2012 Fiscal Year Research-status Report
小規模住民組織を通したアジアのコミュニティ開発に関する計画論的研究
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23760588
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Research Institution | Toyo University |
Principal Investigator |
川澄 厚志 東洋大学, 国際地域学部, 講師 (00553794)
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Keywords | 都市計画 / 地域開発 / コミュニティ開発 / 住環境整備 / 小規模住民組織 / 都市貧困層 |
Research Abstract |
本研究の目的は、CODI支援の住環境整備事業に参加しているタイの都市貧困層コミュニティの内部で組織化されている小規模住民組織を対象に、コミュニティ内の小規模住民組織が住民の内発的なニーズによって選択的に環境が整備できる実践的な開発手法であることを、事例間の比較を通して計画論的視点から分析・評価し、コミュニティ開発の方法論として構築することである。これは地域コミュニティを自立的に持続可能な発展をさせるための開発手法として、アジアのコミュニティ開発の発展に資することを最終的な目標としている。 平成24年度は、これまでの現地調査から得られたデータの整理及び、分析を行うとともに、2012年8月と2013年3月にタイのバンコクで現地調査を実施した。また、これまでの成果は、2012年11月に、川澄厚志・藤井敏信「コミュニティ開発における小規模住民組織を単位とした開発手法の有効性に関する比較研究‐タイ・ソンクラー県・ガオセン地区の事例を主に‐」、『都市計画論文集』、日本都市計画学会、No.47-3、pp.1051-1056、の査読付の学術論文としてその成果を公表した。 この学術論文では、小規模住民組織を単位としたコミュニティ開発の手法は、「均等型の開発手法」と「不均等包括型の開発手法」に分けることができることを示した。また、タイにおけるCODIの関与するスラムコミュニティ開発は、従来コミュニティ全体を対象とするものであり、オンサイトの開発では土地分有事業(ランドシェアリング)、区画整備(ブロッキング)等を応用したさまざまな手法がコミュニティの状況に応じた展開されてきた。これに対しこの小規模住民組織を単位とした開発手法は、こうした事業を円滑に行う目的で新たに2003年に導入された試みであり、いわば開発整備事業を遂行するためのツールとして位置づけることができると示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
マイクロクレジットを実施している都市貧困層コミュニティにおける自立型開発(関係団体の支援のもとに住民が自ら主導する開発)の展開事例の収集とその類型化をおこない、モデルとなるコミュニティを選出する必要があるが、これらの展開事例は、すでに研究代表者がこれまで継続的な現地調査を実施しているバンコク都のボンガイ地区、ルアム・サーマッキー地区、ガオ・パッタナー地区、チャルーチャイ・ニミットマイ地区、クロントゥーイ7-12地区、クローン・ラムヌン地区、ソンクラー県のガオセン地区、ウタラディット県のブン・クーク地区、ラヨーン県のレーム・ルンルアン地区、の計9地区を調査対象地域として選定している。上記を調査対象地域として、平成24年度は、前年度に引き続き、次の①から⑦を進めた。①それぞれの展開事例の特徴を整理し、小規模住民組織を組織化するに至った経緯、理由を明らかにする。②住環境整備事業とコミュニティ活動へ参加した住民の経済・社会属性を明らかにする。③展開事例における小規模住民組織の組織化の目的と方法を明らかにする。④小規模住民組織を単位としたコミュニティ開発における計画立案段階から評価段階までの一連の開発プロセスを分析する。⑤ ①~④の調査をもとに、小規模住民組織を単位としたコミュニティ開発の特性及びその位置づけを考察する。⑥小規模住民組織からコミュニティ全体、さらには外部関係者間との関係性について明らかにし、ガバナンスについて分析する。⑦展開事例間の小規模住民組織の形態や特性の比較を通して、計画論的視点から、その効率性と持続性について分析評価し、今後の展開について追究する。上記は、過去に得たデータと現地調査で収集した資料(タイ語)から随時分析を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
「11.現在までの達成度」で示した現地での調査、資料収集の必要な展開事例において研究調査を継続させる。開事例における現地調査に加え、パキスタン、インドネシア、バングラデシュの先行研究との比較し、最終的にはアジアのコミュニティ開発に資する新たな開発手法として、今後の都市域の持続的な発展を考慮しつつ、自立的な地域コミュニティの形成をさせるための方法論を構築していく予定である。 加えて、住環境整備事業でみられた「目的遂行型」と、生活環境改善のためのセービング活動でみられる日常に組み込まれた「テーマ型」の二つのタイプの小規模住民組織に区分して、相互の関連をみていく必要がある。そこで、各活動主体での資料情報等の蓄積が不十分で、平成25年度においても現地での調査、資料収集の継続が必要であり、上記調査対象地域にはないが、BMP事業の後発であるバンコク都サートーン区に立地しているスアンプルー地区でも現地調査を実施する。その理由として、当該地区では火災をきっかけにNHA(National Housing Authority)主導の住環境整備事業とBMP事業とでコミュニティが二つに分かれた経緯があり、それを比較することで、マイクロクレジットを基盤としたコミュニティ開発の手法の特徴について把握することができると考えている。 本研究では、アジア地域において発展に向けた研究を行い、その成果がパイロットスケールで実践されることにより、将来大規模な自立型開発が起こる道筋を示すことができる。また、調査研究で得た知見や分析結果を書籍、学術論文等の刊行物とすること、国内外の学会や研究会等での報告すること、ホームページを作成し情報発信していくこと、により日本のまちづくり、開発援助やNGO活動等の活性化につながる情報が提供できる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究費の繰越が生じた2013年3月12日~26日のタイ現地調査における業務委託費(通訳代、車両借り上げ代)80,000円は、年度末の出張であることから会計システム上、2013年4月に支払うとの連絡を受けている。 平成25年度の研究費使用計画であるが、本研究は海外での現地調査を通して成果を挙げることを目的としているので、全研究費の中に占める旅費交通費の割合が高くなっており、研究代表者の渡航費用が全体の約50%となる。この費用の年度ごとの総額については、継続的な活動を行うために恒常的な確保を図りたい。 また、謝金等は、現地調査から収集した資料の整理、調査先との連絡などで必要となる経費を計上している。ソンクラー県など地方へ行く場合、現地においてタイ人の通訳を雇用する。その理由は、研究代表者は、すでにタイで調査を遂行するために必要なタイ語を習得しているが、地方では発音や語彙まで違う場合があるためネイティブが必要になってくる。車両借り上げ代についても、地方の場合、交通手段を見つけるのが困難であること、治安が不安定であること、などの理由から経費として計上している。
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