2011 Fiscal Year Research-status Report
異方性分子の凝集構造に依存する有機半導体の電荷輸送機構の解明
Project/Area Number |
23760278
|
Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
大野 玲 東京工業大学, 像情報工学研究所, 特任准教授 (70397058)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
Keywords | 有機半導体 / 秩序パラメータ / 双極子 / 電荷輸送 / 量子化学計算 |
Research Abstract |
当該年度は、まず、分子の凝集構造に注目し、並進・配向秩序性を有する構造の中での分子の双極子モーメントが、キャリアと相互作用をすることによってホッピング伝導するキャリアの局在準位の乱れ、分布を形成する機構を明らかにする理論モデルの構築に成功した。配向・並進秩序性の秩序分布関数を導入して、双極子の配向・配置のランダム性の抑制をあらわに表現、キャリア-双極子相互作用等による、静電エネルギーのN次モーメントを秩序パラメータの関数として計算・モデル化した。これによると配向秩序の形成によるディスオーダーには分子長軸に対する双極子モーメント方向の角度が小さいときには配向秩序形成につれガウス局在分布の分布幅(標準偏差)が狭まり、秩序形成につれ局在分布の乱れが低減するのに対し、magic angle =54.7度以上になり、分子長軸に対し双極子モーメントが垂直になると、配向秩序形成に対して分布幅は広くなることがわかった。双極子モーメントが1debye程度のものでは80meV前後の分布幅を有し、配向秩序形成に対して大きくても10meV程度の低減であった。これに対し、分子長軸方向に対して並進秩序パラメータを増大させ、周期的層構造を成す場合、効果はずっと大きく、30meVまで低減することがわかった。一方密度汎関数法を用いた、量子化学計算による各モデル材料のトランスファー積分の分布、 再配置エネルギー 永久双極子、分極率 の導出を量子化学計算を用い、B3LYP及びPW91/SAOPの手法により予定通りモデル材料に対し導出を行った。特にトランスファー積分については、隣り合う分子同士の向き合い方により0~100meV前後までさまざまに変化する様子を明らかにした。今後この値をディスオーダモデルを反映させ、材料に対する電荷輸送特性予測手法への確立に向け、前進した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、目的課題である「異方性分子からなる有機半導体を対象とするポーラロンホッピング伝導機構明らかにし、実用材料を評価する手法を確立する」ため、各材料に対するモデル計算は複数年度継続して行う一方で、モデル構築そのものは、年度ごとに達成目標を設定しており、まず〔1年目〕個々の分子のホッピング伝導におけるトラスファー積分・再配置エネルギー・永久双極子によるディスオーダーなどの導出方法を確立し、〔2年目〕凝集体全体としてDisorder Modelを構築、一年目で明らかにしたパラメータに基づき電荷輸送モデルを構築したのち〔3年目〕実デバイス・特に有機トランジスタ・有機太陽電池にモデル材料を適用した場合にどのような特性・効率を発揮するか予測するモデルシミュレーションを完成するとしている。今回はこのうち1年目の目的をほぼ達成したと判断できるので、おおむね予定通りの進捗と判断できる。モデル化そのものについて言えば1年目のモデル化はトラスファー積分・再配置エネルギー・永久双極子によるディスオーダー共に既存の量子化学計算ソフト(ADF・Gaussian)を応用して、導出手法の確立をほぼ達成できたといえる。特に永久双極子によるディスオーダーは1分子内に束縛されているキャリアが周囲の分子の双極子モーメントのstaticな乱れにより局在準位が乱れ、その分布を分子配向・並進秩序の関数としてモデル化に初めて成功した。またトランスファー積分においては2分子間の位置・配向関係に応じてeffective transfer積分を導くことに成功しており、2年目のモデル化の際に必要な要素の確立はほぼ達成したと考えられる。
|
Strategy for Future Research Activity |
一年目において分子に着目して電荷輸送予測に必要な物性パラメータを量子化学計算手法を用いて導く手法を確立した。2年目は凝集体全体としてDisorder Modelを構築、一年目で明らかにしたパラメータに基づき電荷輸送モデルを構築し、凝集体全体での電荷輸送機構の解明を行う。その際、凝集構造のなかでホッピング電荷輸送にかかわる秩序性(並進秩序パラメータ・配向秩序パラメータ)を電荷輸送シミュレーションのモデルに反映させる。ホッピングサイト間の位置関係を考慮して実材料に対応する動径分布関数を有する格子構造を構築し、その構造に基づいて、disorder modelを基本とした電荷輸送モデルを構築する。また実デバイスに反映させるため、これまでのDisorder Modelにでは例の少ない、フェルミ準位・空間電荷も考慮したI-V特性など定常状態のモデル系のシミュレーション構築を行う。ただし、モデル構築の際にモデル格子の構造については普遍性を確保するため、輸送に必要な特徴のみ取り出し、詳細な構造は反映させない。その際必要な格子構造が何かを検討するため、分子動力学の手法も参考にしたいと考えている(しかし先ほど述べたモデルの普遍性を確保するため分子動力学で得られた構造の詳細を直接モデルに取り入れることはしない)。3年目にはトランジスタ・太陽電池のモデル化を行う予定でいるが、本年度はその準備段階として各デバイス構造の検討と現象論モデルの構築も行う。現象論モデルを活用して現在所属する研究室で行われている実デバイスの解析を行うことにより、デバイスの現象論的特性を明らかにしていきたい。当初予算に対し、残額が生じたが、これは国際学会の参加が4月頭初旬になったこと、量子化学計算用ワークステーションを2台で無く、より高額・高性能のもの1台購入する一方、分子動力学の計算のための環境構築を翌年実施するためである。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
シミュレーションの構築と実行のため、昨年度購入したワークステーションを用いた量子化学計算を継続して行うと共に、所属大学の所有するスーパーコンピュータTSUBAMEを使用して研究を遂行する。ワークステーションでは量子化学計算の効率化を図るため、ハードウェアの増設とソフトウエアの最適化(再インストール)を検討している。また新たなシミュレーション構築のための、Fortran、C++言語等のコンパイラ購入も予定している。一方、2年度目の電荷輸送構築のための分子の凝集構造を検討することを主な目的として、関連国際学会などに参加し、調査・ディスカッションを行う予定でいる。学会としてはMaterials research Society、Gordon Research Conferences 、International Liquid Crystal Conferenceを予定している。各学会では3年度目のデバイス構造についても調査したいため有機トランジスタ・有機太陽電池の構造についても検討する。さらに一年度目は論文出版が間に合わなかったが、現在投稿中のキャリア-双極子相互作用における局在準位の乱れに関する論文の出版、電荷輸送に関するディスオーダーモデルに関する論文出版を予定している。
|
Research Products
(12 results)