2011 Fiscal Year Research-status Report
エージェント集団行動の大規模同期現象のモデルと推計
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23760074
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
佐藤 彰洋 京都大学, 情報学研究科, 助教 (50335204)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 外国為替市場 / 最尤法 / エージェント / 稀少頻度事象 / 観測とデータ分析 / 国際情報交流 / ドイツ、ポーランド、スイス |
Research Abstract |
大規模同期現象は発生頻度は極めて小さいが発生するとその社会的影響が極めて大きい希少頻度事象の一種である。しかしながら、稀少頻度事象の発生確率を有限数の観測データから実証分布により推計する場合、観測されていない稀少事象の発生確率を0と見積もってしまうという問題がある。この問題を克服するために、本研究では (1)できる限り長期間のデータを収集して、稀少頻度事象である大規模同期現象の発生をとらえる (2)有限数の観測データを使って観測されていない稀少頻度事象の発生確率を外挿する方法を開発するの二つの方法から外国為替市場における大規模同期現象を観測し、推計するための研究を行なった。当初の研究計画に従い、データ蓄積し計算するための並列計算システムの能力増強を行い、64コアのクラスタ型並列計算システムを構築した。また外国為替市場の1秒解像度の高頻度データの収集により2007年6月から2012年2月まで(57カ月)のデータの分析が可能となった。大規模同期現象を定量化する方法として2部グラフ上でのネットワークエントロピー法を開発し、エントロピーの週ごと最小値に対して極値分布のひとつGumbel分布を仮定した場合のパラメータ推定方法について研究をすすめた。そして、最尤法によるパラメータ推定法を確立し、実際に分布の推定を行った。推定により観測事実の存在しない大規模同期現象の発生確率を外挿することが可能となった。また、これまで開発してきた分析方法である通貨シェアに対する相対エントロピーによる方法を用いることにより、2007年6月から2012年2月までの外国為替市場の状態を注文、取引のシェアに基づき計量した。2011年3月の東日本大震災直後1週間のみ特異であった。これより大きな構造変化は、2011年8月15日から9月5日にかけて生じている。この時発生した新しい構造は2012年2月においても継続している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は研究計画に従い以下の事柄を実施した。【並列計算機の増強】(100%)21760059で建設した並列計算機の能力増強を行い、8ノード(64Core)のクラスタ計算機への改造を完了した。【データの収集】(100%)電子ブローキングシステム運営会社(ICAP EBS社)から2011年2月~2012年1月分の1秒解像度の外国為替市場取引データの連続購入を行った。【大規模同期の連続観測】(100%)21760059で確率した方法論を用いて大規模同期現象の連続観測を行った。更に、ネットワークエントロピーを用いた行動同期性の定量化方法を開発し、57ヶ月分のデータに対して行動同期の定量化を行った。外国為替市場参加者への聴き取り調査を2011年10月に行った。特に「東日本大震災」、「ギリシャ債務問題に端を発したユーロ安」、「超円高問題」が話題の中心となった。【外挿方法の開発】(80%)一週間ごとのネットワークエントロピー最小値の分布をGumbel分布の仮定のもとで最尤推定することにより、発生確率を外挿する方法を確立した。しかしながら、2012年1月から2月にかけて取引で確認された同期現象はGumbel分布の仮定を越える大規模なものであった。この予想外の発見により、確率分布の仮定について更なる研究が必要であることがわかり、確率モデルの開発について当初計画より若干の遅れが生じている。【その他】2011年6月にCCSS2011, 2012年3月にドイツ物理学会へ参加し、本研究の成果に関係する講演を行った。この会議出席の機会を利用して、EU FP-7 Flagship Pilot メンバーとの国際情報交流を行った。更に、2012年3月にワルシャワ工科大学(ホリスト教授)、キール大学(ルックス教授)を訪問し、大規模同期現象の確率モデルおよび最尤法について意見交換を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
観測事実が存在していない稀少頻度事象である大規模同期現象の発生確率を外挿する方法を極値分布のひとつであるGumbel分布を仮定することによって外挿する方法を確立した。一方で、2012年1月から2月にかけての外国為替市場の取引において観測された同期現象は、この仮定で推計される発生確率を越える大規模なものであった。そのため、計算された外挿確率では、この現象を過小評価してしまった。 特に、現在、欧米通貨が円に比較して極めて安い水準で推移している状況であり、また、欧州各国の債務問題、銀行の破綻など外国為替市場の市場参加者に大きな影響を与える可能性のある出来事が引き続き起こりやすくなっている。このことを加味すると、次年度は今年度以上に大規模同期現象が発生しやすい状況となっていると予想される。そのため、【連続データ収集】を継続して行い、大規模同期現象の発生をとらえる必要があると判断する。更に、前提とする確率分布をGumbel分布以外の極値分布および、それ以外のモデルから導出される分布にかえ、大規模同期現象の発生確率を正確に外挿する方法を開発する必要がある。この方向性に沿って、大規模同期現象を説明するための確率モデルの開発および、稀少頻度事象の発生確率の外挿方法の開発を実証分析を交えて進めていく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度実施予定であった国際会議への参加とFuturICTメンバーとの意見交換を2012年3月から4月にかけて実施したため、3月31日現在における清算業務の都合から,名目上434,323円の繰越が発生している。これは次年度に清算を完了することにより執行がなされる予定である。次年度では、以下の研究内容を実施する。【モデルの開発】ネットワークエントロピーの最小値分布をGumbel分布の仮定のものでパラメータ推定を行ったところ、この方法では説明できない規模の大規模な同期現象が2012年1月から2月にかけて外国為替市場の取引で発生していたことが確認された。このことから、次年度では、外挿を行うために前提とする確率密度をGumbel分布以外の極値分布および、相関を有する多変量Poissonモデルから導出される確率密度の2つの方向性から開発をするめる。【外国為替市場の連続観測】本年度開発を行ったネットワークエントロピーを用いた大規模同期現象の定量化法を連続観測に組み入れ、大規模同期現象の連続観測を行う。そして、どのタイミングで大規模同期現象が発生しているかを観測し、マクロ経済的な因子との相関分析を行う。これを実施するために、次年度では外国為替市場の高解像度データの連続購入を行う。このために、その他として400千円の研究費を計上する。【その他】次年度は本研究によって実施された研究成果を発表することおよび、データ科学に関する最新の研究成果に関する情報を得るために、1件の国際会議と1件の国内研究集会への参加を計画する。これを実施するために、国内旅費として100千円、海外旅費として300千円の研究費を計上する。
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