2012 Fiscal Year Research-status Report
流動ダイナミクスに基づく微生物識別法の開発と大偏差力学の展開
Project/Area Number |
23760161
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
花崎 逸雄 大阪大学, 基礎工学研究科, 助教 (10446734)
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Keywords | 統計力学 / 統計物理 / 微生物 / 大腸菌 / 大偏差 / 機械工学 / 流体工学 / 時系列データ解析 |
Research Abstract |
本年度は,本研究課題の対象事例としての中核を成す微生物の自発的運動に対して,統計数理の原理の1つである大偏差原理を応用し,広い意味での流動ダイナミクスに関する知見を得た.具体的には,実験研究対象として最もよく知られている微生物である大腸菌(E. coli)の基本的な運動特徴を再現する数理モデルを構成し,それが生み出す軌跡データを対象に解析をおこなった.その結果として,まず対象に注目した応用上の意義としては,微生物の運動の特徴を抽出する新たな手法としての有用性を示すことができた.本研究で提案した方法では,微生物の自発的運動を評価する際に培地に化学物質濃度勾配を作り出す必要が無く,微生物の向きに関する情報が不要であり,運動を特徴付ける個別的な閾値を事前に知っている(または定義する)必要が無い,という実用上の特長がある.したがって,未知の微生物を特定する必要のある産業上あるいは疫学上の用途に有用である.また,無侵襲であり,基本的には化学物質のマーカーも不要である.そのため,医学・生物学の目的で,細かい実験条件の違いに対して微生物の挙動がどのように変化するのかを,長時間計測を続けながら比較評価することも可能である.そして,応用数理・応用力学上の意義としては,まず,中心極限定理を包含する範囲の一般的な原理である大偏差原理を応用することにより,特徴が異なるにも関わらず拡散係数が等しい揺らぎデータの識別が可能である.さらに,非ガウス性と生データの有限性との関係についての重要な知見が得られたため,基本原理の単なる応用事例ではなく応用力学として,特に統計力学・統計物理としての重要な示唆を与える研究成果にもなった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度に基本原理を具体的対象に応用することを可能にし,当該年度はそれをふまえて本研究課題の代表的応用事例である微生物の運動の識別に応用することに成功した.前年度に技術的な基本を十分に検証していたことで,当該年度は具体的対象である微生物の自発的運動をいかにして特徴付けることができるかという点に集中して検討することができた.これによって,前年度と単に応用事例が異なるだけでなく,適用対象によってその注目すべきポイントがいかに根本的に変わり得るのかを明らかにすることができた.したがって,本研究はおおむね順調に進展していると言える.
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Strategy for Future Research Activity |
当該年度では微生物の運動の特徴を識別することに成功した.したがって,本研究課題の残りの部分は大偏差力学の展開である.今後はそれに焦点を移して研究を進めてゆく.大偏差原理を応用力学として多様な場面で有効に応用するような形でそれを実現してゆく.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当該年度に大量のデータを解析するために計算機システムを導入したことで,その効率が改善できた.その際に当初の見込み額と執行額は異なったが,当該年度で微生物の運動識別に関して成果を挙げることができたので,今後は大偏差力学の展開の部分に軸を移して研究を進める.したがって次年度使用額に関しては,学会発表や出版に関連する費用などが当該年度に比べて増大する可能性が高く,それ以外には大量のデータを取り扱う効率をさらに改善するために使用することが考えられる.
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