2011 Fiscal Year Research-status Report
高密度・高配向性単層カーボンナノチューブの複合材料化と特性評価
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23760179
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
千足 昇平 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (50434022)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 炭素ナノチューブ / ポリマー / 複合材料 |
Research Abstract |
単層カーボンナノチューブ(SWNT)をデバイスとして応用するためのSWNT機能化を目指し実験を行った.基板表面に垂直に配向成長させたSWNT(垂直配向SWNT)をサンプルとしてポリマーとの複合材料化について検討を行った.ポリマーとしてpolyvinyl alcohol(PVA)およびpolydimethylsiloxane(PDMS)を用いた.ポリマー化には,PVAの場合は溶媒の蒸発,PDMSではモノマー同士の重合反応など分子レベルでの現象を伴う.その際におけるSWNTとの相互作用について走査型電子顕微鏡やラマン散乱分光法を用いて分析を行った.PVAと垂直配向SWNTの場合は,溶媒によって多くの垂直配向SWNTが凝集し倒されてしまった.その為,ポリマー化(固化)したPVA内でのSWNTの垂直配向性は大幅に低下し,SWNT膜厚自体も減少した.一方,PDMSはPVAとは異なり,SWNTとの親和性は低くSWNTがPDMS内で凝集することはなかった.さらに,SWNTの配向性を低下させることなくPDMSはポリマー化し,垂直配向SWNTの膜厚は殆ど変化することなく,垂直配向SWNT―PDMSポリマー複合フィルムを作製することに成功した.また,ラマン散乱分光法によって複合フィルムの断面方向でのSWNTおよびPDMSの密度分布を調べた.SWNTおよびPDMSからのラマン散乱ピーク強度から,垂直配向SWNT膜全体にPDMSの存在が確認された.このことから,一様にPDMSが垂直配向SWNTの間に浸透し,ポリマー化することが明らかとなった.また,同時にSWNTの合成技術についての検討も行った.特に水平配向したSWNTの配向メカニズムについての分析を行い,SWNT成長時における炭素源ガスの供給方法が重要であることが分かった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
SWNTの複合材料化という本研究題目における目的において,SWNTとの相互作用を理解することは非常に重要である.本年度は,取り扱いの簡便な垂直配向SWNT膜といくつかのポリマーとの組み合わせについて分析することで,複合化に適したポリマーの選定を行った.固化に溶媒等の蒸発を伴うポリマーの場合,SWNT同士が凝集を起こしSWNTサンプル全体の変形が生じる.その為,ポリマー固化前後でのSWNT構造が変化するだけでなく,非常に大きな不均一な構造となってしまい,SWNT複合材料化という観点では望ましくない.一方,2つのモノマーを混合し重合させるタイプのポリマーの固化の場合,若干の体積変化は伴っている可能性はあるが,構造や均一性の変化は生じなかった.これらの結果は,今後のSWNTの複合材料化への材料選定や検討に向け,非常に重要な知見が得られた.同時に,SWNTの合成技術の向上も複合材料化させる場合に重要なキーポイントとなる.本年度は,水平配向SWNTの配向性について詳細に分析を行った.エタノール圧力は高い方ほどSWNT成長速度が速く,一般には圧力を高めることで生成量や長さを増加することが知られている.しかし,水平配向SWNT成長の場合,圧力が低いほど高密度でかつ高配向なSWNTを得ることができた.この結果は,SWNT同士の相互作用を元に理解することができる.エタノール圧力が低い場合,隣接したSWNTが同時に成長する確率が低くなる.SWNT同士が接触するとお互いの分子間力により絡み合うため,水晶基板表面との相互作用による水平配向が阻害されたと考えられる.このSWNT水平配向メカニズムに関する知見は今後の高密度化の実現に重要であり,大きな指針が得られたと言える.
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度(平成23年度)は研究の大まかな方針を得るため,既に合成技術に関して多くの知見を有する垂直配向SWNTをサンプルとして用い,ポリマーとSWNT間の相互作用に関する実験を効率よく進めることが出来た.また,同時に水平配向SWNT合成技術に関しても非常に重要な知見を得ることができた.今後も同様に,垂直配向SWNTを用いたポリマーとの相互作用の分析,および水平配向SWNTの制御合成法の開発を進める.垂直配向SWNTを用いたポリマーとの相互作用については,これまでに行ってきた走査型電子顕微鏡(SEM)による構造観察に加え,ラマン散乱分光法や光吸収分光法を用いる.SWNTおよびポリマーからは特有のラマン散乱スペクトルが現れることから,その強度やスペクトル形状を用いて,SWNT・ポリマーの均一性や密度分布について情報が得られると考える.さらに,ラマン散乱スペクトルは僅かな構造変化に対しても対応してピーク幅やピーク位置が変化するので,例えばSWNTと複合化することでポリマーが特殊な構造を形成する可能性を探り,同時にSWNT表面という非常に安定かつナノスケールの曲率をもつ曲面表面においてポリマー化がどのように起きるかについて着目し,SWNT-ポリマー間の界面の構造の詳細な分析を行っていく.水平配向SWNTについては,密度を増加させるだけでなくその長さを長くすることも目指していく.低圧力でCVD合成することで密度が増加することが分かったが,一般に低圧力CVD条件では成長速度が遅く,合成量は低下する傾向にある.これはSWNTが成長しつづける時間(活性時間)が有限であることに由来すると考えられる.SWNT成長活性時間を長く保つことを目指し,長尺・高密度かつ高配向なSWNT合成を目指す.さらに,水平配向SWNTを用いたポリマー化も進め,その特性評価も行っていく
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度の計画として,SWNT複合材料の特性評価のための真空チャンバーを設計,作製する.温度やガス雰囲気などをこの真空チャンバー内で制御し,それら環境変化に対応する複合材料の応答からより詳細な分析を行っていく.これら真空チャンバーや真空ポンプ,温度制御装置などの実験設備の拡充を中心に研究費を用い,実験を進めていく.真空チャンバーにおいて,温度制御および圧力制御の実現が重要なポイントとなる.温度領域としては,室温を中心として低温(-20 C程度)から高温(1000 C程度)を想定している.いずれの温度領域においても,安定な温度制御には外界との断熱が必要であるが,分析を行うために顕微鏡の試料台上にこの真空チャンバーをセットしなければならなく,大きさに制限がある.高い制御性を実現できる設計を目指すため,研究費を効率よく使用していく.また,今後より様々なポリマーを吟味していくことに加え,現研究室は機械工学科所属であるため化学系の設備が充実しているとは言えない.そこで,化学薬品だけでなく化学反応や処理に必要な器具購入に研究費を用いていく.さらに,単層カーボンナノチューブ‐ポリマー複合体の分析には光学分光計測を行うが,ポリマーによっては現状の波長帯では測定できなくなる可能性がある.分析に必要な光学素子や,より効率よく測定するために感度アップなど測定系の向上にも,研究費を使用していく予定である.
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Research Products
(27 results)