2012 Fiscal Year Research-status Report
脱着可能なパネル部材により剛性とエネルギー吸収能力を付与した超高靭性型構造の開発
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23760520
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Research Institution | University of Fukui |
Principal Investigator |
井上 圭一 福井大学, 工学(系)研究科(研究院), 講師 (70333630)
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Keywords | 柱 / 袖壁 / プレキャスト / エネルギー吸収能力 |
Research Abstract |
平成24年度には、研究の目的に沿って次に示す内容の研究を行った。 ① 高靱性の柱部材に接合する袖壁パネルの繊維補強法を改良した試験体の載荷実験を行った。連続繊維を用いて袖壁パネルを作成しているが、連続繊維が直交する交点部は接着剤を用いて接合している。よりパネルの変形能力を増すために、交点部分のみ接着するようにこれまでと接着剤の種類を変えた試験体を作成した。その結果、昨年度の試験体に比べ、ひび割れが少なくなったが、エネルギー吸収能力は低下することはないことが示された。 ② プレキャストパネルと柱躯体部の接合部分のコッターの寸法を変えた試験体の載荷実験を行った。昨年度の試験体では、パネルと躯体の接合部分で、損傷が起きてしまう傾向があったため、その接合部に設けるコッター部の改良をめざし、コッターの寸法を変えて実験を行った。コッターの高さを上げ、接合部のせん断強度を上げることを期待した。コッター形状の違いにより、袖壁への力の伝達への影響があることを確認した。 ③ 袖壁パネルのモルタル強度の違いによるエネルギー吸収能力について考察するため、モルタル強度を変えた試験体の載荷実験を行った。本実験の範囲では、袖壁部の耐力にはモルタル強度の影響は小さく、ひび割れ性状が安定しているのは、モルタル強度が低いほうであることから、モルタルを低強度にすることの優位性を示した。 ④ 袖壁部に生じる曲げ変形には、プレキャスト袖壁内の鉄筋では、エネルギー吸収ができないため、その影響を改善するために、袖壁の小口部分に鋼板を接合し、その鋼板を躯体に接合するような接合方法の改良を試みた実験を行った。この補強の結果、耐力・エネルギー吸収能力が改善されることが示された。 ⑥エネルギー吸収能力を有する袖壁付柱をモデル化した地震応答解析において、地震エネルギーが計算できるように解析プログラムの改良を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度に引き続き、今年度は、試験体のパラメータを変えた実験を行うことができた。プレキャスト袖壁パネルの接合部の改良を目指し、袖壁パネルの接合部におけるせん断耐力の向上を目指したコッター寸法の変更、接合部の鋼板による補強を試みて、その接合部の改良による成果が得られた。試験体の数には限りがあり、実験パラメータを多くはできないため、定性的な考察にはとどまってはいる。しかし、今年度の載荷実験により、実験パラメータを変更した場合でも袖壁パネルの力学的な履歴挙動が大きく変わらない傾向があり、モデル化に向けたデータを得ることができた。 地震応答解析については、時刻歴解析において、地震エネルギーの計算ができるように、解析プログラムに改良を加え、ケーススタディを行うことができた。その結果、本研究テーマで開発を行っているような構造システムの有用性について示すことができた。エネルギーの解析ができるようになったことは、計画より進展できたと考えている。 袖壁パネルと躯体との接合部におけるより詳細な力学挙動を分析すること、実験結果をより適切に表すことができる地震応答解析のための袖壁部の復元力モデルを改良することができれば、より詳細な袖壁パネル付柱の力学的性能の検討ができるようになるものと考える。 以上より、全体としてみると、現在までの達成度としては、おおむね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの実験的研究で、袖壁パネルの作成方法の妥当性、力学的な観点からの有効性については確認できたと考えている。これまでの研究で明らかになった解決すべき課題は、プレキャストパネル部と躯体の接合部の設計の問題である。前年度に、接合部の改良を行った試験体も作成し、この試験体はこれまでのコッターのみを使った接合部よりプレキャスト壁の広い範囲にひび割れが生じ、壁パネル全体でエネルギー吸収できることを示すことができた。しかしながら、接合部分でのひび割れも見られ、まだパネルのエネルギー吸収能力を向上させられるようなさらなる改良の検討をし、実験的にその評価を続ける必要があると考えている。本研究に使うことができる研究費、時間、マンパワーを有効に使って、可能な範囲で追加実験を行っていく。 高靱性の柱を有する建物に低強度高靱性の袖壁パネルを設置した場合の地震応答低減効果について、時刻歴応答、エネルギー応答についての解析が可能なようにプログラムの開発を行っている。今後は、袖壁部の復元力特性の改良、また解析結果について定量的な評価を行って、解析的な評価をまとめていく予定である。 次年度が本課題の最終年度であるため、①実験的研究、解析的研究による低強度高靱性袖壁パネルの有効性、②袖壁パネルの作成方法の提案、③超高靱性型構造物の有効性とその評価、について取りまとめていく予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
プレキャストパネルと躯体部の接合部についての改良が必要と考えているので、次年度は、接合部をパラメータにした試験体の作成を行い、載荷実験を行い検討していきながら、より構造性能の優れた接合部の提案を目指す。躯体となる柱梁部分の試験体は、昨年度作成したものを使用できるので、袖壁パネルと接合部の作成にかかる材料費、工具などの消耗品が必要となる。 また、次年度が本研究課題の最終年度となるため、研究とりまとめを行う際に必要な、データ保存のためのメディアや文具などについても使用予定である。 また、これまで得られた成果をとりまとめ、研究成果を発表し、研究のまとめに向けてさらなる情報収集を行うために、国内の学会に参加予定であるが、そのための旅費として使用する。 実験、解析とも学生の協力が必要となるため、謝金を使用する。
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Research Products
(4 results)