2011 Fiscal Year Research-status Report
モバイルMIMOブロードキャスト方式に適した通信方式の構築と解析
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23760329
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Research Institution | The University of Electro-Communications |
Principal Investigator |
竹内 啓悟 電気通信大学, 情報理工学(系)研究科, 助教 (30549697)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 情報通信工学 / 移動体通信 / MIMO / ユーザ選択 / 確率伝搬法 / 順序統計理論 |
Research Abstract |
持ち運び可能な無線端末が普及した現代、一つの基地局から複数の移動局(以後、ユーザと呼ぶ) に情報を効率的に伝送するモバイルブロードキャスト(BC)方式の重要度が増しつつある。複数のアンテナを利用して通信を行う多入力多出力(MIMO)方式は、主に単一のユーザの伝送効率を高めるための方式として実用化されてきたが、BC方式としても利用が可能である。本研究の目的はMIMOを使ったモバイルBC方式に適した実用的な通信方式を構築し、その性能解析を行うことである。 通常、通信路状態等に基づいてユーザ毎に送信電力を調整する電力制御が基地局で行われる。また、通信路の状態が良好な場合には多値変調が行われることもある。簡単化のため、本年度はすべてのユーザの送信電力は等しいものとし、変調方式としては最も単純な4位相偏移変調(QPSK)のみを検討した。本年度の主要な成果は、モバイルMIMOブロードキャスト方式に適した通信方式としてデータ依存型ユーザ選択法を提案し、その有効性を計算機シミュレーションによって確認したことである。従来のユーザ選択法では、通信路の状態が良好なユーザを選択して優先的に情報を伝送することによって送信電力効率を高めていた。一方、提案したデータ依存型ユーザ選択法では通信路の状態だけでなく、送信データシンボルも考慮して選択するユーザを決める。ユーザ選択を送信データにも依存させることで、特にユーザ選択の更新頻度が高いモバイル環境では従来法に比べて送信電力効率を改善できることを示した。 なお、本年度に得られた成果は電子情報通信学会の英文誌(IEICE Transactions on Fundamentals)に学術論文として投稿中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度の研究自体は、申請時に記載した研究実施計画の通りに実施することができた。得られた成果自体の学会発表は行わなかったが、これは平成22年度に前倒しで成果発表を行ったためである。また、査読に大抵半年以上を要することを考慮すると、学術雑誌に本研究の成果を公表できなかったのも致し方ない。なお、平成23年度には本研究と関連する学術論文を2件、国際会議論文2件を公表した。学術雑誌論文の中1件が掲載された雑誌「IEEE Trans. Inf. Theory」は、当該分野で最も権威ある学術雑誌の一つで、2005年から2009年までの年平均インパクトファクター(IF)は約4.31と非常に高い。参考として電子情報通信学会の英文誌(E-A)の対応するIFは約0.325なので、この雑誌は約13倍の高いIFを有する。また、公表はしていないものの、平成24年度に行う予定の研究を一部前倒しして平成23年度に実施した。以上の理由から、現在までの達成度は「おおむね順調に進展している」と判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度はデータ依存型ユーザ選択法の理論的な性能解析を行う。従来の理論解析ではアンテナ数に比べてユーザ数が十分大きい極限を仮定して、極値統計理論を用いた性能解析が行われてきた。この極限下で得られる解析結果は、例えばアンテナ数が4本、ユーザ数が64人のシステムの性能に対する近似とみなすことができる。しかしながら、アンテナ数が8本、16本と増えていくにつれて従来法の近似の精度は悪化してしまう。このようなアンテナ数は現実的な本数となりつつあるため、例えば、アンテナ数が16本、ユーザ数が64人のシステムの性能をよく近似できるような理論の構築を目指す。そこで、本年度は順序統計理論に基づいて大システム極限を仮定した理論解析を実施する。大システム極限とはアンテナ数とユーザ数との比を一定に保ちながら、両者を無限大にした極限である。大システム極限では従来のデータ非依存型ユーザ選択法を使用するメリットはなくなるのに対して、提案手法であるデータ依存型ユーザ選択法を使用することで、大システム極限下でも送信電力の削減が可能性であることが見込まれる。なお、平成24年度の成果をISIT2012やISITA2012等の国際学会で発表することを目指す。 平成25年度は残された課題である電力制御問題の解決と多値変調への拡張を実施する予定である。電力制御に関する問題の解決策として、電力制御とユーザ選択とを同時に最適化することを行う。多値変調への拡張については、多値変調とデータ依存型ユーザ選択とを単純に組み合わせた場合の問題点として、振幅の大きい信号点は振幅の小さい信号点に比べて選択されにくくなるという点が挙げられる。このような状況に対処するために、符号化変調を行うことを検討する。さらに、得られた成果をIEEEや電子情報通信学会等の学術論文として公表することを目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度の研究費の振込が遅延した影響により、国際学会1回分の費用を別経費で捻出したために、平成24年度への繰越金約17,5000円が生じた。 平成24年度の研究費は成果発表を行うための旅費に重点を置いて配分する。具体的には、当初予定よりもどちらも倍増の、国際学会2回、国内学会2回の成果発表を行う予定である。追加した学会発表の参加費用には前年度の繰越金を活用する。さらに、当初予定していたよりも論文掲載料が安くおさまる見通しであるため、その分を追加した学会の参加費に充てる。また、プリンターやRAID装置のハードディスクの一部の耐用年数が迫っているために、施設備品費や消耗品費をこれらのリプレースに充てる。以上まとめると、物品費に158,000円、旅費に58,1000円、謝金等に0円、その他の経費に236,000円、平成24年度の合計所要研究費は97,5000円である。これは繰越金17,5000円と平成24年度直接経費請求額800,000円の合計975,000円と合致しており、妥当である。
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Research Products
(8 results)