2012 Fiscal Year Research-status Report
異方性分子の凝集構造に依存する有機半導体の電荷輸送機構の解明
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23760278
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
大野 玲 東京工業大学, 像情報工学研究所, 准教授 (70397058)
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Keywords | 有機半導体 / マーカスの電子移動 / モンテ・カルロ・シミュレーション / ディスオーダーモデル / ホッピング伝導 |
Research Abstract |
我々はBTBT、ターフェニル、ターチオフェン、アセン骨格のものや、さらにその骨格に対してチオフェンやフェニル基が単結合した骨格の誘導体の中で、幾つかの代表的な、棒状分子の双極子モーメント・電子分極率・再配置エネルギー、トランスファー積分を求めた。中でも、骨格が同じであっても、異なる置換基を有する分子は双極子モーメントの違いが現れるが、これにより、前年に我々が構築した双極子の配向・並進秩序性に従って変わる、Gauss分布型の局在準位を示す分布幅(標準偏差)にあたるエネルギーのディスオーダーの大きさを求めた。 これら分子材料の電子伝導をポーラロンのホッピング伝導と考え、マーカスの電子移動の式を採用して、2次元のモンテカルロシミュレーションを構築し、幾つかの材料について実行、移動度の挙動をTOFにより得ている実験値と比較したところ、各温度でオーダーとしては妥当な挙動を示した。また温度依存性、電場依存性共にそれぞれの温度域では実験値と妥当な一致をしており、Disorder Modelによる伝導モデルの適用性が示された。トランスファー積分の大きさは、隣接分子どうしのgeometryに依存して様々に変化するが、4~6Aの分子間距離では、ほぼ1~数+meVのところに集中して分布する一方、再配置エネルギーが数百meV、エネルギーのディスオーダーが40~80meVのものが多く、ホッピン伝導をする材料においては、トランスファー積分の分布よりも、熱活性の要因により伝導が律速されていることが分かった。 デバイスシミュレーション構築の前準備として、有機トランジスタにおける絶縁膜/半導体界面で、絶縁膜からの双極子の乱れによるエネルギーのディスオーダーの寄与をオーダーパラメータを用いてモデル化した。これにより有機絶縁膜と有機半導体の界面で電子伝導の影響について、双極子の乱れの影響を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究そのものの進捗は順調だと判断している。平成23年度は量子化学計算による電子伝導にかかわる物性パラメータの導出中心であったが、市販のソフト(Gaussian09、ADF)を用いて有機半導体としての特性予測に十分な精度を得ることが出来るようになり、手法が確立した。そこで当該年度、平成24年度は量子化学計算を用いた物性値の導出をさらに進めると共に、電子伝導そのものの予測に結びつけるため、電子伝導のモンテカルロシミュレーションを構築した。 分子および構造の異方性を考慮して、二次元格子上の伝導モデルを構築したが、バンドライクな伝導とは違い、ホッピング伝導は構造の周期性に依存しないので隣接する分子の短距離秩序のみ考えればよく、逆に、規則正しい格子でシミュレーションを行っても、モデルとしてより秩序性の低い系に対しても本モデルの適用は可能であった。むしろ構造の詳細はキャリアー・双極子相互作用におけるエネルギーのディスオーダーに関係しているという予想通りであり、電子伝導に関してTOFの実験とその挙動の一致を確認し、当該年度の計画どおりに、実用性に耐えるに十分なモデルの構築に成功した。 デバイスシミュレーションの方は次年度、実際に構築する予定であるが、有機ELの電極・有機半導体界面や、有機トランジスタにおけるゲート絶縁膜半導体界面など、デバイス特有の条件を検討している。ディスオーダーモデルと関連しており、無機半導体にはない、有機半導体特有の伝導特性に反映するため、本特性を考慮したデバイスシミュレーションの構築は重要であると考えるが、前年度の前準備として十分な検討を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
オーダーパラメータとディスオーダーの相関についてはその関係式の導出に成功した。これを元に、当該年度に作成したディスオーダーモデルに基づけば移動度が1cm^2/Vs以下の殆どの有機半導体における電子伝導の特性を本モデルを用いて解析し、明らかにすることができると考えられる。しかし、材料特性として、どのような分子構造・分子設計をすれば電子伝導特性が向上するのか明らかになっていない。縮環構造を有するなどして、再配置エネルギーを低減させること、双極子モーメントを小さくしてエネルギーのディスオーダーに寄与させないこと、この2点については個々の分子構造について考えられる傾向である。しかし、凝集構造、ここではオーダーパラメータとの関係性を明らかにしてきたが、どのような構造設計を考えれば、電子伝導に有利なオーダーを形成できるのか、ディスオーダーモデルの観点ではエネルギーの空間相関をどのようにすれば伝導特性を向上できるのかその点を考慮に入れたモデル構築に取り組む。トランスファー積分については、さらに2分子間の様々な配置に対する値を求めていき、構造との相関を明らかにしていきたい。 一方デバイスモデルにおいては、ゲート絶縁膜からの双極子によるエネルギーのディスオーダーへの寄与を取り入れた状態密度を考慮する伝導モデルを導入する必要が、これまでの研究から明らかになってきた。そこで平成25年度においては有機トランジスタについてこのような機構を導入したデバイスモデルの構築を予定している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
シミュレーションの構築と実行のため、ワークステーションを用いた量子化学計算を継続して行うと共に、所属大学の所有するスーパーコンピュータTSUBAMEを使用して研究を遂行する。その際、GaussianおよびADFについて、これらのソフトウエアを現在未インストールのマシンにも導入する。そのため、TSUBAME使用料、ソフトウエアライセンス・コンパイラの購入を予定している。また有機トランジスターに関するデバイスシミュレーションについては、既存のモデル・ソフトではなく、Fortran、C++言語を用いてモデル構築する。したがってそのためのコンピュータの購入及びコンパイラソフトの購入を予定している。 また国際学会などに参加し、調査・ディスカッションを行う一方、成果を報告する予定でいる。学会はMaterials Research Societyを予定している。 投稿論文については、キャリア-双極子相互作用とエネルギーのディスオーダーとの関係について、関連の論文、ディスオーダーモデルに関する電荷輸送関連の論文、分子配置とトランスファー積分との関係を議論した論文の出版を予定している。
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Research Products
(6 results)