2012 Fiscal Year Research-status Report
温暖化による局地的豪雨の頻発化を想定した人為的豪雨抑制手法に関する数値実験的研究
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23760467
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
鈴木 善晴 法政大学, デザイン工学部, 准教授 (80344901)
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Keywords | 集中豪雨 / 気象制御 / シーディング / 地球温暖化 / メソ気象モデル / 雲解像モデル |
Research Abstract |
本研究は,地球温暖化進行時の豪雨頻発化を念頭に,クラウド・シーディングを用いた人為的豪雨抑制手法の開発とその効果的な実施条件について検討を行うものである.平成24年度は,昨年度に引き続き,線状対流系や都市型豪雨などの豪雨事例を対象としてメソ気象モデルMM5による数値実験を行い,シーディングによる豪雨抑制効果の有無や大小を調査するとともに,抑制効果が得られた場合の詳細なメカニズムについて解析を行った. その結果,実施条件によっては,シーディングにより領域平均降水量や領域最大降水量が減少するケースが少なくないことや,それらが減少しなかったケースにおいても強雨域の面積が減少するなど一定の抑制効果が得られる場合があることを確認することができた.感度分析の観点からは,積雲の発達初期に降水粒子の成長が著しい領域に対して集中的にシーディングを行った場合に抑制効果が得られやすいなど,シーディングの効果的な実施条件について一定の知見を得ることができた. また,シーディングにより豪雨が抑制されたケースでは,雨域の分布が風下側へと移動・拡大する傾向が確認され,その要因について解析したところ,シーディングによって過大に生成された氷晶が降水粒子の成長を抑制する効果を持つために,雪片等の落下速度の小さい降水粒子が上空の風に流されて風下方向へ移流・拡散し,その結果,上記のような雨域の移動や豪雨の抑制がもたらされた可能性が示唆された. 今年度はさらに,次世代型のメソ気象モデル(WRF,CReSS)や温暖化進行時の大気条件を使用したシーディングの数値実験,最新の降雨レーダ(X-MP,COBRA)を用いた局地的豪雨のメカニズム解析などの課題にも取り組み,いずれもいくつかの基礎的知見を得ることができた.次年度は引き続きこれらの課題に取り組むことで,豪雨抑制手法の実用性や信頼性に関する検討を行う予定である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度は,昨年度からの継続課題(下記①および②)と今年度の新規課題(下記③~⑤)のそれぞれに取り組み,いずれも一定の成果を得ることができた.進捗状況はおおむね計画通りであるが,次年度に残された課題として,今後はシーディングによる抑制効果の事後検証や事前のリスク評価など実際にシーディングを実行する際の技術的な課題に関する調査・検討に取り組む予定である. ①「豪雨抑制に適したシーディング実施条件に関する感度分析」:積雲の発達初期に降水粒子の成長が著しい領域に対して集中的にシーディングを行った場合に抑制効果が得られやすいなど,シーディングの効果的な実施条件について一定の知見を得ることができた. ②「シーディングによる豪雨抑制効果に関するメカニズム解析」:シーディングにより過大に生成された氷晶が降水粒子の成長を抑制し,雪片等の落下速度の小さい粒子が上空の風に流されて風下方向へ移流・拡散したことが豪雨抑制の要因である可能性が示唆された. ③「次世代型メソ気象モデルを使用したシーディングの数値実験」:次世代型のメソ気象モデルにおいてもシーディングの数値実験が実施できるようモデルの改良を行うとともに,数値実験の結果,旧タイプのモデルと同様に豪雨抑制効果が得られることを確認した. ④「温暖化進行時の大気条件を使用したシーディングの数値実験」:人工的に作成された大気条件とGCM20 ベースの大気条件を用いた数値実験により,温暖化進行時に発生しうる極端な集中豪雨に対してシーディングの抑制効果がどの程度期待できるのか検討した. ⑤「最新の降雨レーダを用いた局地的豪雨のメカニズム解析」:豪雨発生時における降水粒子の分布構造および大気場の解析を目的とし,XバンドMPレーダによる上空の雨滴粒径の推定,降水粒子の判別およびGPV情報による豪雨発生前の大気場の考察を行った.
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は,今年度からの継続課題(上記①~⑤)に取り組むことで結果の精緻化・高度化を図るとともに,次年度の新規課題として,シーディングによる抑制効果の事後検証や事前のリスク評価など実際にシーディングを実行する際の技術的な課題に関する調査・検討に取り組む予定である. 特に,今年度から取り組みを開始した3課題(上記③~⑤)について重点的に取り組み,豪雨抑制手法の実用性や信頼性に関する検討を行う.複数のモデルを使用してシーディングの数値実験を実施した場合に,異なるモデルであっても同様な変化傾向を示すのかどうか,あるいは,どのような実施条件のときにモデルによる結果の差異が大きくなるのか,などについて検討を行うことで,結果の確からしさを定量化することが可能となる. また,豪雨が発生しやすいよう人工的に作成された大気条件とGCM20 (解像度20kmの全球気候モデル)のデータを基に作成された大気条件を用いた数値実験により,温暖化進行時に発生しうる特定の極端な集中豪雨に対してシーディングの抑制効果がどの程度期待できるのか検討する.さらに,シーディングによる気象制御を年間を通じて継続的に実施した場合に強度別の豪雨の発生頻度をどの程度低下させられるのか,またその効果は温暖化進行時と現在の気候とでどの程度異なるのかなどを明らかにしたい. 一方,抑制効果の事後検証や事前のリスク評価など実際にシーディングを実行する際の技術的な課題に関して調査・検討を行う際には,豪雨発生時における降水粒子の分布構造や大気場の解析が必要となるため,次年度も今年に引き続きXバンドMPレーダによる上空の雨滴粒径の推定,降水粒子の判別およびGPV情報による豪雨発生前の大気場の解析等を実施し,結果の精緻化・高度化を図る.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は,上記のように,今年度からの継続となる5課題に新規の1課題を加えた6課題それぞれを平行して実施する予定であり,課題ごとに様々な条件下における数多くの数値シミュレーションを実行する必要があるため,新たに中古の高速ワークステーション2台と,膨大な計算結果を格納するためのハードディスクを多数購入して,本研究の遂行に必要な最低限の計算機環境を整える. さらに,今年度より新規に導入した次世代型のメソ気象モデル(WRF,CReSS)は,旧タイプのモデルよりもシミュレーションの際の計算負荷が格段に大きく,上記の新規購入分のワークステーションを加えたとしても複数の課題の同時進行が困難となる可能性があるため,京都大学等が所有する大型並列計算機の共同利用申請を検討する. また,次年度は最終年度として,国内外の学会等における成果発表に重点をおくため,当初の計画通り国内旅費および国外旅費を多めに計上するとともに,研究協力者として修士課程の大学院生3~4名に研究補助を依頼するため,データ解析補助等に対する謝金を若干多く計上する予定である.なお,今年度の使用経費を抑えてその残額を次年度へ繰り越したのは上記の理由によるものである.
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