2011 Fiscal Year Research-status Report
高次骨機能診断を目指したX線回折による有機・無機複合ナノ構造の力学解析法
Project/Area Number |
23760080
|
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
東藤 正浩 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (10314402)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
Keywords | 機械材料・材料力学 / 生物・生体工学 / 放射線、X線、粒子線 / 老化 / 骨組織 |
Research Abstract |
これまで骨の強度低下は骨粗鬆症に見られるような,骨量の減少による巨視的な骨密度の低下を主な原因と仮定されてきたが,近年,骨強度に関連する因子として骨量の他に,その骨質が影響していると指摘されている.そのためより精度の高い骨強度評価のためには骨量と骨質の両者を考慮した診断手法が望まれるが,そのような骨診断方法は未だ実現されていない.そこで平成23年度については,以下の研究を遂行した. まずラマン分光法による皮質骨力学特性評価法の開発として,本研究ではアパタイト・コラーゲン特性の同時測定による骨強度評価を目的とし,ラマン分光法による骨微視構造解析を行った.骨組織はハイドロキシアパタイトからなる無機基質とI型コラーゲンを主成分とする有機基質から構成される複合材料である.ラマン分光法はラマン散乱による振動分光法であり,有機および無機両成分の構造解析が可能である.加えて,ラマン分光法は水分の影響を受けにくく,骨のような生体試料測定に適している.実験として,年齢の異なるウシ大腿骨皮質骨から骨試験片を作製し,顕微レーザーラマン分光測定装置を使用してスペクトル測定を行った.イメージングによる骨組織の構造特性分布を可視化し,力学特性と加齢の影響について調査した. また,放射光X線回折によるアパタイト/コラーゲン構造の微視的力学挙動観察として,本研究では,X線回折を用いて外的負荷に対するアパタイトおよびコラーゲンの微視的力学挙動を同時観察し,その動的メカニズムを明らかにすることを目的とする.シンクロトロン放射光施設にて実験系を組み,コラーゲンからの小角散乱像およびアパタイト結晶からの広角回折像を2つの検出器により同時に検出し,圧縮負荷下における力学的ひずみの動的挙動を観察した.本手法により外的負荷下における骨組織中の無機・有機両成分の力学的挙動を観察することが可能となった.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度の研究達成度について「おおむね順調に進展している」と判断する.理由として,平成23年度研究計画「1.コラーゲン-アパタイト同時力学挙動解析を目的としたX線小角・広角回折同時測定系の構築」については,放射光施設にて実験系を組み,コラーゲンからの小角散乱像およびアパタイト結晶からの広角回折像を2つの検出器により同時に検出し,圧縮負荷下における力学的ひずみの動的挙動を観察した.本手法により外的負荷下における骨組織中の無機・有機両成分の力学的挙動観察システムの検証を行った.また研究計画「2.加齢骨試料ならびに人工変性骨試料の作製」については,年齢の異なるウシ大腿骨皮質骨から骨試験片を作製し,顕微レーザーラマン分光測定装置を使用してスペクトル測定を行った.力学特性と加齢の影響について調査し,本研究で検証する加齢の条件を整理した.本結果をもとに,人工変性骨の作製条件を整理する予定である.また研究計画「3.フーリエ変換赤外分光による加齢骨および変性骨の構造分析」については,フーリエ変換赤外分光に代わり,ラマン分光法による皮質骨力学特性評価法の開発として,ラマン分光法による骨微視構造解析を行い,イメージングによる骨組織の構造特性分布を可視化し,力学特性と加齢の影響を評価する十分な可能性を見出すことができた.また研究計画「4.骨機能診断の基準となる巨視的力学特性に及ぼす骨質変性の影響評価」については,年齢の異なるウシ大腿骨皮質骨から試験片を作製し,顕微レーザーラマン分光測定装置を使用してスペクトル測定を行うと同時に,3点曲げ試験および衝撃破壊試験により,その力学特性と加齢の影響について明らかにした.また研究計画「5.X線回折によるコラーゲン-アパタイト複合構造の力学挙動観察」については,研究計画1.で実現した測定システムで,実際に両成分の力学挙動を観察することが実現できた.
|
Strategy for Future Research Activity |
平成24年度については,下記に示す内容で研究を遂行する. まずアパタイト-コラーゲン複合構造に基づくマルチスケール力学モデルの構築を行う.骨の階層構造に基づく,骨コラーゲン-アパタイト複合構造力学モデルを考案する.固有の材料特性を有するコラーゲンおよびアパタイトを模擬するミクロ構造要素の配置ならびにそれらの力学的結合条件を,任意の材料特性を実現する最適設計問題として解く.これにより巨視的な骨構造モデルを形成し,階層的な骨の複合構造を模倣するマルチスケール力学モデルを構築する.X線回折から実測されたコラーゲンおよびアパタイトの力学挙動データ,および材料試験による巨視的力学特性データをもとに,材料パラメータ同定を行い,骨質変性指標としての有効性を検討する.最適化には,現有設備である有限要素パッケージ(ANSYS Inc.)ならびに最適化ツールを用いる. 次に,アパタイト-コラーゲン複合構造モデルに基づく骨質評価手法の提案を行う.提案した骨コラーゲン-アパタイト複合力学モデルを用いた骨質変性度と各材料パラメータの関係をデータベース化し,コラーゲン-アパタイトX線回折データからマクロな骨力学特性を逆推定するアルゴリズムを提案する.人工的変性試験片と加齢試験片の比較検討を行い,コラーゲン変性に基づく加齢骨機能診断手法としての有用性について確認する. 最後に,本研究の成果をまとめ,X線回折を利用した骨組織内コラーゲン-アパタイト両者の同時構造特性解析手法に基づく骨質評価手法について考察を行い,研究を総括する.
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度では,骨質評価手法として,フーリエ変換赤外分光光度計ならびにラマン分光顕微鏡によるその有効性評価を行った結果,ラマン分光顕微鏡の方が,精度よく,さらに水分の影響を受けにくく,骨のような生体試料測定に適していることが確認された.またラマン分光顕微鏡の最新設備が北海道大学オープンファシリティ共同利用施設として導入されたことから,当初購入予定であったフーリエ変換赤外分光光度計に代わり,本ラマン分光顕微鏡を使用する計画に変更した.本ラマン分光装置は高精度な空間分解能を有するため,より局所的な力学情報を得ることができるため,ラマン分光顕微鏡下で操作可能な力学負荷デバイスを導入するため,平成23年度は制御PCならびにステージコントローラを購入し,実験環境を増強した.フーリエ変換赤外分光光度計の購入計画変更のため,結果的に約990千円の繰り越しとなった.平成24年度は,本繰越金を活用し,新たにマイクロ力学負荷デバイスの設計・製作に450千円,顕微鏡光学系の改良に350千円の経費を新たに計画している.その他については,消耗品費として,実験材料費に200千円,実験計測消耗品に100千円,計算機消耗品に90千円.また旅費等として,成果発表のための国内旅費として100千円,外国旅費として300千円.また成果発表としての論文印刷費に100千円を計上している.以上,計1,690千円の経費により,本研究目的を達成するため研究を遂行する.
|
-
-
-
[Presentation] 骨アパタイト/コラーゲン構造の微視変形挙動観察2011
Author(s)
東藤正浩, Jorg Goldhahn, Philipp Schneider, Ralph Muller, Oliver Bunk, 但野茂
Organizer
日本機械学会M&M2011材料力学カンファレンス
Place of Presentation
九州工業大学(北九州市)
Year and Date
2011年7月18日
-
-
-