2012 Fiscal Year Research-status Report
高温耐久低摩擦多元素金属窒化物膜形成に向けた小型フィルタードアーク蒸着装置の開発
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23760258
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Research Institution | Toyohashi University of Technology |
Principal Investigator |
田上 英人 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (50580578)
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Keywords | 電気機器工学 / 電力工学 / 真空アーク放電 / 金属窒化物膜 / 元素分析 |
Research Abstract |
これまでフィルタードアーク蒸着(FAD)装置は,アモルファス炭素膜形成用であったため,金属薄膜を形成するには困難であった。そのため,FAD装置で金属陰極アーク放電が容易に発生できるように放電発生部であるアークソースダクトを新規に作製し,作製したダクトの評価を行うとともに,本ダクトを用いて金属窒化物膜である窒化クロム(CrN)膜および窒化アルミクロム(AlCrN)膜の形成を実施した。以下に実施概要を示す。 (1)放電条件の探索:従来の放電用ダクトと新規に作製した放電用ダクトは内部構造が異なるため,条件を再探索する必要があり,放電条件の再探索を行ったところ,これまでは放電持続時間は5秒程度であったが,約5分間は持続できることを確認した。 (2)CrN膜の成膜:Crの単元素金属陰極を用いてCrN膜の成膜を実施したところ,膜内部に窒素が50%含有されていることを確認し,新規ダクトにおいても金属窒化物膜が成膜できた。また,生成膜表面を観察したところ,従来の真空アーク放電では陰極素材由来の異物であるドロップレットが確認できたが,FAD装置を用いて生成した膜の表面にはドロップレットが確認できなかったことから,表面が平坦であることを確認した。硬さにおいても従来のCrN膜(20GPa)より硬く25GPa程度となった。しかしながら,成膜速度が5nm/minと遅いため,放電条件の再探索を実施し,成膜速度の向上を目指す。 (3)AlCrN膜の成膜:AlCrの二元素金属陰極を用いてAlCrN膜の成膜を実施したが,CrN膜時と異なり,膜内部に窒素がほとんど含有されていないことがわかった(元素分析においてほぼ0%)。本原因については現在も調査しており,アーク放電条件がCr陰極の時と異なるのが大きな原因ではないかと考えている。成膜が可能になり次第,順次膜の特性分析を実施していく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の目標は,シミュレーション結果を基にして,新規アークソースの作製を行い,その後,AlCrの陰極を用いて放電実験から輸送プラズマの最適化を行い,AlCrN膜の形成を実施することであった。本年度の目標にはなかったが,多元素だけでなく,単元素にについても窒化物膜が形成できるか実施した。以下に達成具合を示す。 (1)金属陰極用新規ダクトにおいて,金属陰極に適した新規アークソースの設計・作製・組立を実施した。同ダクトを用いて,金属アーク放電が5分間連続放電できたため,設計および作製および放電条件の探索において目標を達成できたといえる。 (2)CrN膜の成膜において,元素分析から窒化していることを確認したため,単元素金属窒化物膜の成膜は達成できた。また,FAD装置で作製した膜は,従来のアーク放電で作製したCrN膜と比較すると,25GPaと硬く,表面にはドロップレットが付着していないため平坦であることを確認できたため,目標はある程度は達成できている。しかしながら,成膜速度が遅いという問題がり,次年度成膜速度の向上を行うため,もう一度金属放電条件の見直しを実施する予定である。 (3)AlCrN膜の成膜において,膜内部に窒素が含有されていなかったことから,膜の特性分析が遂行できておらず,多元素金属窒化物膜については目標は未達成である。しかしながら,本項目については,次年度計画にも入っているため,次年度の計画遂行に支障はない。
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Strategy for Future Research Activity |
単金属窒化物膜であるCrN膜の成膜速度向上および多元素金属窒化物膜AlCrN膜の形成の実現のため以下のことを実施する。 (1)CrN膜形成時の成膜速度向上:CrN膜は十分窒化しており,表面も平坦であり,硬さも十分であるが,成膜速度が遅く生産には向かないことが確認できている。FAD装置は各所に成膜用チャンバへプラズマを輸送するためのコイルが配置されている。各場所のコイルの磁界の方向および強さを最適化することで,成膜速度の向上(目標値:現在の2倍の10nm/min)を目指す。 (3)AlCrN膜の形成:CrN膜の時とは異なり,膜内部に窒素が含有していなかったため,もう一度アーク放電条件を見直す。また,膜に窒素が含有していないということは,プラズマ中に窒素が含まれていないことと考えている。現在は,窒素ガスをFAD装置内へ導入する際,現在はチャンバ部分で導入しているが,チャンバ部分では,輸送されてきたプラズマで窒素ガスが分解できておらず,そのためプラズマ中に窒素が含有していないと考える。以上のことから,最も窒素ガスを分解できるであろうアーク放電発生部近くから窒素ガスを導入し,膜内部へ窒素を含有するAlCrN膜の形成を実施する。AlCrN膜形成後,表面様相,硬さ,摩擦係数,密度および耐熱性を数値的に明確に評価する。 (4)本研究の総括:3年間の研究内容を総括し,外部発表を実施する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
物品費として,金属窒化物膜形成用陰極素材,成膜用基板,窒素ガスおよび補修用真空部品に用いる。旅費として,本研究最終年度であるため,本研究の結果を学会発表するために用いることとする。
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Research Products
(8 results)