2012 Fiscal Year Research-status Report
嫌気性芽胞菌の毒素遺伝子および生化学的性状による分類とより高度な指標としての利用
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23760508
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Research Institution | Prefectural University of Hiroshima |
Principal Investigator |
橋本 温 県立広島大学, 生命環境学部, 准教授 (30332068)
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Keywords | 嫌気性芽胞菌 / 糞便汚染指標 / ウェルシュ菌 |
Research Abstract |
今年度は、昨年度の調査に追加して、牛関連廃水および糞便の調査、人由来排水として新たな下水処理場を対象に、嫌気性芽胞菌および大腸菌の濃度、嫌気性芽胞菌の保有する毒素遺伝子(α、β、β2、ι、εおよびエンテロトキシン)の検索を行った。 累計で人由来排水分離株(3か所の下水処理場の流入水)230株、放流水136株、豚由来排水155株および牛由来129株について検索を行った。人由来、牛由来の排水分離株では分離したうちの90%以上がα毒素遺伝子保有株であり、ウェルシュ菌であると同定されたが、豚由来株では76%とα毒素保有株の割合が比較的小さかった。 β、ιおよびε毒素遺伝子保有株についてはどの試料からもほとんど検出されなかった。 それぞれのソースによって検出率が著しく異なった毒素遺伝子は、人の食中毒の起因菌となるエンテロトキシン遺伝子保有株であった。エンテロトキシン遺伝子保有株は人由来排水では20~40%の頻度、全体では人由来排水(流入水および放流水合計)306株中104株34%の割合で検出されたのに対して、豚では136株中0株、牛では129株中1株のみ検出された。 このように、本年度の研究では、エンテロトキシン保有嫌気性芽胞菌が人由来の排水に特異的に分布していることが示された。これらは当初目指していた、嫌気性芽胞菌をソーストラッキング指標として使用するための極めて重要な基礎的データとなる。すなわち、エンテロトキシン遺伝子を保有した嫌気性芽胞菌の存在が、人由来の糞便汚染の関与を示す重要なデータであると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ヒトおよび家畜(豚および牛)系排水における嫌気性芽胞菌の検出とその遺伝子分類について、当初計画していたとおりの調査が実施できた。また、その結果も計画段階で予測していたように、汚染源ごとに分離された嫌気性芽胞菌の毒素遺伝子の保有状況が異なり、ソーストラッキング指標としての有効性が認められた。 さらに計画段階では補助的な情報と考えていたそれぞれの試料での嫌気性芽胞菌の濃度が、ヒトと家畜由来の排水で大きく異なることが明らかになり、このことについてもソーストラッキング指標としての有効性を高める可能性がある。 これらのことから、本年度の研究のは良好に進行しているものと判断し、達成度評価については「おおむね順調に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度までに研究で、ヒトおよび牛、豚由来の排水から検出された嫌気性芽胞菌の毒素遺伝子の保有状況が明らかになった。今後はこれらの分離した嫌気性芽胞菌の毒素遺伝子についてシーケンスを行い、その差異について調査する。具体的には、ヒト、豚、牛由来の嫌気性芽胞菌の調査を行い、特にエンテロトキシン保有株について、ヒト由来排水での特異的な分布を明らかにしたが、今後はこれらの分離、保存してある100株程度のエンテロトキシン遺伝子について、シーケンスを行ってより詳細な検討を行う。 また、嫌気性芽胞菌のうち、ウェルシュ菌に特有であり、多くの嫌気性芽胞菌でも分離されているα毒素遺伝子の保存してある遺伝子のシーケンスを行う。 これらの遺伝子配列を各種のソースごとに比較を行い、より詳細な情報を得る。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究では、主に保存遺伝子のシーケンス作業に研究費を使用する。また、より広範囲のソースについての検討を行うため、家畜系、ヒト系排水および河川等の広い環境から嫌気性芽胞菌の分離と遺伝子の特定、シーケンスも併せて実施する。従って、嫌気性芽胞菌の分離、定量、PCR等の遺伝子操作に用いる消耗品の購入等に使用する予定である。
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