2011 Fiscal Year Research-status Report
緑化建築物の省エネ効果を最大化するための熱・水収支的な熱負荷軽減量評価技術の開発
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23760552
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Research Institution | Osaka Institute of Technology |
Principal Investigator |
高山 成 大阪工業大学, 工学部, 講師 (40403373)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | ヒートアイランド / 緑地 / クールスポット |
Research Abstract |
都市域の市街地において移動気象観測を行うことにより、観測対象街区の詳細な気象環境を把握する。また、市街地域における気象観測に基づいて、点在する緑地の暑熱緩和効果を検証する。今年度は、九州地域最大の都市である福岡県福岡市の市街地域を対象として、市街化区域に点在する公園緑地や大小の河川が、暑熱緩和ゾーンいわゆるクールスポットとしてどの程度機能しているか検証した。日中に最も気温が上昇した第一グループ(内陸部)と気温が低かった第三グループ(沿岸部)において、日中最高気温差は1.6℃あった。すなわち、沿岸部は内陸部と比較して日中の昇温が抑えられ、相対的に涼しいエリアであることが分かった。一方、夜間最低気温については、最も高かった第一グループ(沿岸部)と最も低かった第三、第四グループ(内陸部)との差は1.1℃であった。すなわち、沿岸部は内陸部と比較して夜間の気温低下が抑えられ、相対的に暑いエリアであることが分かった。各緑地と市街化区域の観測点との有意差検定を行った結果、内陸部の公園緑地の夜間については全市街化区域に対して有意に低い結果が得られており、クールスポットとしての役割を十分に発揮していた。緑地公園と近隣の市街化区域に観測点を設置した10か所で、日中最高と夜間最低の気温を2地点間でそれぞれ比較した。その結果、10か所中日中に有意な差が出た地点が3点に対し、夜間は6地点と多くなっており、夜間の公園緑地において特にクールスポット効果が大きいことが示唆された。福岡市街地域を流れる那珂川の風の道としての機能を検証したところ、日中、河川の上流にいくにつれ気温は高くなる傾向にあったが、グループ分けによって抽出した沿岸部と内陸部の局地気象的な気温差1.6℃より小さく、日中は河川が風の道として機能して気温上昇が抑えられていた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は夏季の福岡市の市街地域における気温の日変化パターンの解析を改めて行った。具体的には、沿岸部と内陸部の局地気象的な気温差、大規模屋上緑化物(アクロス福岡)を含めた点在する公園緑地のクールスポット効果、那珂川の風の道としての昇温抑制効果の三点に関して、気象統計の観点から検証を行い気温差を統計的に示すことが出来た。これらの知見については2012年度に順次発表していくが、上に示したような新規性のある知見が得られたと考えている。都市緑化面積が着実に増加する中,水資源管理の観点から都市緑化植物が必要とする水消費量について定量的な評価を行う必要がある。本応募研究では、ア.都市キャノピー内の緑地環境における放射・熱環境評価モデルの構築、イ.植生の水消費量の算定法の確立、ウ.ヒトの温熱感覚を基準とした都市熱環境評価方法の確立、の3点を目的としている。すなわち、都市域の緑地・緑化建築物を、ヒートアイランド現象を緩和する手段のひとつと位置づけ、その水資源要求量に対して得られる暑熱環境の改善効果を定量化する手法を、開発・提案するものである。今年度はテラス設置型の緑化物を実験対象として、植物体の水消費量の算定方法を提案した。緑化植物の水消費量の定量化については、「蔓性植物ノアサガオを使った夏季の壁面緑化による水消費量の算定;日本建築学会環境系論文集発表予定」の結果が活用できる。福岡市の中心街区にある大規模屋上緑化建築物「アクロス福岡」については水収支観測を実施している。引き続き大規模屋上緑化物の土壌・植生面からの蒸発散量および水資源要求量の評価法の開発に着手できる。
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Strategy for Future Research Activity |
屋上・壁面緑化では可能な限り雨水を利用した無灌水で可能な構造とすることが望ましい。しかし現実的には,建築物のバルコニーなどでプランタ等を用いた人工土壌による生育基盤を使用する場合や,パネル型などの薄層基盤等で高低差のある大規模な面積の壁面を緑化するような場合には,効率的な灌水設備の設置は緑化植物の良好な生育を維持していく上で必要不可欠の要件となる。そこで,都市域にあるRC造りの建築物を実験対象として,蔓性植物を使用した登攀型の壁面緑化を施工し,植物体の水消費量の算定を行う。さらに気象・生育に関する条件および植物生長量などの環境要因を考慮して,壁面緑化植物による水消費量を推定する手法について検討する。大規模屋上緑化建築物の植栽ガーデンについても、人工土壌・植生からの蒸発散量を、人工衛星を用いた地表面熱収支解析、人工土壌の土壌水分の観測データに基づくZFP法の2種類の方法により求め、結果の妥当性を検討していく。降水量に対する流出量と土壌保水量の残差より、蒸発散量の推定値の妥当性を検証した上で、タンクモデルを併用して植栽ガーデンの流出特性を取り込んだ、水収支モデルを構築する。ヒトの受ける熱ストレスを把握するためには、人体が吸収する全放射量を評価する必要がある。黒球温度と気温との差から平均放射量を算定する方法を提案し、これを使って屋内環境における貫流熱負荷を相当外気温度と室温との差から推定する方法を提案する。さらにこれまで扱ってこなかった、発汗後の湿潤条件における熱的な快適性を定量的に示す新たな指標の開発を検討していく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究事業に必要な物品の購入および気象観測はほぼ予定通り実施している。本年度からデータの解析および結果の発表に注力する。発表予定の論文のリプリントや校閲、若干の消耗品、成果の学会発表における旅費に研究費を使用する。
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