2012 Fiscal Year Research-status Report
昭和前期における「遊覧都市」の空間計画に関する研究
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23760565
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Research Institution | Wakayama University |
Principal Investigator |
永瀬 節治 和歌山大学, 観光学部, 講師 (10593452)
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Keywords | 昭和前期 / 観光 / 都市計画 |
Research Abstract |
今年度は、本研究が対象とする遊覧都市のうち、南九州において戦前期から盛んに観光振興に取り組んでいた宮崎市に関する資料調査を進めた。宮崎県立図書館所蔵の郷土資料、戦前期の新聞記事とともに、宮崎県文書センター所蔵の昭和初期の都市計画宮崎地方委員会の議事録をはじめとする計画文書を渉猟した。宮崎は明治期に県庁が置かれて以降の新興都市であると同時に、神武天皇の降誕の地として、宮崎神宮をはじめとする記紀神話に縁の観光資源に恵まれており、またそれらは戦前期の皇国史観にも適合する資源でもあったため、「神都」「祖国」を掲げた観光振興が展開された地域である。そうした時代状況のもと、当時の先進的な内務省技師の尽力により、欧米の田園都市論と、史蹟や風景地に恵まれた宮崎の地域性を活かすような都市計画が策定されていたことが明らかとなった。これらの宮崎に関する研究成果については、『日本建築学会計画系論文集』への投稿準備を進めている。 また全国的な動向との関連においても、「神都」を掲げた都市の計画として、伊勢神宮を擁する宇治山田市のいわゆる「神都計画」との影響関係、さらには既に研究成果のある紀元2600年記念事業による橿原神宮周辺の都市計画との相対化を行うことで、当時の観光資源を活かした地域振興の潮流が明らかになりつつある。 さらに城下町を基盤とする松江市に加え、和歌山市についても、一面においては和歌山城や和歌浦をはじめとする史蹟名勝を活かした取り組みが行われており、当時の観光案内図やパンフレット、さらに都市計画関連の資料収集を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
これまでに、事例調査としては大津市、宮崎市についてほぼ完了するとともに、松江市と和歌山市(平成24年度に新たに対象地に追加)について、また仙台市についても一部資料収集に着手している。また欧米の影響を受けた東アジアの近代都市計画のあり方を捉える上で、遊覧対象としての西湖景勝地を活かした中国・杭州の湖浜地区計画についても検討を行った点は、昨年度に報告した通りである。 また年度内の事例調査を予定していた奈良市については、戦前の都市計画に関する一定の研究蓄積があることから、これまで検討を進めてきた大津市の遊覧都市計画、さらには京都市の動向との関連から、当初の目的の4番目である広域的な観光計画(もしくは「観光圏」構想)の観点から継続的に検討を進める必要がある。 平成24年度は勤務先の移動もあり、十分な調査期間を確保することができておらず、当初予定していたスケジュールに遅れが生じている。また本研究の事例調査で扱う史料として、都市計画関連の公文書以外に、地域社会の文脈を把握する上で新聞記事などの多様な情報源を把握する必要もあり、資料・情報の見極めも含め、予想以上の時間を要している。このため調査スケジュールや対象地の見直しも進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度となる平成25年度は、事例調査については松江市・仙台市を中心に進める予定である。さらに複数の「遊覧都市」の計画内容を比較・相対化しつつ、戦前期の計画の到達点について総括を行うこととなる。当初予定していた対象都市のうち、松山市については、城下町を基盤とする都市として新たに和歌山市を取り上げている点、さらに同様の城下町基盤の都市として、松江市、仙台市を取り上げていることから、事例調査の対象からは除外することとしている。 一方、1933年以降に都市計画法の適用が可能となった小都市(町村)についても、中には有力な観光資源を擁することから、誘客を前提にした街路整備や風致地区指定等が行われている事例が確認されており、それらについても資料収集可能な範囲で一定の事例整理を行うことで、戦前期の動向の多角的な把握が可能になるものと考える。 これらについて、詳細な事例調査については現地での資料収集が不可欠であるが、公文書館のデジタルアーカーブや、観光関連史料についてはインターネットを通じた収集も可能である。その他、夏期などの授業休業期間を活用して集中的に作業を行い、成果を取りまとめる予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度分の残額が生じた理由として、勤務先が東京から和歌山へ移動した関係で、当初想定していなかった用務や東京等への出張が複数発生し、研究遂行のための旅程を十分に確保することができず、旅費に残額が生じた点、また購入を想定していた関連文献・資料に入手困難なものがある一方、デジタル化や複写により入手可能なものもあり、それらの購入費に変動が生じた点が挙げられる。 次年度使用額について、物品費として関連文献・資料購入やデータ整理物品の購入に100,000円、事例調査の対象地の一つである松江市への旅費(2泊3日)として51,000円、資料整理のための謝金(2人×4日)として72,000円、計223,000円を使用する予定である。
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Research Products
(1 results)