜移相子を作製した。X線回折プロファイル計測により膜構造を評価した結果、設計周期長(20 nm)に対して誤差0.2%以下の精度で作製できていることを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上述に挙げた研究課題項目における目標は全て達成できたと考える。これの主な要因としては、項目1の多層膜の設計においては、多層膜反射鏡の光学特性を計算するための自作のプログラムコードを拡張し、利用することができたためと考える。項目2の多層膜の製作に関しては、所属機関においてイオンビームスパッタリング法に基づく成膜装置及び膜構造評価のための高精度X線回折装置を保有している点が挙げられる。上述したように、これらを用いて数十ピコメートルオーダでの膜厚制御が可能であり、目的とする多層膜(構造、厚さ、繰り返し数)を作製することができた。更に、多層膜全体の膜構造は不等周期であるが、高エネルギーX線や中性子線用スーパーミラーのように複雑ではないため、標準的な成膜技術及び解析法を適用することが出来たことも大きい。なお、このことは光学デバイスの産業化においてボトルネックとなるコストを抑えるという点でも意義がある。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究推進方策としては、3.シンクロトロン放射光源(SR)による反射型多層膜移相子の偏光特性評価、4.反射型移相子によるX線レーザー(XRL)の偏光計測・制御を実施する予定である。具体的には下記の通りである。3.SRによる移相子の評価イオンビームスパッタリング法により作製した多層膜移相子の偏光特性(s及びp偏光反射率、位相差)を明らかにする。光源として、SR軟X線ビームラインBL-11(立命館大学SRセンター)から得られる波長13.9 nmの単色光を用いる。評価装置は本来研究において開発・整備した軟X線偏光解析装置を用いる。本装置は、回転検光子法に基づく偏光解析法により、光学素子の偏光特性だけでなく、光源の偏光状態(ストークスパラメタ)も明らかにすることが可能である。多層膜移相子の偏光特性は、入射角依存性、入射波長依存性についても評価する。4.XRLの偏光計測・制御反射型多層膜移相子を用いてレーザープラズマ励起に基づく発振波長13.9 nmのXRL光源の偏光状態を円偏光化できることを実証し、偏光XRLの新たな応用研究の展開の可能性を示す。XRLの偏光計測・制御には、上述の偏光解析装置がXRLビームラインの空間的な制約のため利用できない。そのため、ビームライン上に設置可能な小型の偏光計測システムを新たに開発する。更に、ショット毎に異なるXRL強度の規格化方法がこれまでなかったことがXRLの偏光状態の定量評価を本質的に困難にさせていた。これを解決するために、リアルタイムでビーム強度をモニタできる計測ユニットを開発するとともに、考案した仕組みを特許化する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究費の殆どを次年度計画において中心をなす小型の軟X線偏光計測システム及びリアルタイムビーム強度モニタの開発費として使用する。測定チェンバは既存の多目的チェンバを利用することで開発コストを抑える予定である。
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Research Products
(1 results)