2011 Fiscal Year Research-status Report
並列計算環境を活用した高効率電気機器設計のための実用的電磁界数値解析技術の開発
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23760271
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
高橋 康人 同志社大学, 理工学部, 助教 (90434290)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 高効率化 / 電気機器 / 並列計算 / PWMインバータ / 渦電流損 |
Research Abstract |
インバータ駆動モータの磁界解析などでは、スロット高調波・キャリア高調波に起因した物理現象を精確に模擬するために時間刻み幅を十分小さくしなければならず、また回転機は一般的に時定数が大きいため、定常機器特性を得るまでに膨大な時間ステップ数を必要とする。電気機器では計算負荷の小さい2次元解析を用いることが多いが、膨大な時間ステップ数に起因して結果的に多くの計算時間を要するため、さらなる高速化が強く要望されていた。そこで2011年度は、回転機の定常機器特性の高速な算出を目的とし、従来法とは全く異なる新たな並列計算アプローチとして、時間領域での並列計算手法である並列化時間周有限要素法を開発した。従来法である領域分割に基づく並列有限要素解析は大規模問題では有効であるが、上述のような2次元解析では規模が小さく並列計算の粒度を得ることが困難なため、電気機器内に発生する損失を高速高精度に算出するには従来の並列計算手法では不十分であった。本研究で開発した並列化時間周期有限要素法では、一般的に電気機器が有する形状・物理現象の周期性を活用し、1周期すべての時刻における非線形連立一次方程式を一つにまとめる。この規模を拡大した非線形連立一次方程式に並列計算を適用し、定常機器特性を直接算出する。特徴的な係数行列の構造に起因して並列化効果も優れており、解析データの入出力も含めて実装が比較的容易であるため、今後ますます普及していく並列計算環境下において非常に有望な解析手法と考えられる。そのため、開発手法を用いた誘導電動機・インバータ駆動IPMモータの損失解析に関する論文が当該分野の代表的学術誌へ掲載されるなど、本研究の成果は国内外で高く評価されている。本開発手法により、高効率電気機器に要する開発時間の短縮化が達成されるものと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
時間領域における並列化有限要素法を開発し、PWMインバータ駆動IPMモータを対象としたスロット高調波・キャリア高調波に起因した渦電流損の評価を行う、という初年度の目標を達成しており、おおむね順調に研究を遂行できたと考えられる。2011年度後半に集中的に行った当該分野の研究者との議論の中で、(1)過渡現象解析の並列計算への展開、(2)すべりも考慮した誘導機の定常特性解析の高速化、といった2011年度に開発した並列化時間周期有限要素法のさらなる発展の可能性が明らかになり、また次年度以降の検討課題である主にマイクロマグネティックスを用いた磁気特性モデリングに関しても、本モデリング手法で重要な役割を果たす積分方程式に関して有用な知見を得ることができており、準備状況としても問題ないと思われる。研究設備に関しては、(1)制御系・回路系も含めたシステム全体としての最適化を視野に入れ、MATLAB/Simulinkの購入、(2)ヒステリシス損の高速高精度モデリング手法開発のためのマルチコアプロセッサ搭載ワークステーションおよびGPUの環境整備、などソフトウェア・ハードウェアの両面において次年度以降の準備がほぼ完了しており、3年という研究期間全体から考えても非常に順調である。一方、国内外の学会参加による研究成果の発信という意味では不十分な面もあるが、当初の計画段階から旅費への配分比率は研究期間後半で高く、次年度以降重点的に取り組む予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
電気機器の磁気回路に用いられる電磁鋼板は、ヒステリシス特性・異方性を有しているが、平均的な磁化特性(初磁化曲線)のみを考慮して磁界解析を行い、鉄損評価は後処理で行うことが一般的である。しかし、鉄損算定のさらなる高精度化のためには、これら複雑な媒質特性を直接的に考慮することが必要不可欠である。そこで2012年度は、マイクロマグネティックス計算を用いてミクロな物理現象から積み上げたボトムアップ的アプローチによる電磁鋼板の磁気特性モデリングを目指す。磁気ヒステリシスモデル化手法としてはプレイモデルやプライザッハモデルなどのマクロな数理モデルが主流であり、小さい計算負荷で比較的良好な計算精度を有することが報告されているが、磁化の経時変化や異常渦電流損、応力依存性などの複雑な媒質特性を直接的に扱うことが困難である。一方、マイクロマグネティックス計算は、磁化回転や磁壁移動といった磁性材料のミクロな物理現象の取り扱いが可能であるため、高精度な磁気特性モデリングが期待できる。しかし、大きな磁区構造を有する強磁性体へ適用した場合には非常に膨大な計算コストを要するため、実用化に際しては高速多重極法の導入といったアルゴリズムの工夫に加えて、並列計算手法を用いた高速化が必要不可欠である。2012年度は、マルチコアプロセッサを用いた計算機クラスタにおいて、スレッド並列とプロセス並列を組み合わせたハイブリッド並列化について検討を行う。測定結果を基に様々なモデル化手法間の比較を行い、計算時間・計算精度・使用メモリの観点から実用的なヒステリシスモデル化手法の開発を目指す。また、マイクロマグネティックス計算のGPUへの実装も視野に入れ、基礎的な検討も行う。さらに、2011年度に開発した時間領域の並列有限要素法についても、前述のとおり過渡現象解析の並列化、誘導機解析の高速化を目指し、引き続き検討していく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
磁性材料に関するIEEE最大の国際会議Intermag2012や電磁界数値解析に関する国際会議CEFC2012のための参加費等、研究期間後半の1つの大きな柱である研究成果の発信に対し重点的に予算を配分(当初計画:350,000円)している。また、前述のように初年度には対応しきれなかった研究成果発表を行うため、さらに旅費を上積み(+50,000円)する予定である。具体的には、時間領域の並列有限要素法などの応用数理分野や情報処理分野にもまたがる内容についても、適切な研究会等にて発表していきたいと考えている。2012年度の目的である高速高精度磁気特性モデル化手法の開発には、測定結果との比較は必須であるため、カプトンテープやマグネットワイヤといった磁気測定実験用消耗品を物品費として計上している。また、計算機クラスタによるハイブリッド並列化を行う際に、スイッチングハブ、ルータ、LANケーブルなどの計算機関連消耗品が必要と考えられ、これらへの支出も予定している。物品費は、当初計画150,000円から旅費への充当分を差し引き、100,000円を予定している。
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Research Products
(25 results)