2011 Fiscal Year Research-status Report
中長期アンサンブル気象予測情報を活用した貯水池操作手法の開発
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23760462
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
野原 大督 京都大学, 防災研究所, 助教 (00452326)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | アンサンブル予測情報 / 貯水池操作 / 渇水 / 動的計画法 |
Research Abstract |
本研究の目的は、これまであまり明らかにされてこなかったダム貯水池の利水放流決定問題における中長期アンサンブル予測情報の利用性に関する分析を行い、アンサンブル気象予測情報を利用したリアルタイムでの貯水池放流意思決定手法を開発することである。平成23年度は、アンサンブル予測情報を用いた貯水池操作決定手法のプロトタイプとして、アンサンブル予測情報と理論的に共通する部分が多くかつより一般化された理論が確立されている確率予測情報を用いた貯水池利水操作決定手法を開発した。具体的には、予測の信頼性や識別性など、予測の不確実性に関する指標を定め、これを用いた確率予測情報の類型化するとともに、貯水池の利水放流決定問題を、貯水量や水需給構造などから類型化した。続いて、確率予測情報を加味した上での貯水池の最適利水放流戦略を、確率動的計画法を用いて決定し、決定された戦略に基づいて利水放流を行った場合に生じる渇水被害の多寡によって予測情報を考慮したことの効果を分析するためのシミュレーション分析モデルを構築し、予測の不確実性に関する類型指標と利水放流決定問題に関する類型指標との様々な組合せについて操作シミュレーションを行い、予測情報の利用性や効果に関する分析を行った。その結果、確率予測情報を利水放流決定に用いる場合に予測情報の信頼性と識別性のいずれが重要であるかについて、特にダム地点において貯水量が少ないいわゆる渇水の状態と、貯水量が比較的多い状態とでは互いに異なる結果となり、貯水池の状態によって求められる予測情報が異なることが示唆されると共に、同じように予測情報の信頼性や識別性を定式化することができるアンサンブル予測情報を用いた利水放流決定の操作規準を作成する上でもこうした点を考慮することが重要であることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画では、まず、アンサンブル予測情報の利水放流決定における利用性分析を、決定論的予測情報や確率論的予測情報を用いた利水放流決定における利用性と比較することで、アンサンブル予測情報を利用するのが効果的な場合を洗い出し、その結果を反映してアンサンブル予測情報を利用した操作手順を設計することを企図していた。しかし、研究を進める上で、予測情報の利用性分析から操作手順の設計までを一連で行う方が効率的であること、ならびに、確率予測情報を利用した利水放流決定に関するシミュレーションモデルがアンサンブル予測情報を利用した利水放流決定に関するシミュレーションモデルと共通点が多い上に、理論的な展開が比較的容易であることから、まずはプロトタイプとして確率予測情報を利用した利水放流決定に関する利用性分析と操作手順の設計を最初に行い、その後、その分析や設計を通じて明らかになると考えられる新たな課題を考慮しながら、当該分析・設計手法を、アンサンブル予測情報を利用した利水放流決定の分析・設計手法に拡張することにした。その結果、当初計画していた研究順序とは異なる手順となり、平成23年度に予定していたアンサンブル予測情報に関する初期の利用性分析については実施できていない一方で、平成24年度に予定していた後期の予測情報の利用性分析については既に検討を行っている。そのため、研究順序は変わったものの、研究全体に対する実施分量としては概して計画していた通りであり、研究は概ね順調に推移していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成23年度に行った確率予測情報を利用した貯水池利水操作における利用性分析手順を、アンサンブル予測情報を利用したものに拡張し、同様の分析を行う。その上で、アンサンブル予測情報を利用した操作規準を設計し、実予報データを用いた貯水池実時間操作支援モデルの開発を行う。具体的には、以下の課題に取り組む。1) 利水放流意思決定におけるアンサンブル予測情報の利用性分析:貯水池の状態、水需給構造、採用する渇水被害関数の差異などによって、アンサンブル予測情報の利用性がどのように変化するのかを分析する。アンサンブル予測情報を決定論的、確率論的、あるいは複数のシナリオとして考慮するのが最も良いのかを分析を通じて検討する。この際、予測情報を決定論的に利用した方が良い場合と確率論的に利用した方が良い場合の閾値については、平成23年度に実施した確率予測情報の利用性分析の結果を参考にする。2) 操作規準の設計:アンサンブル予測情報の利用性分析結果を踏まえて、類型化された予測情報と貯水池放流決定問題との各組合せに対するアンサンブル予測情報の利用手順を格納したルールベースを作成する。3) 操作規準に基づいた実時間操作支援システムの開発:上記2)で設計した操作規準を用い、現業予報データを用いた貯水池実時間操作支援システムの開発を行う。現業予報データには、気象庁が発表している中長期アンサンブル気象予報を利用し、予報状況と貯水池の状態を操作規準に照らしながら最も近いと考えられる操作規準に沿った放流決定を行う過程を構築し、システムに実装する。4) 観測情報との同期過程の構築:観測情報との同期過程を考慮した予測情報の利用手法を開発する。直近のアンサンブル予報メンバのうち、観測状況と近いメンバの予測値をより信頼して操作に反映させるよう、利水放流決定へ考慮する際に予報メンバの主観確率分布を更新する過程を開発する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初計画では、平成23年9月にオーストリア・ウィーンで開催される予定であった国際会議Water Policy 2011に参加し、欧州を中心としたアンサンブル予報研究に関する国際プロジェクトHEPEXの関連研究者などと、アンサンブル予測情報の利用技術について意見交換を行うことを考え、そのための旅費を計上していたが、主催者側の都合で中止となりその後代替の会議も開かれなかったため、平成24年度に改めて情報収集に赴くことにし、当該旅費に相当する研究費については、平成24年度中に予定しているその他の研究活動にかかる旅費と合わせて、平成24年度に使用する予定とした。また、確率予測情報を利用した貯水池操作最適化の計算負荷が予想以上に大きかったことから、アンサンブル予測情報を利用した操作最適化計算の負荷も同様に大きいことが想定される。そのため、特に、実時間での貯水池操作支援を考える場合には、最適化計算の他に操作支援情報を作成する機能が必要となるが、これを当初の計画通りに最適化計算システムと同じシステムに実装することは、計算効率が非常に低下することが想定されることとなった。そこで、この問題に対応するため、平成23年度で構築した貯水池最適放流決定システムの他に、現業予報データを利用する際に、当該システムの計算結果に基づいて貯水池操作官への操作支援情報を作成し、実時間で貯水池操作官に提供することのできる貯水池実時間操作支援システムを新たに構築し、演算をそれぞれのシステムに分散させることで、全体として計算効率を向上させるシステムを構築することとした。当該システムにかかる経費を平成24年度に計上している。そのための経費は、平成23年度の研究費の未使用分を含めて旅費使用を合理化することによって、用意する予定である。そのほか、本研究の成果を国際会議や学術誌において公表するための費用などを計上している。
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