2011 Fiscal Year Research-status Report
情報論的制約下におけるマルチエージェント合意問題に対する確率アルゴリズムの構築
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23760385
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
石井 秀明 東京工業大学, 総合理工学研究科(研究院), 准教授 (50376612)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 制御工学 / マルチエージェント系 / 合意問題 / 確率アルゴリズム / 通信制約 |
Research Abstract |
本研究では,システム制御の分野で注目されているマルチエージェント系の協調制御のうち,合意問題に焦点をあてる.エージェント間の情報論的な制約が厳しい場合を扱い,極力少ない通信で合意を達成するアルゴリズムの構築を目的とする.今年度は,平均合意アルゴリズムに関して,エージェント間の接続構造が時変な場合や,エージェントが非線形系である場合を考えた.分散計算による PageRank アルゴリズムや,通信制約に関する基礎的な研究も並行して行った.主な結果は以下の3つにまとめられる. (1) 平均合意問題において,これまで研究代表者らはエージェント系が有向グラフで表される場合を考え,最低限の接続下で平均合意を達成するアルゴリズムを提案してきた.今年度は2つの拡張を行った.第1に,接続構造が時変な場合に有効なアルゴリズムを導出した.第2に,エージェントのダイナミクスが非線形な蔵本振動子として表されるケースに対して,全エージェントの固有角周波数の平均値に収束する手法を求めた.さらに,より一般的な合意問題において,エージェントモデルが不確かさな場合に対する適応制御法も得た. (2) 分散型確率アルゴリズムに基づく PageRank 計算において,エージェント間の通信が計算結果に与える影響についても進捗があった. (3) ネットワーク化制御における基本的な結果である最小通信レート問題に関しても,不確かさを持つシステムに関して新たな結果を得た. 主に理論研究を進めたが,有効性の検証はシミュレーション実験を通じて行った. 今年度は以上の結果の一部を,IEEE Conf. Decision & Control (12月,Orlando USA),計測自動制御学会 第40回制御理論シンポジウム(9月,大阪),第12回制御部門大会(3月,奈良),電子情報通信学会 ソサエティ大会(9月,札幌)などで発表した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
広くネットワーク化制御および合意問題を中心としたマルチエージェント系に関する研究を進めることができ,新たな結果や方向性が得られてきている.上記の研究実績で挙げた課題(1)~(3)の研究結果は,いずれも本研究で目指す方向に沿ったものである.次年度に引き続き取り組むべき課題が多く残されており,新たな発展が期待されている. 当初,研究計画で検討を予定していた課題の中で,やや遅れ気味なのは,合意問題における耐故障性の向上に関する研究である.研究内容に関して想定していなかった問題が生じたためであるが,これについては引き続き取り組む予定である. 他方で,不確かなダイナミクスを持つエージェント系に対する適応制御にもとづくアプローチに取り組むことができた.そこでは各エージェントは本来異なるダイナミクスをもつが,局所的な情報交換を通じて協調することにより,同一の状態方程式を持つシステムへと適応的に制御を行う.従来法では困難であった不安定なダイナミクスを持つ系にも適用可能であり,さらに情報交換に用いるネットワークが2重の構造をもつことを許容する等,優れた特徴をもつ手法である.耐故障性の問題と目指す方向が近い研究でもあり,この分野ではあまり研究されていない独自の結果が得られている.
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Strategy for Future Research Activity |
今年度進めてきた通信制約と分散協調制御に関する研究の方向性を強化するとともに,新しい発展を目指す.とくに本研究ではロバスト性や耐故障性の向上に関する研究も目的に掲げているので,力を注ぎたい.上記の研究実績で挙げた課題(1)~(3)については継続して検討する.並行して新たに課題(4)にも取り組み,より高度なアルゴリズム構築やその解析を行う. 1. 理論構築:(1)(a) 平均合意アルゴリズムにおいて,通信時の時間遅れやデータ損失を考慮し,その影響の抑制を目指す.(b) システム中の一部のエージェントが故障した場合の最悪ケースとして,そうした異常エージェントが他の正常なエージェントを妨害する状況を考える.正常なエージェントが合意するためのアルゴリズムを設計する.状態が2値の場合は情報科学でビザンチン問題として知られるが,その実数値の場合への拡張を行う.(2) PageRank の分散型計算と合意問題は理論的に近いため,他の課題で得た成果を適用することを検討する.分散的なアルゴリズムでは,悪意のあるページ所有者が現れる可能性があるため,計算結果の信頼性を保証する手法を考える.(3) 通信レートを陽に考慮したマルチエージェント系の合意問題を検討する.(4) これまで合意問題とPageRank 計算に関して培ってきた成果と知識を動員し,総合的な見地から,これらを含む分散型確率アルゴリズムの広い一般的な枠組みを構築する. 2. 実験による検証:前年度の実験結果を基に,より規模の大きいシステムに対して提案アルゴリズムを適用し,数値実験を通して収束速度の特性や計算結果の精度等を確認する.また,応用面での課題を検討するために,実験機による検証を行う. 3. 研究発表:理論的な成果については,前年度と同様の会議での発表を行う.また,研究成果をまとめ,雑誌への投稿を行う.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度に使用予定の助成金があるが,これはセンサネットワークの実機を用いた実験による検証を進めるつもりであったが,準備が多少遅れたためである.そのため,機材の購入を予定していた予算の一部を次年度に回すこととした.研究費のの使用計画は,以下のとおり. 設備備品費: 書籍は本研究で中心的な分野である制御理論,情報科学(とくに分散型アルゴリズム)関連のものを購入する.最新のものを揃えられるよう次年度も計上した. 消耗品費: 実験で用いるセンサネットワーク系のために,電気電子部品代を計上した.Rabbit社のシングルボードコンピュータ(1台あたり15千円)を使用する予定である. 謝金等: 研究補助は主に大学院生に対して支払うものであり,プログラム作成や関連する準備作業にあてる.1時間あたり1千円程度とした. 旅費: 主として研究代表者および大学院生が行う調査・研究と成果発表の分を計上した.1回あたり,国内は70千円,外国は200千円を目安とした. その他: 学会参加費として,調査・研究と成果発表の際に必要な分を計上した.最終年度は,研究成果やシミュレーションツールを公開するホームページ作成の予算が必要となる.
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