2012 Fiscal Year Research-status Report
金属および絶縁薄膜上のジアリールエテン単一分子の光異性化の検証
Project/Area Number |
23760041
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Research Institution | The Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
清水 智子 独立行政法人理化学研究所, Kim表面界面科学研究室, 基幹研究所研究員 (00462672)
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Keywords | 走査プローブ顕微鏡 / 表面界面物性 / 単分子デバイス / 光化学反応 |
Research Abstract |
デバイスの微細化に伴い、有機分子をスイッチング素子として使う概念が注目されている。分子の構造を何らかの外部刺激によって変化させ、それに伴い変化する色や伝導度を測定することでオン・オフが実現する。本研究では、光によって分子構造、伝導度、光吸収波長等が変化するジアリールエテンに対し、スイッチイングを固体基板上に吸着した単一分子で実現させることを目的としている。金属および絶縁薄膜上に孤立吸着させたジアリールエテンの光照射前後での構造と電子状態の変化を走査トンネル顕微鏡(STM)と非接触原子間力顕微鏡(NC-AFM)の様々なイメージングと分光法を駆使して追跡し、光異性化の機構を解明する。絶縁薄膜の有無や厚さの変化で金属電子状態の遮蔽効果を制御し、それがどう光異性化へ影響を及ぼすのか検証する。 今年度の実績は、Cu(111)上でNaClを共吸着したときのみ超構造が形成される理由を解明したことである。走査トンネル分光に加え、X線光電子分光(XPS)と密度汎関数法(DFT)を用いた計算から、Na原子が分子間を結ぶよう中に入りこみ、Clはバルクへ拡散している証拠を得た。また、分子のどちらの異性体(開環と閉環体)を蒸着しても、閉環体が超構造を形成する理由を、熱反応が原因であることを明らかにした。溶液中や単結晶では熱反応がなく、開環体がより安定であるのに対し、CuやAu金属上では閉環体が安定になる。これは、分子と金属間での電荷のやりとりにより、分子が多少イオン化することに由来する。この超構造では、探針から電子を注入することで異性化と思われる反応が起こる様子をとらえられたが、確証は得られていない。光による反応は実現できていない。恐らく、励起寿命が非常に短いことに起因しており、分子を絶縁膜上へ蒸着する必要がある。そのための低温蒸着ステージを導入した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、表面での振る舞いが未解明のジアリールエテン分子に対し、電極材料として広く使用される金や銅といった金属上での吸着状態および、超構造形成機構を走査プローブ顕微鏡だけでなく光電子分光やDFT計算も併用し、解明した点が髙く評価できる。これは、昨年度課題となった点であり、光異性化反応機構の理解に必要な基礎データが揃ったともいえる。これらの結果について2月の国際シンポジウムで発表し、興味深い結果と評価された。現在、国際雑誌へ投稿する論文2報を執筆中である。 一方で課題も残った。電子注入による吸着分子の変化を捉えることに成功したものの、それが異性化反応によるものかの確証は得られていない。光照射による異性化反応も試みたが、金属上での反応がないことを確認したのみである。絶縁体上に分子を吸着する装置系は整えたものの、実際の実験が成功するまでには至っていない。 これら課題の克服および、目標としている絶縁薄膜上での異性化反応の実現は、最終年度に達成できると見込んでおり、おおむね順調に進展していると自己評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度は、絶縁薄膜上にジアリールエテンを低温吸着させ、STMとNC-AFM測定を行う。液体ヘリウム供給量に制限がある厳しい状況下で、効率よく実験を行う必要があり、準備段階では液体窒素を用いることを予定している。当初絶縁薄膜はNaClを想定していたが、今年度までの研究によりジアリールエテンとNaCl自体が反応しやすいことが判明したため、銅基板上に成長させた窒化銅絶縁薄膜を用いることを検討している。島の大きさの制御が窒素暴露量を制御することで可能なため、分子を銅基板上と窒化銅絶縁薄膜上の両方に吸着させた状態を作り出すことができる。これは、UV光や可視光照射により、両基板上の分子を同時に励起させることができるというメリットがある。 光照射系の最適化を早い段階で終えることも重要である。これまで用いてきた装置では、チャンバーの窓からレンズを通して試料へ照射する系が可能だったため、比較的安価でパワーも小さいUV LEDを光源として用いていた。次年度用いる装置では(所属変更のため用いる装置が変わる)STM/NC-AFMヘッドが全て金属シールドに囲われ窓がないため、高輝度の光源を用い、ファイバーを試料近くまで寄せて照射させるような光学系を用いる必要がある。照射系を夏ごろまでには整え、構造変化、電子状態変化を捉えるSTM/NC-AFM同時測定を秋には行いたい。 最終年度は、国際会議での発表2件を確実に予定しているが、その他国内外の会議やシンポジウムでの発表も行いたい。また、初年度、本年度の結果について執筆中の国際雑誌論文2報が掲載されるようにしたい。STM/NC-AFM同時測定についての論文の執筆も年度終了前までに始めたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用額は、本年度繰越額の約34万と配賦額80万の計約114万円である。繰越の理由は、参加した国際会議のうち1つの旅費を他予算でまかなえたこと、光照射測定用の光学部品が予想より安価に済んだこと、の2点である。 次年度の内訳は、以下を考えている。 旅費 40万:2つの国際会議、1つまたは2つの国内学会参加のため 消耗品 60万:光源、光学部品、分子、液体ヘリウム、解析ソフトウェア、その他消耗品 その他 14万:会議参加費
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Research Products
(8 results)
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[Presentation] Morphology and electronic structures of π-conjugated molecular layers on solid surfaces2012
Author(s)
M. Imai, J.-H. Kim, J. Jung, H. Imada, T. K. Shimizu, K. Motobayashi, E. Ohta, Y. Suna, T. Aida, T. Fukushima, Y. Kim, M. Kawai
Organizer
The 14th International Conference on Vibrations at Surfaces
Place of Presentation
神戸市ニチイ学館神戸ポートアイランドセンター
Year and Date
20120924-20120928
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