2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23760501
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
藤井 学 東京工業大学, 理工学研究科, 助教 (30598503)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 活性酸素種 / 過酸化水素 / スーパーオキシド / 腐植物質 / 光照射 / 自然水 |
Research Abstract |
過酸化水素(H2O2)やスーパーオキシド(O2-)など活性酸素種は自然水中で反応性が高く、自然有機物質や還移金属などの酸化還元に深く関与しているため、活性酸素種の動態理解は水域生態系を評価するために重要である。自然水中でのH2O2は、主に腐植物質に光が照射されることで生成されることが知られているが、その生成因子や過程は十分に明らかにされていない。このような背景の中本研究は、腐植物質の光化学反応により活性酸素種の主要な生成過程や因子を化学的に解明することを目的とした。既往の研究から、腐植物質の光化学反応によるH2O2の生成では一重項酸素が関与することが推測されている。しかし、本研究では、室内実験において一重項酸素を極端に増減させた系においても活性酸素種の生成が大きく変化しなかったことから、H2O2生成は溶存酸素がO2-さらにH2O2に還元される経路を取ることが分かった。この結果を確認するため、腐植物質存在下で溶存酸素が光還元され、さらに腐植物質の触媒作用によりO2-がH2O2に還元される化学反応をモデル化し、それにより算出されたH2O2生成速度と実測した生成速度の比較を行った。腐植物質によるO2-の還元反応速度に関して既往の報告値を用いると、15種の腐植物質に対しての予測値と実測値の間で正の相関がみられたが、予測値が十倍ほど上回る結果となったため、本研究では、新たにO2-の還元反応速度を決定し、合理的な化学反応モデルを構築した。また、H2O2とO2-の生成速度が、腐植物質中の芳香族化合物の割合と高い相関を示すことが明らかとなった。光照射することで腐植物質中の芳香族化合物部位、特に電子を受け渡す働きのあるキノン基の働きによってO2-、H2O2が生成されていると説明できる。このように実験室にて得られた知見は、野外で得られた湖沼水サンプルのいくつかにも同様に適用することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究はおおむね順調に進展した。過酸化水素やスーパーオキシドなどの活性酸素種は、多様な分子やイオンと高い反応性を示すため、微量であっても金属や有機物質の酸化還元反応や生物利用性に深く関わり、一方生物毒性も示す。従って、活性酸素種の動態を理解することは生態系評価には重要と考えられるが、ダム湖や河川などの自然水中での活性酸素種生成や消費に関わる因子は十分に解明されていない。今年度は、腐植物質と光学反応が活性酸素種の化学的動態に及ぼす影響を解明することを目的とし、様々な標準腐植物を用いた光照射実験の結果、スーパーオキシド及び過酸化水素の生成速度が、紫外線および腐植物質の芳香族部位と高い相関を示すことが明らかになった。本研究のように、自然水中で活性酸素種を対象として、その化学反応速度論を詳細に調べた既往研究は限られており、本研究はこれまでにない新しい知見を提供したといえる。次年度以降は,野外調査なども含めて広範な実水域での検証が望まれる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度は、前年度の実験ならびに野外調査を継続するとともに対象湖沼をさらに1~2つ選定し,湖沼の地域性や季節変化が活性酸素種の動態に及ぼす影響を調査する。さらに、自然水中での活性酸素種の動態や役割、機能について得られた結果を取りまとめ、学会等にて成果の発表を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究では、野外調査により採取した試料を持ち帰り、実験室で化学反応速度の分析に供する。そのため平成24年度においては、実験や調査で使用する消耗品類として、ガラス・サンプリング器具類、一般試薬類、記憶媒体等の物品費として500千円を計上している。野外調査や海外共同研究者との打ち合わせ、学会発表にかかる旅費(宿泊・交通費)として800千円を計上した。野外・実験室での作業を円滑に行うため、調査・実験協力人件費として200千円を計上した。研究成果の執筆や発表に関わるその他費用として100千円を計上した。また、研究をより効率的に遂行するため、平成23年の予算の一部(消耗品類等)を平成24年4月に使用したことをここに記す。
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