2011 Fiscal Year Research-status Report
方向依存性に起因する非線形摩擦と重心のずれを考慮した全方向移動ロボットの軌道制御
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23760380
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
江丸 貴紀 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (30440952)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | nonlinear friction / trajectory control / nonlinear compensator |
Research Abstract |
本研究は,オムニホイールを用いた全方向移動ロボットマニピュレータにおける,1)オムニホイールの方向依存性に起因する非線形摩擦,2)移動ロボットにマニピュレータを搭載した際の重心のずれ,という2つの大きな問題解決を目的としたものである。平成23年度は,研究計画に従い以下の2つの課題について研究を行った。課題1 [オムニホイールの非線形摩擦のモデル化]:本課題については,車輪と床面の摩擦について一般的なモデルを構築し,シミュレーションでその有効性を確認した。その結果,特定の床面を仮定した場合における妥当なモデルを構築することができた。平成24年度以降は,様々な床面を想定し,提案する摩擦モデルの妥当性を検証することが必要である。課題2 [オムニホイールの非線形摩擦に対してロバストな軌道制御系の提案]:我々が目的とする摩擦は非線形かつ時変特性を持つため,一般的な制御器で精度よく制御することは大変困難である。平成23年度は,既存のPID制御系や最適制御系に対し容易に追加できる非線形補償器の開発を目的とし,これまで提案してきたディジタル加速度制御系(DAC)を改良し,非線形補償器としての性能を向上させる研究を行った。具体的には,慣性項に対してオンラインシステム同定を適用する手法を提案し,ロバストな非線形補償器が構成できることをシミュレーションおよび実験により確認した。平成23年度は,提案手法をロボットマニピュレータに適用したが,本制御手法はマニピュレータのみならず非線形な要素を持つメカニカルシステムに対し汎用的に適用できる可能性を持つため,大きな研究成果であるといえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要に記載した通り,平成23年度は2つの課題を解決することを目的に研究を実施した。課題ごとの評価は下記の通りである。課題1 [オムニホイールの非線形摩擦のモデル化]:平成23年度は車輪と床面の摩擦について一般的なモデルの構築を行い,その有効性をシミュレーションによって確認した。しかしながら,オムニホイールに固有の問題である方向依存性に起因する非線形摩擦について,実機の挙動と一致するような精度の良いモデリングができたとは言い難い。また,特定の床面を想定した場合のモデルは得られたが,様々な床面を想定した場合のモデリングについても今後の課題として残っている。これからの研究を推進するに当たり,その基礎となる一定の成果を上げることができたが,残された課題も多いため,評価を「(3)やや遅れている」とする。課題2 [オムニホイールの非線形摩擦に対してロバストな軌道制御系の提案]:平成23年度は既存のPID制御系と容易に組み合わせることができる非線形補償器の開発を行った。これまでの研究では慣性項に変化がある場合,例えばペイロードに変化がある場合には制御性能が劣化するという問題点があった。そこで,本研究では慣性項に変化がある場合でもロバストに制御することを目的とし,慣性項のオンラインシステム同定を行った。その結果,ペイロードに変化がある制御対象を精度よく制御できる制御系を提案することができた。ここで提案した制御器は移動ロボットのみならず様々なメカニカルシステムの制御に応用が可能であり,さらに既存のPID制御器に組み合わせることにより非線形項が補償できることから有用性が高いと考える。そこで,この評価を「(2)おおむね順調に進展している」とする。これらを踏まえ,平成23年度全体の自己評価として「(2)おおむね順調に進展している」とする。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度は,平成23年度の研究によって得られた成果,そして課題を元に研究を実施する。具体的には,平成23年度で残された課題1を解決するとともに,課題3,4という新しい課題を解決することを研究の目標とする。課題1 [オムニホイールの非線形摩擦のモデル化]:平成23年度で得られた成果をもとに,より汎用的なモデルの構築を目指す。具体的には,モデルにおけるパラメータを決定するための実験を様々な環境下で行うことにより知見を深め,モデルの一般化を目指す。課題3 [重心のずれのモデル化]:小型高出力のサーボモータを用いることによりマニピュレータを構成し,全方向移動ロボットの車体に搭載する。このマニピュレータを駆動することにより重心のずれが生じるため,これをモデル化し,重心のずれを補償する制御法の構築を目指す。このモデル化は大変複雑であるため,最初の段階としてはロボット上に倒立振子が存在するようなモデルを想定し,モデルの3次元化を目指す。ここで構築する重心のずれのモデルは,全方向移動ロボットのみならず一般的な車両移動型ロボット,クローラ型ロボットなどに対して拡張可能なものでなくてはならず,そのための評価もここで行う。課題4 [重心のずれに対してロバストな軌道制御系の提案]:強い非線形時変特性を持つ重心のずれに対して,課題2で得られた制御法をまず適用し,それを発展させることにより効率的な研究の推進を図る。重心のずれのみならず,様々な非線形モデルに対し提案する制御法を適用することにより,汎用的・実用的な非線形補償器を構成するための知見を得る。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初計画では,調査・資料収集のための旅費を160千円計上していたが,国内のみならず国外での調査も必要となり,2011年11月17-18日にソウル大学で行われた「The 7th Seoul National University and Hokkaido University Joint Symposium on Mechanical and Aerospace Engineering」に参加したため,当初の予算を超過した額を執行した。消耗品費については当初予算よりも大幅に減額した額を執行しているが,これは既に代表者および研究協力者が所有する計測機器などを流用することにより,効率的に研究を行ったためである。なお,平成23年度の予算執行においては小型全方位移動ロボット(当初見積もりでは552千円)の購入が最も大きな割合を占めていたが,実際には481千円で納品されたため,既に述べた消耗品費の圧縮と併せて70千円ほどの繰越金が発生した。平成24年度については,旅費として調査・資料収集を目的に予算を計上しているが,成果発表を目的とした旅費は計上していない。本研究費によって得られた研究成果を迅速に社会に発信することが重要であるため,繰越金を成果発表のための旅費として使用する予定である。その他の設備備品,消耗品などは,研究代表者や協力者が所有する備品・機器などを考慮し,計画に従い効率的に執行する予定である。
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