2011 Fiscal Year Research-status Report
金属および絶縁薄膜上のジアリールエテン単一分子の光異性化の検証
Project/Area Number |
23760041
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Research Institution | The Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
清水 智子 独立行政法人理化学研究所, Kim表面界面科学研究室, 基礎科学特別研究員 (00462672)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 走査プローブ顕微鏡 / 表面界面物性 / 単分子デバイス / 光化学反応 |
Research Abstract |
デバイス微細化が積極的に進められる昨今、分子スイッチという概念が注目されている。分子の構造がなんらかの刺激によって変化し、それにともなって色や伝導度も変化する。本研究では、光によって分子構造、伝導度、光吸収波長等が変化するジアリールエテンに対し、スイッチングを固体基板上に吸着した単一分子で実現させることを目的としている。金属および絶縁薄膜上に孤立分子としてジアリールエテンを吸着させ、光照射前後での吸着構造と電子状態の変化を走査トンネル顕微鏡(STM)と非接触原子間力顕微鏡(NCAFM)の様々なイメージングや分光法を駆使して追跡し、光異性化の機構を解明する。具体的には、単結晶Cu(111)表面上にNaCl超薄膜を形成することで金属と様々な厚さの絶縁薄膜が共存する系を基板として用い、そこにジアリールエテン分子を吸着させ観察を行う。STMイメージング、STSマッピング、NCAFMの高さ一定モードでのイメージング、周波数シフト一定モードでのイメージング、トンネル電流一定モードでのイメージングなど、様々なイメージング手法や分光法を駆使し、ジアリールエテンの吸着構造・電子状態の解析を行う。そこから絶縁薄膜の厚さに対する金属電子状態の遮蔽効果を検証するものである。 今年度の実績は、まずCu(111)上にNaCl2~3層膜の島を成長させる条件およびジアリールエテン分子の蒸着条件を最適化したことである。そして閉環状態にあるジアリールエテン分子を室温で蒸着させた際の吸着構造や伝導度測定を行った。室温蒸着の場合、蒸着量によらずジアリールエテン分子はCu(111)上単分子膜を形成し、NaCl膜上には一切分子が存在しない様子をとらえた。この単分子膜では光異性化反応は起こらなかった。そこから低温蒸着の必要性が明らかとなりその設置のための部品選定と発注をおこなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、単結晶Cu(111)表面上にNaCl薄膜を蒸着した基板の作成方法の確立と分子吸着条件の最適化、および室温での分子蒸着で得られる分子吸着構造についての構造および電子状態の観測を達成した。第1段階として、NaCl薄膜の成長条件の最適化を行いNaClの2層および3層膜の部分とCu(111)の清浄表面が共存し、フォトクロミズムの基板効果を検証するのに最適な系を得ることに成功した。次に、ジアリールエテン分子の閉環状態を吸着させ観察を行った。購入した分子は開環状態(白色粉末)であるため、紫外LEDを大気下で照射し青色粉末に変化させた物を蒸着セルに導入した。表面に存在した分子は全てCu(111)領域に吸着しNaCl膜の領域には全く分子が吸着しなかった。これは、蒸着時の基板温度が室温であったため、分子がNaCl上で簡単に拡散してしまったためと考えられる。Cu(111)上に吸着した分子は、そのほとんどがモノマーやダイマーなどの孤立系として存在したが、基板を80℃程度に熱したところ、数十nm四方程度の均一単分子膜構造を得ることに成功した。それぞれSTMによる構造解析とSTSによる電子状態解析を行った。均一単分子膜形成は自己組織化能力により起こったと考えられるが、分子間相互作用や分子-基板相互作用の種類の特定には至っておらず今後解決すべき課題の一つである。この状態で光を照射したが何も変化は起きなかった。上記実験からNaCl基板に分子を吸着させるには、低温で蒸着する必要があると分かったため、低温蒸着システムを装置に導入することにした。そのデザインや部品の選定を行い、部品が年度末に揃ったところである(他予算で購入)。当初予定のCuとNaCl膜上での比較までは低温ステージの必要性があり進まなかったが、蒸着条件の最適化や新しい単分子膜の発見等の成果があり、おおむね順調と自己評価している。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、大きく2つの点に取り組むべきであると考えている。1つはCu(111)上に形成された単分子膜についてである。分子膜に光照射をしても何も構造変化が起きなかったが、そもそも、開環状態の分子がどのような吸着構造をもつのか分かっていない。その点を明らかにするために、開環状態(白色粉末)の分子を蒸着させて構造観察と電子状態解析を行うことが第一ステップとなる。溶液中では開環状態には2種類のコンフォメーションがあることが報告されているため、固体基板上に吸着した場合にもその違いが現れるのか否かを確かめる。開環状態の分子でも閉環状態と似た均一単分子膜が形成できれば、閉(ON状態)と開(OFF状態)の区別がつき、光照射やトンネル電子注入によってフォトクロミズムが実現できるかどうかのさらなる検証が進められると考えている。2つ目の課題は、NaCl上に分子を孤立吸着させることである。そのために低温蒸着システムを取り付け、NaCl上に分子が吸着する条件(どれほど低温にするべきか)を見付ける。条件が判明した後、NaCl上に吸着した孤立分子やクラスター、分子島(形成された場合)に対して、STMによる構造解析とSTSによる電子状態解析を行い、Cu(111)上との比較をする。そして、開環状態のものにUV光を、また閉環状態のものに可視光を当てることで、光異性化反応を誘起したい。NaClによる金属基板からの電子状態の遮蔽で分子の励起寿命が延び、光化学反応が起きると期待している。異性化の反応性がNaClの膜厚(1層または2層)で変化があるかも検討したい。また、光異性化ができれば、前後でのNC-AFMによる構造解析も行う予定である。Cu(111)上に形成された単分子膜についての解析をすすめ、論文にまとめ発表するとともに、学会等での成果発信を行いたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用額は、本年度繰越額531,058円に配賦予定分の100万円を追加した計1,531,058円である。繰越の理由は主に二つある。まず学会参加のための"旅費"と参加費として考えていた"その他"を他予算でまかなうことができたため使用しなかった。物品費38,1058円が残った理由は、紫外光を照射しながらのSTM/AFM測定実験まで進まなかったため、光源や光学部品の消耗品が不要になったためである。その実験は次年度行う予定でいるため、次年度の物品費にあてる。次年度の内訳は、物品費931,058円、旅費550,000円、その他50,000円である。それぞれの使用用途は以下を考えている。1.物品費:実験のための大型装置は全て揃っているため、50万を超える設備・備品などの購入予定はない。真空部品(分子やNaCl等の蒸着源、低温分子蒸着システム設置のためのフランジや熱電対フィードスルー等)、光学部品(光源、ミラー等)、電子機器(分子蒸着用電源)や電子部品(ワイヤー、クリップ、はんだ等)の消耗品および、ジアリールエテン分子とNaClの試料購入に充てる。2.旅費:9月と11月に行われる国際会議に参加・発表をするために使用する。3月に行われる国際会議にも参加する可能性があり、多めに予算を計上している。また、国内学会やシンポジウムに参加するための旅費も含む。3.その他:今年度の繰越額5万円は、国際会議の参加費としてあてる予定でいる。
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[Journal Article]2012
Author(s)
T. K. Shimizu, J. Jung, T. Otani, Y.-K. Han, M. Kawai, and Y. Kim
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Journal Title
ACS Nano
Volume: Vol. 6
Pages: 2679-2685
DOI
Peer Reviewed
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