2011 Fiscal Year Research-status Report
エレクトロポレーションの非線形時空ダイナミクス:モデリング・解析・制御
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23760390
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
薄 良彦 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 講師 (40402961)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 制御工学 / バイオテクノロジー / 電気機器工学 / マイクロマシン / 流体工学 |
Research Abstract |
本研究の目的は,エレクトロポレーション(電気穿孔)の制御プロトコルの確立である.本研究を通してエレクトロポレーションの力学と制御原理を明らかにし,エレクトロポレーションによる細胞膜制御システムの開発とマイクロ流路デバイスによる実用化を目指す.平成23年度はエレクトロポレーションの非線形時空ダイナミクスの主にモデリングに関わる研究を遂行し,以下に記述する成果を得た. まず,脂質二重層膜・懸濁液・電極で構成されたシステムに生起するダイナミクスのモデリングとその解析に向けた準備を行った.具体的には,本年度は電界分布を決定するポアソン方程式, 外部因子の輸送方程式に基づく数学モデルを構築した. 特に,孔の生成・消滅は離散値変数のダイナミクスとして記述し,連続値及び離散値変数が混在したハイブリッドシステムとして数理モデルを定式化した.ハイブリッドシステムとしての定式化は計算機シミュレーションに適した数理モデルであり,今後の研究において重要である.続いて,非線形時空ダイナミクスのシミュレーションに向けて必要となるコードの開発を進めた.具体的には,連続値変数の変化を記述する偏微分方程式の時空間離散化やそのコード化を進めた.さらに,解析の汎用性・拡張性を確保するためマルチスケール・マルチフィジックス現象の汎用解析ソフトウェア(COMSOL社製汎用工学シミュレーションソフトCOMSOL)を用いたコードの開発を視野に計算機環境の整備も進めた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成23年度の研究において成果に至らなかった点として流体運動の数理モデリングにある.一般に非圧縮性の流体に対する運動方程式はナビエ・ストークス方程式で与えられるため,上記数理モデリングは一見容易に思われる.しかしながら,現象論の観点から数理モデルを構築するためには流体運動の物理的描像の把握は不可欠であり,この点について鋭意取り組んではいるが研究成果としては至らなかった.
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度は,脂質二重層膜・懸濁液・電極で構成されたシステムの計算機シミュレーションと解析を進める.特に,平成23年度に達成できていない流体運動に関するモデリングを進めることにより,本年度の早い段階でコードの開発を終了し,力学系の観点からエレクトロポレーションの発生メカニズムを検討する段階に移る.本研究の目的である制御プロトコルの設計に向けて,開発したコードを用いて直流(パルス)電圧と交流電圧に対するエレクトロポレーションの基礎データを収集する.特に発生メカニズムの理解に向けて,本研究では電極への電圧印可により生成・消滅する孔の半径分布に着目し検討を進める. 続いて, 解析の結果に基づいてエレクトロポレーションの制御プロトコルを設計する.制御入力は電極への印可電圧であり,制御目的は(i)所望の膜透過率の達成と(ii)膜を介した外部因子の導入である.制約条件として,ダイナミクスが可逆エレクトロポレーションである事,即ち外部因子の導入後に膜透過率が初期状態に戻る事を要求する.可逆エレクトロポレーションの発生は制御電圧や脂質二重層膜の形態変化などに影響を受ける.計算機シミュレーションにより可逆エレクトロポレーションの発生条件を定量的に検討する必要があるが,予備的検討から制御電圧による脂質二重層膜への機械的ストレスがその発生に支配的という知見を得ている.そこで,外部因子(DNA)の断面積・孔半径分布を表す密度関数・制御入力(のパワー)を評価関数に組み込み,この評価関数が最小になるよう制御電圧を決定する.最後に,上記設計した制御プロトコルを含めた非線形時空ダイナミクスを検討し,制御の有効性を検証する.以上を通して提案制御の実現可能性までを明らかにする.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究においては次年度に使用する額が発生し,平成24年度に繰り越されることになった.平成24年度は繰り越した額を含めた予算を申請時に予定していた使用用途に加えて,計算機シミュレーションに向けた更なる計算機環境の整備や本研究課題の今後の展開に向けた物品購入費用などに充当する予定である.
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