2011 Fiscal Year Research-status Report
流動ダイナミクスに基づく微生物識別法の開発と大偏差力学の展開
Project/Area Number |
23760161
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
花崎 逸雄 神戸大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (10446734)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 応用力学 / 応用数理 / 機械工学 / 統計力学 / 力学系 / 大偏差 / 流体工学 / 流体力学 |
Research Abstract |
本研究は,統計数学の基本原理の一つである大偏差原理(Large Deviation Principle)を具体的な対象に活用する応用力学の研究である.特に,自己駆動する微生物の流動ダイナミクスを解析することによりその特徴識別に役立てる理論的枠組みを示し,それと並行して様々な対象系に応用展開し,大偏差統計の視点から多様な対象を見ることでこれまで気づかれていなかった重要な特性が明らかになることを示す. 初年度は,流体中を漂う異方性粒子が示すブラウン運動を対象とした.異方性粒子とは楕円体粒子や棒状粒子を一般化した数理モデルである.近年ナノロッドと呼ばれる微粒子を溶液中で自己組織化させて新たな人工的材料を開発することが盛んであり,そのような場面で異方性粒子の拡散素過程を理解することが重要となる.異方性粒子の拡散現象は,粒子の長手方向とそれに垂直な方向の拡散係数と回転運動の拡散係数で定まる.拡散現象を特徴付ける物理量として今日まで拡散係数が用いられてきたが,粒子の軌跡から拡散係数を求めるには,その平均二乗変位(MSD)の傾きを計算する.しかし,MSDは総合的な拡散のしやすさを示す量であり,質点として観測した粒子の拡散係数だけでは粒子に起因する異方性を検出できない. これに対し本研究では,近年著しく発展してきた顕微鏡による実験技術である一粒子計測(Single Particle Tracking; SPT)に対応する軌跡データを数値計算で再現して大偏差原理に基づく解析を行った.その結果,MSDでは識別不可能な拡散異方性の度合いを粒子の軌跡から比較できることを明らかにできた.しかも,時々刻々の粒子の配向がわからず顕微鏡では単なる質点として観測されるような条件で,粒子の異方性に起因する拡散異方性を検出できることを示した.工学的に重要であり今後の微生物識別へ着実につながる成果である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
初年度は,統計数学の基礎でありながら大数の法則や中心極限定理に比べれば応用事例が相対的には極めて少ない大偏差原理を具体的な用途に応用する枠組みの確立が目標であった.そして,具体的に異方性粒子の拡散における軌跡データからの異方性検出に応用を試み,検出可能であることを理論的に示し,その具体的な手順を確立することができた.初年度のうちに,二年目に微生物の挙動に大偏差統計を応用するための基礎を確立することができた上に,具体的な成果の内容が材料科学・工学を中心として極めて重要な意味を持つものとなった.したがって,当初の計画以上の進展である.
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Strategy for Future Research Activity |
二年目は,初年度で確立した理論的枠組みを基礎にして,具体的な対象系への応用展開を広げてゆく段階である.特に,微生物の流動ダイナミクスへの応用が中心的課題となる.初年度で扱った異方性粒子の拡散現象に比べて,微生物の挙動は複雑となる.また,初年度で確立した枠組みが一般的に応用可能であることが原理的には言えるとしても,それを異分野の研究者が理解しうる形で提示するためには,具体的事例を扱うことがやはり効果的である.したがって,多種多様な微生物を漠然と扱うのではなく,よく知られた微生物の重要視される特徴に関して焦点を明確にすることが,得られる成果の質や訴求力に反映されると考えられる.この点に留意しながら,技術的には初年度で確立した枠組みや手順を基礎として研究を進める.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
初年度で確立した理論的枠組みを具体的な事例に適用する応用展開が中心となるため,この年度では膨大な生データを得るシステム,そしてその膨大なデータを解析するシステムを整備することを中心に研究費を使用する計画である.
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