2011 Fiscal Year Research-status Report
固体中の欠陥ダイナミクスと劣化機構を発現する新しい分子計算モデリング
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23760087
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
原 祥太郎 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 講師 (10401134)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | ナノ材料 |
Research Abstract |
初年度は,これまでに開発したHyperdynamicsベースの加速化分子動力学法の高精度を図った。Hyperdynamics法は,元のポテンシャル曲面上に,幾何学変数で記述した正のバイアスポテンシャルを足し合わせることでダイナミクスの加速化を可能とするため、幾何学変数は発生させたい現象に依存する。そこでまず、固体材料の力学的振る舞いと深く関連した基本プロセスである原子空孔拡散の熱活性化挙動を把握するため、原子間距離に基づくバイアスポテンシャル構築法を確立した。本手法をfcc金属の空孔ジャンプに適用し、加速化分子動力学法を用いることで,原子空孔のジャンプ頻度と活性化パラメータを定量的に算出した.同時に、活性化パラメータの温度・応力依存性を明らかにし、従来の活性化エントロピーの力学ベースのモデルに異方性の影響を導入し,その妥当性を示した.また本手法により、固体酸化物型燃料電池(SOFC)の燃料極でのNi拡散について、作動温度環境下での情報を得ることが可能となった。つづいて、分子計算の加速化の概念を、固体酸化物形燃料電池(SOFC)の長時間経時劣化課題にも適用を行った。劣化課題として,イットリア安定化ジルコニア(YSZ)電解質の作動中におけるアニオン・カチオン拡散を対象とした。加速化手法をカチオン空孔のジャンプ機構へと適用し,SOFC実験プロセス温度での活性化パラメータの導出を可能にした.特に、カチオン拡散は,高温でもゆっくりとした時間スケールで進行するエネルギ障壁の高い現象であるため,本手法により速度論情報が獲得できることは非常に有効であると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度新たに開発した原子間距離で加速化するハイパーダイナミクス手法によって、原子空孔拡散現象について、実験での応力・温度スケールでの挙動の解明を達成することができた。また、当初の予定では、固体酸化物型燃料電池の陽イオン拡散の問題への適用は次年度の検討項目としていたが、陽イオン空孔の移動自由エネルギー算出への適用可能性も示唆できた。さらに、次年度検討予定である、より複雑な粒界拡散問題にもすでに検討を着手できており、研究はおおむね順調に進展しているといってよい。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、本年度開発した手法をより複雑で現実的な現象へと展開する。具体的には、1. これまでバルク内での空孔拡散に限定していた現象を、表面・粒界での空孔拡散問題に適用すること、2. 不純物原子の拡散問題への適用を行う。結果の妥当性検証には、FCC金属粒界を対象とし、別途、反応経路法とカイネティックモンテカルロ法から導出した粒界拡散係数との比較を実施予定でいる。つづいて、固体酸化物形燃料電池に用いられるセラミクス材料への展開も図る。特に、陽イオンの表面・界面への析出現象が電池性能の劣化要因であることから、本研究では、析出現象の速度論的情報の取得を試み、析出駆動力を考察する.また、上記加速化シミュレーションは複雑な手続きが必要となるため、より普及した手法(反応経路解析法と分子動力学法)から、より簡便に活性化自由エネルギ障壁を取得できるシミュレーター開発にも着手する。次年度は、固体の塑性挙動の重要プロセスである転位生成過程に適用を行い、塑性挙動の温度依存性検討を予定している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度は研究最終年度であるため、研究費を成果の対外発表に主に使用する。旅費については,国内への研究旅費・成果発表(次年度3回)に加え,本分野における世界的研究者が集う国際会議(Multiscale Materials Modeling2012とMRS-Meeting2012Fall)への発表参加に伴う海外渡航費用を計上する。また、海外雑誌への論文投稿に伴う費用も計上する。
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Research Products
(9 results)