2011 Fiscal Year Research-status Report
ディスクブレーキのパッドの剛性がもつ非線形な力学特性に着目した鳴き低減対策の提案
Project/Area Number |
23760209
|
Research Institution | The University of Shiga Prefecture |
Principal Investigator |
大浦 靖典 滋賀県立大学, 工学部, 助教 (60512770)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
Keywords | 振動解析・試験 / 自励振動 / ディスクブレーキ / 鳴き / ブレーキパッド / 静剛性 / 動剛性 |
Research Abstract |
自動車の制動に用いられるディスクブレーキは,制動圧を加えたときのブレーキパッドの静的な剛性が大きいほど効きが良くなる.また,振動が加わったときのパッドの動的な剛性が圧力に依存することが,制動時の騒音(鳴き)の原因となることがわかっている.本研究では,パッドの静的な剛性と動的な剛性が異なる原因を明らかにし,制動性能と静粛性を両立できるパッドの開発を目指す. 平成23年度は,パッドの動的な剛性と静的な剛性の両方を測定できる装置を開発した.実機の制動圧は,最大で2.5 MPa程度となる.このとき,パッドに生じる静的な変位は,50 μm以上になる.一方,鳴き振動は,振幅は1 μm程度だが,周波数は1000 Hz以上となる.本研究で開発した装置は,実際のブレーキパッドから20 mm×20 mmに切り出した試験片について,実機制動時の静圧と鳴き振動の周波数と振幅をもつ振動を加えたときの剛性を測定できる. まず,パッドにゆっくりと負荷を加えていき,ある荷重で除荷に切り替えたときの準静的な剛性を測定した.負荷から除荷に切り替わった直後の剛性が大きくなり,変位-荷重特性がヒステリシスをもつ.除荷開始直後の剛性は,最大圧力を最大変位量で割った静的な剛性の2倍以上となった.負荷から除荷に切り替える荷重が大きいほど,この剛性は大きくなる.次に,静圧をかけた状態で加振したときの動的な剛性を調べた.加振の振幅を小さくし,周波数を大きくするほど,剛性は大きくなる.そして,準静的な剛性を測定したときの除荷開始直後の剛性に近づいていく. 本研究で開発した剛性測定装置は,静的な剛性と動的な剛性の関係を明らかにできるため,制動性能と静粛性を両立できる剛性をもつパッドを開発するために有用である.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
パッドの静的な剛性と動的な剛性の両方を測定できる装置を開発した.一般的な材料試験機でもパッドの静的な剛性の測定は可能だが,動的な剛性は測定できない.そこで,本研究に先立ってパッドを鳴き周波数帯域の微小振幅で加振したときの動的な剛性を測定する装置を開発したが,静的な剛性やゆっくりと大振幅で加振したときの準静的な剛性は十分な精度で測定できなかった.このため,静的な剛性よりも動的な剛性が大きくなる理由については検討できていなかった.本研究において開発した装置を用いることで,加振振幅と周波数を大きくしていくと剛性が大きくなり,静的な剛性から動的な剛性に近づいていく現象が明らかになった.パッドの開発に重要な静的な剛性と動的な剛性の関係を調べることができる装置を開発したことが成果である. その一方で,パッドの剛性がもつ加振振幅依存性を十分に検討するためには,加振振幅が1 μm以下での剛性を測定する必要があることが明らかになった.現在,測定に用いている本学既存の渦電流式変位センサでは十分な精度で測定することができない.また,装置本体の共振周波数が設計よりも低く,鳴き周波数帯域での動的な剛性の測定精度に悪影響を与えている.そこで,パッド剛性の測定精度を向上させるため,装置の改善を優先している.このため,平成23年度に予定していたパッド剛性の力学モデルの作成は,平成24年度に取り組むこととなった. 研究内容の有用性が確認でき,今後の発展が見込めるため,おおむね順調に進展していると言える.
|
Strategy for Future Research Activity |
パッドの剛性に加振振幅と周波数が影響することが明らかになったので,実用化(制動性能と静粛性を両立したパッドの開発)に向けた基礎技術を確立するため,以下の3課題に取り組む.(1)装置の測定精度の向上:加振振幅1 μm以下の剛性を精度よく測定するために精度の良い変位センサに交換する.さらに,安定した剛性測定を行うために静圧の微調整ができるよう構造を変更する.また,装置本体の共振をなくし,剛性の周波数特性についても測定精度を向上させる.(2)鳴きやすさの異なる各種パッドの剛性測定:同程度の静的な剛性と摩擦係数をもっていても,鳴きやすさが異なるパッドが存在する.これらのパッドについて,鳴きやすさに影響が大きい動的な剛性を調べる.制動性能と静粛性(鳴きにくさ)を両立したパッドを開発するためのに,動的な剛性と静的な剛性の関係を決める要因(組成や気孔率)を明らかにする.また,静的な剛性と動的な剛性が異なる理由を説明することができるパッド剛性の力学モデルを作成する.(3)実機展開に向けた検証実験:大学所有の鳴き試験機を用いて,パッド剛性の違いが鳴きに与える影響を調べる.パッドの動的な剛性と静的な剛性のそれぞれが,鳴きが発生する圧力の範囲や鳴き周波数,鳴き音圧に与える影響を検討する.パッド剛性と鳴きやすさの関係を示すことで,本研究の有用性を示す.
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今後の推進方策に対応して以下を予定している.(1)測定装置の改善費用:変位測定に用いるセンサを渦電流式変位計から静電容量式変位計に交換する.導入予定の静電容量式変位計は,測定変位の分解能が5 nmであるため,パッド剛性の加振振幅依存性を十分な精度で測定することができる.また,装置内部に取り付ける加振部の構造を再設計することで,動的な剛性測定時に問題となる装置の共振をなくす.(2)試験片の作成費用:パッドの静的な剛性と動的な剛性が鳴きやすさに与える影響を調べるために,多様なパッドの剛性を測定する必要がある.各種パッドの購入と試験片を作成する加工費に用いる.(3)鳴き試験の実施に関わる費用:本学既存の鳴き試験機に剛性を測定したパッド試験片を取り付ける治具の作成やパッド試験片を押し付ける試験用ディスクの研磨などに用いる.
|
Research Products
(2 results)